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【中国経済レポ−ト】
【中国経済レポ−ト】
講演抄録 中国経済の現状と課題

沈 才彬

2007年10月18日、静岡県県政研究会は沈才彬・三井物産戦略研究所中国経済センター長を招いて、講演会を開催。演題は「中国経済の現状と課題」。石川県知事をはじめ県幹部職員が約150人出席し、熱心に聴講しました。次は沈の講演抄録です。

●はじめに 胡錦濤政権の「知的武装」

まずは、静岡県勢研究会から私が思うことを話させていただきます。

この研究会の趣旨は「時代の変化を的確に把握し、円滑な行政運営を推進する」と伺いました。つまり、静岡県だけではなく、日本全国の情勢、あるいは、世界全体の情勢を把握し、広い視野を持って円滑な県の行政運営を推進するという非常に素晴らしい趣旨です。

中国でも同様な勉強会を中国の執行部、中国共産党政治局で実施しています。中国共産党政治局の今のトップは胡錦濤さんですが、2002年の11月に彼が就任し、一番、最初に行った仕事が中央政治局勉強会です。これは中国で前例のないことを提案したわけですが、その趣旨は静岡県勢研究会の趣旨と似たようなものなのです。

「時代は今、速やかに変化している。だから、その時代の変化を的確に把握して危機管理能力を強化し、円滑な政経運営を促進する」これが中国共産党の中央執行部の勉強会の趣旨です。一言でいえば、執行部のメンバーたちを知的武装することです。

具体的には1回目の会合で、胡錦濤国家主席はこの勉強会の趣旨を次のように説明しました。彼曰く、「今、社会各分野の発展は、日進月歩。人民大衆の実践創造は多様多彩。もし各レベルの幹部たちが、勉強をせず、勉強を持続せず、あるいは、真剣に勉強をしない、すると必ず落後をする。必ず我々の担う重責に応えることが出来ない。そのことを全ての幹部たちは理解しなければいけない。合格である指導者、合格である管理者になるためには、必ず勉強に力を入れること。人類社会が創造した豊富な知識を持って、自分を充実させなければならない。」これが胡錦濤さんの発言です。この趣旨で勉強会を発足し、年間8回から10回のペースで運営され、今年の9月29日までの5年間で合計44回の勉強会が開催されました。

勉強会のテーマは、1つ目は中国が直面する内政・外交の最重要課題です。2番目は、中国の長期戦略ビジョンに関わる課題、それから3番目は「国際情勢、世界政治・経済・科学技術の最新動向」です。過去5年間、合計44回勉強会のうち、半分前後が「世界情勢」のテーマで行われました。

勉強会の講師はその研究分野の第一人者、あるいは権威ある研究者たちが招かれます。過去5年間、合計89人の著名学者が講師として招かれ、その内、複数の方が私の友人、知人、あるいは大学院時代の同級生でした。

関係者の話によると、大体1回の勉強会に講師は2人で、2ヶ月前に中央執行部の事務局から連絡があり、その講師が所在する研究機関を総動員して資料収集し、原稿を作るのです。原稿は何回も繰り返し修正し、最後、中央政治局事務局の方が審査をする。そして講演当日、講師の持ち時間は1人に40分ずつ、それは原稿を棒読みで、その後、質疑応答時間が約30分。その時は自由活発に発言し、議論します。最後は、胡錦濤さん自らが総括的な発言をして、重要指示を出すというわけです。

中国共産党執行部の多くの重要な決断は、勉強会を開催し、その後の政治局中央執行部の会議で決断をしているわけなのです。

例えば、最近のテーマは金融問題でした。アメリカのサブプライムローン問題で金融リスクが高まっている問題です。これからの金融改革はどう進めていくかという問題について勉強会を開き、その結果、胡錦濤さんが重要な指示をしているのです。要するにこの勉強会を通じて中国政府の政権運営能力を強化しているわけです。問題が起きれば迅速に対応してその対応策を打ち出す、あるいは予防策を打ち出す。これが勉強会の趣旨なのです。

静岡県の県勢研究会と中国の中央執行部の勉強会に共通するものは、「時代の潮流、時代の変化を的確に把握する。円滑な行政運営、円滑な政権運営。」、つまり、政権担当能力を強化することが共通点で、時代の流れということは、世界に目を向けるということです。

昨年の2月、静岡県湖西市長の三上さんの招きで、湖西市で講演させていただきました。その時、トヨタの創業者、豊田佐吉の記念館に案内され、私は「障子を開けてみよ、外は広いぞ」という豊田佐吉さんの言葉に非常に感動を受けたのです。これは、まさにトヨタの原点で、世界に目を向けること、これが今のトヨタの、世界のトヨタの原点です。 この3つの事例を、点と点で繋げると線が見えてきます。つまり、世界、グローバルな目線が見えてくるのです。

