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【中国経済レポ−ト】
【中国経済レポ−ト】
2010年上海万博以降は要警戒

多摩大学教授 沈 才彬
『産業新聞』2008年8月28日

多摩大学総合リスクマネジメント研究所が主催する「オリンピック後の中国」3回シリーズの第二回目が、8月28日都内で開かれた。多摩大学経営情報学部教授、同研究科教授の沈才彬氏を講師として招き、「北京オリンピック後の中国経済の行方」を題とした講演が行われた。同氏は「中国経済の見通しは明るい」とした上で、「警戒すべきは2010年上海万博以降」との見解を示した。

 沈氏はまず、北京オリンピックについて触れ、「開催前は様々な懸念があったが、一応無事に終了した。成功した」との見方を示した。その上で、印象に残ったこととして「中国人の日本に対するイメージ、好感度の向上」を挙げ、その背景には日本のスポーツ選手の努力(例えば、北京五輪開会式に日本選手団は日本国旗、中国国旗両方をもって入場)や政府首脳による信頼関係の構築、日中関係の改善などがあったとした。

 次に同氏は、北京オリンピックの位置づけについて、「先進国脱皮への成人式」との見方を示した。同氏は1964年東京、68年メキシコ、88年ソウル五輪の実例を挙げ、オリンピックを挟んだ15年前後、それらの国々が「高度成長の果実」を享受し、先進国入りを実現したことを指摘した。

 中国経済の現状についての説明では、「中国は『内憂外患』にさらされている」として、「内憂」についてはチベット暴動、四川省大地震、バブル崩壊などを挙げ、それらが経済に与えた影響を解説した上で、「中国政府は一番懸念している材料はインフレだ」と述べた。2008年インフレ率の政府目標は4.8%に対し、1−6月期で7.9%となっており、「目標実現は不可能」となっている現状を説明した。「外患」としては、米景気後退の影響が波及して、中国経済成長が失速することに懸念を表明した。

 オリンピック後の中国経済の行方について、同氏は「過去の経験則から反動はある。1.5−2%ほどの低下は避けられない」として、2007年11.9%に対して、08年のGDP成長率は10%前後までやや減速するとの予測を示した。

 ただ、北京オリンピック後の09年、10年の経済成長率が8%を下回るシナリオについて、「確率は低い」として、その理由を「五輪関連の投資は年平均で450億元程度だが、これは中国の年間投資額の1%」とオリンピックの投資効果自体が限定的であったことを示唆した。その上で、09年は8%台、上海万博開催の10年は9%になるのではないかと予測した。

 また、沈氏は10年の上海万博以降は、中国経済への警戒が必要とし、「五輪、万博という2つのビッグイベントが終わり、それまで蓄積していた国民の不満が噴出する可能性がある」とその理由を説明した。そうした上で、同氏は「2013年は特に要注意の年」と述べた。この年は政権交代の年にあたり、権力闘争や不測事件への対応遅れが起き易い。また、同年に中国のGDPは日本を凌ぎ世界第二位の経済大国となるとの見通しから「米国によるチャイナバッシングが強まるのでは」との観測を示した。