【中国経済レポ−ト】
「中国沈没」は起り得るか?―『中国沈没』(三笠書房2008年3月)のまえがき―
沈 才彬
07年、中国は11・4%という世界トップレベルのGDP成長率を記録し、03年から5年連続で10%超の成長率を達成した。
現在の中国の経済規模は、ドイツと肩を並べるほどにまで拡大、GDPは世界第4位である。そして私の試算では、2013年には日本を追い抜く。
国土面積960万平方キロメートル(日本の約25倍)、人口13億人を抱える巨大大陸国家・中国――その急成長は、まさに驚異的であるといっていい。
では、中国の高度経済成長は、この先どれだけの期間続いていくのだろうか?
経済は生きものである。それゆえ何が起こるか予断できないが、一つだけいえることがある。それは、この高度成長が永久に続かない、ということだ。
80年代後半から90年代初頭にかけて、日本はバブル景気に酔いしれた。誰もが好景気が続くことを望んだが、しかし、バブルは容赦なく弾けた。日本経済はその後、10年にわたる長期不況の谷底に突き落とされることになる。
90年代前半、好調な経済成長を続け、「アジアの奇跡」とまで言われたASEAN諸国だが、97年に通貨危機が発生すると、あっという間にマイナス成長に陥った。この危機は、ASEAN諸国に大きな傷跡を残した。
サブプライムローン問題の感染≠ェ止まらないアメリカ経済も、これから景気後退に突入していくとみられている。また、このサブプライムローン問題は、世界的な金融不安と株価下落を引き起こしており、いま、世界経済は予断を許さない状況に置かれているのだ。
現在、世界経済において圧倒的な存在感を示すようになった中国。しかし、多くの問題を抱えながら膨張しているのが中国経済の実態である。
もし、中国経済が沈没してしまったら、どうなるか。世界経済は未曾有の混乱に見舞われることになるだろう。将来的に引き起こされるであろう中国経済の浮沈は、中国との関係を年々深めている日本に多大な影響をおよぼすことは間違いない。
そこでいま、冷静な視点で中国を捉え、今後考えうるシナリオを検証することは、中国と関わりのある日本企業だけでなく、日本という国全体にとっても非常に大切なこととなる。
私は、三井物産戦略研究所というシンクタンクの中国経済センターにおいて、長年にわたり中国経済の動向調査や分析などを行なってきた。
当センターでは、中国でのビジネスに関するコンサルティング業務も行なっており、私は仕事を通して中国経済への関心の高まりを日々実感できる立場にいた。
07年、ある大手メーカーからコンサルティングの依頼を受けたことがあった。このメーカーはすでに台湾とロシアに進出しており、現地で大きな工場を操業している。この会社が製造している製品は、すでに台湾とロシア市場において最大のシェアを獲得していた。
この企業がコンサルティングを依頼してきた理由は、
「現時点で考えられるベスト
からワーストまでのシナリオを提示してもらうことによって、いまのうちから対応策を講じておきたい」
ということからだった。
台湾経済もロシア経済も、このところ中国経済との結びつきを強くしている。もし将来的に中国経済が沈没するようなことになれば、必ず両経済にも飛び火する。そうなればこの企業も大きなダメージを被ることになるだろう。
こうした依頼は、ここ数年増加しており、中国経済に対する日本企業の期待が大きい反面、不安もまた大きいということを如実に表しているといえる。
急激な勢いで成長する中国だが、その繁栄の裏には多くの危機が潜んでいる。「光」と「影」を抱えたまま、とてつもないスピードで疾走しているのだ。
もし、今後も発展を遂げていく過程において、「影」の部分がいま以上に色濃くなるようであれば、「光」の部分である経済成長の頓挫も十分起こりうる。これは絶対に避けなくてはならない。本書に『中国沈没』というタイトルをつけたのも、いまの中国のあり方に対して、問題提起を行なう必要があると考えたからである。
中国には「居安思危」という諺がある。この諺には、平時に有事を想定し、危機管理を徹底するという意味がある。
いまの中国にとって必要なのは、まさにこの「居安思危」である。近い将来、中国が沈没するようなことになれば、このところ続いている10%を上回るGDP成長率が、一気にマイナス成長へと転落する可能性も否定できない。それを回避するためにも、中国は自国の状況に対して危機意識を持たなくてはならないのだ。
本書では、中国に内在する「光」と「影」の両方に焦点を当て、読者が中国の真の姿により迫ることができるよう努力した。いまの中国が置かれている状況を理解するための手助けとなることを著者として願っている。