さらに、線と線とを繋げると面が見えてきます。つまり、世界全体が見えてくるのです。

これはまさに、今、我々が求められる姿勢です。外向き、そういう姿勢が求められています。

●急速に台頭する中国とどう向き合うかが世界中の課題

本題に入ります。今日の演題は「中国経済の現状と課題」です。

まず、1つ目は、中国経済を論じるには、やはり政治です。中国では政治と経済は緊密な関係にあり、政治の動向抜きにしては、中国経済は語れません。最初は中国の政治動向です。

2つ目は、今、中国経済は非常に好調ですが、その一方で過熱気味な状態です。つまり過熱経済の行方がどうなるかと、これが2つ目です。

3つ目、中国は高度成長が続いていますが、私の表現でいえば爆食型成長です。爆食とは、必要以上に素材とエネルギーを大量消費していることです。そこで、中国爆食経済の行方が日本経済、あるいは我々日本企業にとって、どういう影響があるかということについてお話しします。

それから4つ目、中国経済はどういう課題を抱えているかということです。

最後は日本が少子高齢化時代を迎えている現在、どういう視点、どういう戦略が必要なのか、特に静岡県の空港があと2年弱で開港されるそうですが、それに向けてどういう視点が必要なのかということを、あくまでも私個人的な見方ですが述べさせていただきます。

本題の「中国の政治・経済動向」の説明に入る前に、台頭する中国とどう向き合うのかについてまず説明させていただきます。

今、中国は急ピッチに台頭しています。そのスピードの速さ、スケールの大きさは、我々の想像を遥かに超えています。具体的には3つの実例を交えて説明します。

まず1つ目は携帯電話です。私が永住する形で日本に来たのは1989年ですが、その年の中国の携帯電話の保有台数は、わずか1万台で非常に少なかったです。中国政府は、携帯電話の保有台数を2000年までに80万台に増やす計画を策定しました。ところが、2000年を過ぎてみれば、中国の携帯電話保有台数は、なんと8000万台を越してしまい、つまり、中国政府の計画の100倍に相当する規模まで増えてしまった。ちなみに、今年の6月末時点では、なんと5億2000万台です。日本の5倍ぐらいです。

にもかかわらず、まだ、普及率でいえば40%台です。中国は13億人の人口ですから、これからさらに拡大する余地が充分あるわけです。

2つ目の実例は自動車です。同じく私が日本に来た1989年、その時の自動車は少なく、特に乗用車は僅かでした。当時、乗用車に乗れる人は高級幹部で、中央官庁の局長以上の幹部が乗れるような状態で、つまり、乗用車は人の身分の象徴、シンボルで高級幹部しか乗れない交通手段でした。ところが、昨年の中国の自動車新車販売台数は、なんと721万台で、その内の乗用車の販売台数は385万台です。日本を上回って世界第2位の自動車消費大国になったのです。

にもかかわらず、今、中国の自動車普及率はまだ3、4%で、5%までもいっていません。私の試算ですが、2010年には、おそらく新車販売台数は1000万台を突破する見通しです。アメリカに迫る勢いなのです。中国が自動車の消費大国「日本」を上回って、世界第2位の自動車消費大国になることは、20年前、30年前、誰も予測出来ませんでした。

それから3つ目は日本の貿易構造の米中逆転です。

戦後、日本にとって最大の貿易相手国はアメリカでした。ところが、2004年から最大の貿易相手国は、アメリカではなくて中国になった。これも、20年前、30年前、誰も予測出来なかったことです。

今、中国は、誰も予測出来ないスピードで台頭している。そのため中国を巡りさまざまな問題が起き、さまざまな摩擦が起きている。

原因もさまざまありますが、1つの重要な原因は中国の台頭が急速で、誰も予測出来なかったことです。日本は予測できなかった。アメリカもヨーロッパも予測できなかった。中国政府自体も予測できなかったのです。世界中、心の準備が出来ていなくて、まさに中国の衝撃だったのです。ですから、急速に台頭する中国とどう向き合うかは、これからの世界中の問題です。日本1国だけの問題でなく、日米を含む、世界全体の課題なのです。

さらにマクロ的な話になりますが、中国の台頭が、いかに急速に台頭しているかを、日本と比較して具体的なデータを申し上げます。

例えば、中国がWTOに加盟したのは2001年12月ですが、その年の中国の経済規模は、僅か日本の4分の1しかありませんでした。ところが、昨年、中国の経済規模は日本の6割に相当するようになった。私の試算では、今年か来年、ドイツを抜いて世界第3位になり、2013年は日本を抜いて世界第2位になるのです。

それから、2001年時点では中国の輸出・輸入及び外貨準備高がいずれも日本の5割前後でしたが、昨年、中国の輸出は日本の1.5倍、輸入は日本の1.3倍、外貨準備高は日本の1.2倍になったのです。いずれも日本を遥かに上回った規模になったのです。特に外貨準備高は今年9月末時点で1兆4000億ドルです。日本は9千数百億ドルですので、日本より約5000億ドルも多く、中国は、今、世界の最大の外貨保有高をもつ国になったのです。その膨大な外貨準備高を持って、中国はこれからどうするのかが世界的に注目されています。

今、中国では、中国投資公司を、つまり、外貨を運用する投資会社を発足し、この膨大な外貨準備高を持って外国の大手企業を買収することも出来るのです。ですから、日本企業、アメリカ企業、他の国の企業は中国の買収の対象になることもありうるのです。中国台頭のインパクトはものすごく大きいわけです。

●中国台頭のインパクト

次は、中国のインパクトがどれほど大きいか具体的なデータを申し上げます。例えば、素材とエネルギー、世界の需要増加分を2000年と2005年を比べ、どのぐらい増加し、そのうち中国の貢献度はどのぐらい大きかったかについて、皆さんのお手元の資料4、図表11をご覧下さい。

世界の鉄鉱石について、2000年から2005年の需要増加分のうち中国の貢献度はなんと68%です。それから粗鋼は62%、アルミニウムは56%、銅はなんと103%です。つまり、中国の金属の銅の需要増加がなければ、世界全体は増加ではなく減少であり、だから、中国の貢献度は103%です。それから、石油の中国の貢献度は29%です。

つまり、ここ数年、世界経済は主要国同時好況の局面に入りましたが、主要国同時好況を牽引しているそのエンジンは2つありますが、1つは中国経済、もう1つはアメリカ経済です。特に今は中国のエンジン、その役割はますます重要になってきており、逆にアメリカ経済は不安定で経済成長率が下方修正している。おそらく今年の中国の貢献度は、アメリカを上回ることを多くの国際機関が予測しているのです。ですから、中国は、今、世界のエンジン、経済成長を牽引するエンジン、そういう積極的なプラス面の役割を果たしているのです。

だか、中国インパクトはプラス面の役割だけでなく、マイナス面の要素もあるのです。マイナス面の要素について言えば、中国は国際価格の撹乱要素となっているのです。例えば、国際価格ですが、原油価格は、今、高騰しており、過去5年間で3倍以上も値上がりしています。今、原油1バレル88ドルですが、おそらく、1バレル100ドルの時代もやってきます。それから、銅は過去5年間で5倍以上値上がりし、鉄鉱石の価格は5年間で3倍以上値上がりしました。国際価格の急騰は様々な要素があり、投機的な要素もあるのです。

しかし、需要サイドから見ると、最大の要素は中国であることは明らかな事実です。中国が買うものは価格が値上がり、中国が売るものは価格が下がる。それは今、ビジネス世界の常識となっているのです。

今、中国は国際価格の撹乱要素となり、このことはリスク要素、マイナス面の要素として、我々は見ておかなければならないのです。

もう1つのマイナス要素は、中国は高度成長が続いているのですが、環境破壊が深刻化しています。これは、中国1国だけの問題ではなく、今では国際的に影響を及ぼしているのです。例えば、黄砂や酸性雨が日本にも飛んできている。ですから、我々は中国の台頭のインパクトを見る時は、そのプラス面の要素とマイナス面の要素を両方複眼的に見ておかなければならないのです。

●注目すべき中国政治の最新動向

これから本題に入りますが、1番目の中国政治の最新動向です。

皆さんもご存知のとおり、今、中国では、第17回全国共産党の全国大会が開かれており、今週末、閉幕する予定です。

この中国の共産党の全国大会の注目すべき動きは2つあります。

1つは党の方針で、これからの5年間の方針、政策を決めるわけで、もう1つは、中央執行部人事を決めることです。これは、来週月曜日決めるわけです。

中国の政策・方針、方向性はもうすでに見えてきており、その方向性としては、2つの変化があります。

1つは、やはり「調和のとれた社会の構築」、そのような社会を目指すことです。調和のとれた社会とは、中国は高度成長しているが環境を犠牲にした側面を否定できなく、経済成長と環境のバランスについて是正し、環境と経済成長の両立を図るという方針を決めたわけなのです。

それから、調和とれた社会のもう1つの意味合いは格差是正です。つまり、今、中国では、3つの格差が拡大しており、1つは貧富格差、2つは都市部と農村部の所得格差、3つ目は内陸部とそれから沿海部の地域格差です。ですから、胡錦濤政権は、この格差を是正し調和のとれた社会の構築を目指すわけです。

調和のとれた社会のもう1つは、中国の政治と経済の調和です。つまり、経済改革は、今、進んでいますが、政治改革は遅れています。これは、経済成長にとって良くないことであり、政治と経済のズレ、つまり、政経乖離を是正して、持続成長出来るようにしたいわけです。

「調和のとれた社会の構築」は今後5年間の中国の共産党執行部の政策の中心的な内容となるわけです。

中国の政策・方針の方向性のもう1つは、持続可能な成長です。中国は確かに高度成長をしていますが、その成長は資源や環境を犠牲にした側面を否定出来ないのです。あまり配慮をしてこなかったのです。これからは、資源と環境を配慮しながら、持続可能な成長をしていく方針を決めたわけです。

今回、胡錦濤さんが続投し、胡錦濤2期目政権に入るわけですが、胡錦濤さんが続投することになった理由は、1期目政権の5年間に実績を積み重ねてきたからです。3つの実績があります。

1つは、高度成長。彼の1期目政権の5年間、連続で10%以上の経済成長を続けています。中国の経験則ですが、経済成長が進むと政局は安定します。

それから2つ目は汚職追放です。彼は上海市のトップ、陳良宇さんの汚職事件を摘発し、青島市のトップ、北京市の副市長、人民解放軍の海軍副司令官、そういう高級幹部を相次いで汚職問題により追放したわけです。辣腕を奮った結果、国民に評価されたわけです。

それから3つ目は政権運営です。危機管理能力は非常に高いということです。つまり危機状態に陥ったときは辣腕を奮って乗り切ったわけです。

例えば、2003年3月、胡錦濤さんが国家主席に就任した直後、SARS問題が発生しました。SARS問題については、中央官庁衛生省(日本では厚生省)が隠蔽工作をして、北京市も隠蔽工作をして、世界各国から厳しく批判されたのです。

それで、胡錦濤さんは早速、辣腕を奮って衛生大臣を更迭したのです。北京市の市長も更迭したのです。衛生大臣は江沢民さんからの人脈で、また、北京市の市長は胡錦濤さんの人脈だったのです。そういう派閥にとらわれず、失政があれば更迭するという辣腕を奮って、しかも、SARSの起きた病院へ視察に行って、大学それから工場に視察に行って、陣頭指揮を執ったのです。江沢民さんとは対照的だったのです。逆に江沢民前国家主席は、北京から上海に行ってしまった。胡錦濤さんは北京に残って陣頭指揮を執り、わずか3ヶ月でSARSを抑えたわけです。

国民の目から見た胡錦濤さんは、そういう危機管理能力が高いことが評価され続投することになったのです。

それで、執行部の人事についてはこれからで、来週月曜日に発表される予定です。つまり、中国共産党党員7000万人の中から党の代表を2千数百人選び、その党の代表から中央委員会を選ぶわけです。その中央委員会は2百数十人選ばれますが、それから中央政治局委員、中央政治局常務委員、中央政治局総書記を選ぶわけなのです。中央執行部メンバーとは政治局常務委員のことです。

執行部に新しく入る人事の予想は次の2人です。1人は遼寧省の書記である李克強さんで、胡錦濤さんの人脈です。もう1人は、静岡県と姉妹関係にある浙江省の書記、習近平さん。今年の3月には、上海市のトップに任命されましたが、彼が飛び級で中央執行部に入る可能性は極めて高いです。習近平さんは皆さんもご存知のとおり、浙江省のトップだったのです。

お手元の資料1、図表2をご覧下さい。浙江省は、中国の全国の中で1人当たりGDPは北京、天津、上海の3つの直轄市を除いた、地方で一番高い地域です。これは1つ目の特徴で、つまり経済成長が進んでいる地域、豊かな地域になってきたということです。もう1つの特徴はあまり農民暴動、反政府デモがあまり発生してないのです。他の地域は農民暴動が散発的に発生し、よく新聞記事に出て報道されますが、浙江省はあまりありません。なぜ暴動がないかというと、浙江省は個人経営企業、私営企業の数が多く、つまり、分厚い中間層が出来ています。分厚い中間層が出来ているところは、社会は安定し、農民暴動、反政府デモがあまり起こらないわけです。

この特徴はまさに今、中央執行部である胡錦濤政権が唱えている「調和のとれた社会」の模範なのです。ですから、習近平さんは胡錦濤政権に抜擢されて、今年の3月に上海市のトップに就任したわけです。加えて、彼は中央政治局委員になることは100%間違いないです。また、中央政治局の常務委員になる可能性も極めて高いのです。

浙江省は、静岡県と姉妹関係にありますから、習近平さんが中央執行部に入れば、静岡県とのパイプ役になることが期待されます。静岡県にとってこれは非常に大切な人脈になるわけです。来週、静岡県から大型ミッションが浙江省に派遣される話を聞いていますが、習近平さんとの太いパイプが極めて大切です。

要するに人事問題について、今、中国の政治舞台では、主に3つの政治勢力があります。

1つは、江沢民前国家主席の派閥で「上海閥」といいます。2つ目は、胡錦濤現国家主席の派閥で「団派」といい共産主義青年団出身者の人たちです。昔、胡錦濤さんは共産主義青年団のトップだったわけで、共産主義青年団の出身者を「団派」といいます。それから3つ目は、親たちが高級幹部である「太子党」です。この3つの政治勢力が、今、中国の政治舞台で活躍しています。

今回の党の代表大会を通じて、胡錦濤さんの派閥である共産主義青年団「団派」が台頭することは間違いないのです。

江沢民の「上海閥」は地盤沈下が避けられないです。江沢民さんは全ての公職のポストから退いたわけですし、しかも「上海閥」の重鎮である上海市の前のトップ、陳良宇さんが汚職事件で追放されました。これは大きなダメージを受けております。ですから、地盤沈下は避けられないのですが、江沢民さんの影響力は、まだ、多少残っているのです。

3つ目の「太子党」は、「上海閥」と「団派」の権力闘争の中でバランスとる役割を果たすことで活躍します。習近平さんも「太子党」なのです。彼のお父さんは元副首相で、今の貿易大臣、薄希来さんも「太子党」です。これらの人たちはそういうバランスの役割を果たしてこれから活躍します。

中国の3つの政治勢力が今回の党の代表大会を通じて権力の再配分がされるわけです。

●「バナナ族」(欧米留学組)の台頭

それからもう1つ、人事面の特徴ですが、「バナナ族」の台頭が有ります。「バナナ」、皆さんもご存知のとおり皮が黄色く中身は白いです。中国の「バナナ族」は欧米留学組の人たちです。つまり、これらの人たちは中国人の顔をしていますが、欧米人の意識を持っています。だから中国ではバナナ族と揶揄されているのです。

この「バナナ族」が今台頭し、各分野で活躍しております。例えば、今年4月に新しく任命された4人の閣僚の内3人が「バナナ族」です。

1人は楊さんという外務大臣でイギリス留学経験者です。彼はアメリカ駐在大使を経験しブッシュ大統領一家と個人的な親交があるわけです。あの人は、外務大臣に抜擢されたのです。

それから2人目は科学技術大臣の万さんです。あの方は、ドイツ留学経験者で、ドイツで工学博士号を取り、ドイツの有名な自動車メーカー、アウディに10年に亘って働いて、その後2000年末、中国に帰国して、大学の学長に就任しております。今年の4月末に科学技術大臣に任命されております。

3人目は衛生大臣の陳さんでフランス留学経験者です。フランスで医学博士を取り、帰国されたわけですが、今年の4月に衛生大臣に任命されています。

4人の新しい閣僚の内3人が「バナナ族」です。来年3月には、新しい内閣が発足しますが、さらに複数の「バナナ族」が入閣する見通しです。ですから、そういう「バナナ族」に代表される欧米留学組の人たちは、今、各分野で活躍しています。「バナナ族」の台頭は特に要注目です。残念ながら、「バナナ族」の活躍に比べて、中国における日本留学組の人たちの存在感は非常に薄いです。

●中国共産党の変質の背景には経済構造の大変化があり

もう1つ注目しなければならない中国の政治動向は共産党の変質です。つまり、我々のイメージとしては、中国共産党は階級政党なのですが、実は、今は違うのです。大きく変質しているからです。

5年前、党の代表大会で、共産党の規約が改正され、個人経営企業(従業員8人以下)の経営者、私営企業(従業員8人以上)の経営者たちが共産党に入党出来るようになったのです。個人経営の経営者、私営企業の経営者たちは、資本家、資産家です。皆さん覚えておられると思いますが、中国共産党は、昔、革命中国樹立前は資本家、資産家を敵として戦ってきました。しかも、その敵に勝利して革命中国を樹立したのです。ところが、昔の敵は、今、身内に取り込み、共産党に入党させている。大きな変化です。 それから、もう1つ、今年の3月、日本の国会に相当する全人代で、1つの法律が採択されました。物権法という、動産や不動産に関する物の権利の法律です。この法律の主旨は私有財産の保護です。皆さんご存知と思いますが、中国は共産革命の成果として革命中国を樹立しましたが、共産革命は私有財産を否定した革命です。ところが、昔否定された私有財産を、今、法律で保護しております。これも大きな変化です。

この2つの大きな変化の背景には一体何があったのかというと、やはり、中国の経済構造の大変化が今、起きているということです。

この大変化は皆さんのお手元の資料1、図表1のグラフをご覧いただければお解りになると思いますが、つまり、過去10年間で中国の国有企業、集団企業の従業員の数はなんと7000万人も減少したのです。つまり、7000万人がリストラされたのです。そして、リストラされたこの7000万人の6割以上が私営企業、個人経営企業に行き、吸収されたのです。今の私営企業、個人経営企業は中国の国有企業、集団企業のリストラの最大の受け皿となっているのです。 国有企業、集団企業は中国共産党一党支配の支持基盤なのです。ところが、この支持基盤は、今、脆弱化し、不景気で収益が悪化しているのです。このため、今、私営企業、個人経営企業は無視できない存在となり、中国経済を牽引する原動力の1つとなっているのです。ですから、中国共産党は自分の一党支配の正当性を維持するため、どうしても私営企業、個人経営企業を無視できず、昔の敵を身内に取り込み私有財産を法律で保護する。そういう措置をとり一党支配の共産党支配の正当性を維持しようとしているわけです。方向性として、将来、中国共産党は西ヨーロッパのような社会民主党のような政党に変質し、共産国家は、将来、スウェーデンのような社会民主主義国家のような国に変質していく可能性もあるわけです。

要するに、中国の注目すべき政治動向は、つまり、1つは共産党全国大会の開催、もう1つは共産党の変質です。

●過熱経済の行方 バブル崩壊は要注意

次の問題に入りますが、それは、過熱経済の行方です。

今、中国経済は5年連続10%以上の高度成長が続いています。今年の上半期はなんと11.5%と異常な成長率です。明らかに過熱を帯びています。それで、これからの中国経済はどうなるのかをめぐって、中国では大論争が起きています。中国経済はこれから軟着陸をするか、あるいは硬着陸するかの論争です。

しかし、私から見れば、この論争自体がナンセンスであることを否定できないです。中国経済は少なくとも今年と来年は軟着陸もないし、硬着陸もないのです。つまり、不着陸状態が続きます。 その根拠は2つあり、1つは中国では今開催中の全国共産党大会があり、新しい執行部が選出されます。これまでの中国の経験則では、全国共産党大会が開かれ、新しい執行部が選出される年は経済成長率が下がりません。ですから、今年の成長率は11%下回ることは、まずありえません。 2つめは、来年はオリンピックの開催があります。日本では1964年に東京オリンピックの開催があり、韓国では1988年にソウルオリンピックの開催がありました。日本と韓国は、オリンピック開催の年は全国で盛り上がりました。中国も同じです。国を挙げて、皆、盛り上がるムードの下では、経済成長率はなかなか下がりません。ですから、来年も10%を下回ることは考えにくいです。

結論から言えば、今年と来年は中国経済は軟着陸もないし、硬着陸もない。高空飛行で不着陸の状態が続きます。

しかし、オリンピック開催が終わり、特に2010年上海万博開催が終わった後、中国経済は軟着陸か硬着陸かという選択に迫られます。下手をすれば、硬着陸のシナリオもありえます。つまりバブル崩壊のシナリオもあるわけなのです。 今、中国ではバブルの懸念が高まっています。特に不動産と株式です。不動産の価格はここ2、3年間で2倍以上値上がりし、株式は2年間で6倍も株価が値上がりしました。 皆さんのお手元の資料3をご覧いただきたいと思いますが、昨日時点の上海株価指数は6000ポイントを突破しました。つまり、2年で6倍になったわけです。しかも、個人株式の口座数はなんと1億1千万口座で日本の8倍もあります。株式の時価総額は、今、中国は日本を上回ったのです。中国の経済規模は僅か日本の6割ですが、株式の時価総額は日本を上回ったのです。明らかにバブル状態となっているのです。

それで、中国の中央執行部も中国の株価、中国のバブル崩壊を警戒しています。

皆さんもご存知のとおり、朱鎔基前首相は2003年に首相ポストから退いて、公の場には一切姿を見せなかったのですが、今年の4月に日本の大臣経験者の大物エコノミストと面談したわけです。この大臣経験者は80年代から、ずっと朱鎔基さんと付き合っており非常に仲が良く古い友人の関係です。

面談の時、この大臣経験者は朱鎔基さんに対して「中国の不動産、株式のバブルがあるかどうか」という質問がありました。朱鎔基さんの答えは、「バブルがあるかどうかの問題ではない。バブルがいつはじけるかの問題だ」でした。つまり、朱鎔基さんは中国のバブル崩壊をものすごく警戒しているわけです。

先ほど申し上げたとおり、中国では、株式口座数はすでに1億1千口座です。中国の場合、1口座にだいたい家族3人が株式をやっているのですが、そうすると3億人が株式をやっていることになる。13億人の内、4分の1弱ですね。もし、バブルが崩壊すればえらいことになります。 中国の財務省は今年の5月30日、そのバブル抑制のため、株式投資の印紙税の税率を0.1%から0.3%に、一気に3倍引き上げたのです。その結果、株価が連日暴落したのです。連日暴落を受けて、大損を受けた個人株式投資者は怒ってしまい、財務省を包囲する抗議行動を起こしたのです。しかも、その内の1人は「これから財務省を爆破する」と、財務省に恐喝電話を入れて、逮捕されてしまいましたが、もしも中国でバブルが崩壊すれば、社会不安定要素になりかねないのです。

要するに、中国のバブル経済の行方を我々としては注意しなければならないのです。特に2010年以降は要注意です。

しかし、中国はバブル崩壊により、一時的な経済挫折があったとしても、それを乗り越えることが出来れば、おそらく再び成長の軌道に乗るでしょう。ですから、2020年までは年平均成長率を6%から7%キープ出来ると思います。 理由は、3つあります。1つは、中国の都市化、工業化が未完成であり、中国は、今、都市部の人口が毎年2000万人増えているのです。中国の都市部の人口は昨年末時点で、5億8000万人でが、おそらく2010年までにはさらに7000千万人の都市部人口が増えるのです。つまり、日本の高度成長期のような、農村部から都市部への人口大移動が、今、中国で起きているのです。毎年2000万人分の都市部の人口の増加は、大きな意味がある。つまり、中国経済成長を牽引する原動力である都市化、工業化が未完成であるということです。

もう1つの理由は、中国の中間層と富裕層が急増しております。中間層の概念は、日本の円に換算すれば年収で100万円から800万円で、中国政府の高官の話によりますと、その人口数は8000万人です。それから、年収800万円以上の方を富裕層としています。中間層と富裕層の人口を加算すれば1億人弱です。日本総人口の9割ぐらいで、しかも、毎年増え続けているのです。ですから、富裕層と中間層の急増は中国の国内市場を巨大化させるという原動力になるのです。

それから3つ目の理由は格差是正です。格差は格差リスクがあり社会不安定要素になりかねないですが、格差という問題は両面あり、1つは格差リスク、もう一方は格差のパワーが有ります。つまり、格差を是正する過程で経済成長のパワーも出てくるのです。これから、もし格差是正が上手くいけば中国経済成長の原動力になります。私の個人的な見方ですが、将来性として2020年までは6%から7%の成長はキープを出来ると考えられます。

●爆食型成長からの脱却 日本企業に商機

3つ目の問題ですが、爆食経済の行方です。

「爆食」は、私が使う表現です。私は昨年、時事通信社から「検証 中国爆食経済」という本を出しました。「爆食」の意味は、必要以上にエネルギーと素材を大量に消費しているということなのです。 具体的なデータを申し上げますと、2005年、中国のGDPは僅か世界全体の5%しかありません。ところが、中国1国が消費したエネルギーは世界全体のなんと15%です。中国1国で消費した鋼材はなんと世界全体の30%です。それからセメントはなんと世界全体の54%です。明らかに爆食しているのです。効率も極端に悪い。イギリスの石油メジャーBPの資料によりますと、中国で1万ドルのGDPを創出するために使われたエネルギー消費量はなんと日本の6倍、アメリカの3.7倍です。逆にいいますと、中国のエネルギー効率は僅か日本の6分の1しかなく極端に悪い。効率は悪く、しかし爆食はしている、そこで問題が起きるのです。

どういう問題かといいますと、今のような爆食型成長は長く続くことが出来ないということです。限界が来たということです。なぜなら、中国のエネルギー資源は乏しいからです。 中国政府の発表によると、中国の石油資源、1人当たり石油資源の保有量は僅か世界平均水準の7.4%です。天然ガスの1人当たり資源保有量は僅か世界平均水準の6%しかないのです。石炭資源の1人当たり保有量は50%以下です。ですから、今のままの爆食型成長が続くならば、中国の石油資源はあと14年で終わってしまうのです。天然ガスの資源はあと32年です。

結論からいえば、中国の爆食経済は、中国の資源で支えることはもう出来ない。中国の資源で支えることが出来ないとすれば、世界どの国が支えることが出来るかというと、結論はどの国も支えることが出来ないのです。 それは、中国の1人当たりエネルギー消費量は日本、アメリカの先進国に比べて、まだ低い水準に留まっているからです。だいたい日本の4分の1、アメリカの7分の1程度なのです。仮に、中国の1人当たりエネルギー消費量が日本並みなら中国のエネルギー消費量は今の4倍、アメリカ並みなら今の7倍になります。皆さんもご存知のとおり、既に中国は2004年から日本を上回って、世界第2位の石油消費大国になっています。もし、中国のエネルギー消費量が今の4倍、あるいは7倍になれば、世界のエネルギー資源を全体動員しても、中国1国の需要を賄うことが出来なくなるのです。従って、結論からいえば、世界どの国も中国の爆食経済を支えることが出来ないわけです。ですから、中国の成長方式の転換をやらざるを得ないわけで、やらなければ持続成長は不可能だということです。

中国政府は今これに危機感を持ち始め、昨年から爆食型成長から脱却することを唱え、節約型成長、省エネルギー型成長に転換することを、国の方針として決められたわけなのです。 そこで、中国の爆食型成長から省エネルギー型成長、節約型成長への転換によって、日本経済にどういう影響を及ぼすかということですが、結論からいえば、これから日本企業の出番が増えてくる、日本企業のビジネスチャンスが増えるのです。日本は省エネルギー技術、新エネルギー技術及び環境ビジネス技術について得意の分野です。

実際、60年代から70年代半ば頃までの高度成長期は日本も爆食してきたのです。ところが、1973年、石油危機が起き、日本は大きなショックを受けて、企業も大きなダメージを受けて、日本経済はその翌年、沈没したのです。マイナス成長に転落したのです。そこで、日本企業は省エネルギー技術の開発に注力し始めたのです。30年以上の努力を積み重ねた結果、現在の日本の省エネルギー技術は世界トップレベルの水準に到達したのです。

ですから、これから中国の爆食型成長から省エネルギー転換、省エネ型への転換によって、日本企業のビジネスチャンスが大いに増えるのです。 昨年3月、私は広東省の広州市に出張しました。皆さんもご存知のとおり、日本の自動車メーカー最大手のトヨタ、日産、それから本田技研、この大手3社はいずれも広州市に進出し大きな工場を持っています。私はそのトヨタの現地法人の社長に会い、本田技研の総務部長に会い、それから日産さんの開発部長に会いました。この3人から聞いた話ですが、今、日本の車は中国の消費者の中で人気が急上昇している。なぜ、人気が急上昇しているのかと質問したところ、理由は2つで、1つは日本の車のデザインがいい、品質がいい、つまり、ブランドイメージが定着している。もう1つは日本の車は省エネタイプ、燃費が節約できるからです。

中国では昨年からガソリン価格が急騰しており、消費者はやはり欧米の車、韓国の車や中国の国産の車に比べて日本の車は燃費が良い。だから、日本の車を選択したわけです。中国の乗用車市場シェアの中で日本車のシェアがダントツ1位です。これがまさに日本の強みなのです。

省エネルギー技術を持っているのは自動車分野だけでなく他の産業分野にも沢山あるのです。静岡県の多くの企業も沢山持っています。これから日本企業の出番が出てくる、ビジネスチャンスが増えてくるのです。

今年の4月、中国の温家宝首相が来日して安倍首相とトップ会談を行われました。

合意文書が発表され、これからの日中経済協力の重点分野の2つは「省エネルギー」と「環境」です。これから「省エネ」と「環境」は日中関係のキーワードになるわけです。我々としては注目しなければならないのです。

●中国経済の抱える課題?短期:過熱経済の軟着陸 長期:政治体制の軟着陸−

4つ目は中国経済の抱える課題です。

中国経済の短期的な課題は過熱経済の軟着陸です。逆にいえば、ビジネスリスクとして経済の硬着陸、つまり、バブル崩壊は要注意です。また、長期的な課題は政治体制の軟着陸です。逆にいえば、もし、政治体制の硬着陸、つまり、民主化運動で共産党政権が崩壊すれば、経済が挫折してしまう。ですから、いかに民主化を進め、政治体制の軟着陸を実現していくかが21世紀の中国の最大の課題といっても過言ではありません。

もちろん、その他さまざまな課題があります。例えば、格差社会の是正、生産過剰の是正、腐敗の蔓延、知的財産権の保護、食の安全など課題も沢山抱えているのです。

特に腐敗の蔓延、これは、やはり共産党の死活問題、党の存続に関わる問題です。

今、中国では腐敗蔓延していますが、腐敗の「腐」という字は非常に面白い文字なのです。ここに私は中国の腐敗の「腐」を持っています。上は政府の「府」、下は「肉」が付いているのです。昔の中国では肉は高級食品でした。役人への賄賂としてよく使われてきました。ですから、お役所が肉とくっついたら必ず腐るということで、腐敗の「腐」という文字の従来の意味らしいです。

現在、中国には腐敗現象が蔓延している。先ほど申し上げましたように、上海市の前のトップ、青島市の前のトップ、北京市の副市長、人民解放軍の海軍副司令官、いずれも腐敗で逮捕され、腐敗が蔓延しているのです。

国際透明度組織の発表ですが、世界主要輸出国12カ国の中で中国が一番、賄賂が横行している国だという発表があります。

それで、現在、中国で蔓延している腐敗現象の特徴は2つあり、1つは、腐敗幹部の収賄金額が非常に高額であることです。日本でも汚職事件がよく発生していますが、日本に比べて中国の汚職のスケールが全然違います。国が大きいからですね。日本の円に換算すれば億単位のスキャンダルがあとを絶たないのです。

先ほど申し上げたこの4人の高級幹部の汚職はいずれも億単位のスキャンダルです。

それから、もう1つの特徴は腐敗幹部の背後には必ず女性がいます。つまり愛人スキャンダルです。中国の新聞記事で腐敗幹部の95%は愛人を持っていると。

恥ずかしい話ですが、私の故郷は浙江省の隣の江蘇省です。江蘇省の省都は南京市です。南京市の元建設局長はなんと1人で同時に15人の愛人を持っている。毎日、忙しいです。15人の愛人の間をどのようにバランス保つかが大問題であり、結局、アンバランスが出来て、愛人問題がばれ、汚職問題もばれて、逮捕されてしまったのです。

ですから、今、腐敗問題の特徴は、1つはお金、2つ目は女です。

今、国民の中で1つのブラックジョークが流行っています。どんなブラックジョークかというと、この腐敗の「腐」という文字の書き方はもう時代遅れで、肉は既に高級食品ではなく、今は誰でも簡単に手に入る食品です。ですから、腐敗現象の2つの特徴を示すためには、腐敗の「腐」という字は、やはり政府の「府」の下に、左は「金」、右は「女」を書くべきです。勿論、これはあくまでもジョークです。

ただし中国では腐敗現象が蔓延しているのは現実で、皆さん覚えておられると思いますが、1989年、中国では天安門事件が発生し、100万人の国民たちが街に出て、反政府運動を起こしました。その背景には、やはり国民たちの共産党幹部の腐敗現象に対する不平・不満があったわけなのです。

中国はこの腐敗現象を根絶することが出来るかどうか、いかに根絶するかが共産党一党支配の正統性を問われることになるのです。

つまり、中国ではビジネスチャンスがいっぱいあり、課題もいっぱい、リスクもたくさんあります。ですから、我々は中国経済を見るとき、ビジネスのチャンスとリスクの両方複眼的に見ておかなければならないです。

●終わりに アジア大移動時代の到来に備えて

最後に、あと2年弱で静岡県の空港が開港することを含めて、どういう視点が必要なのかをお話しします。

1つの視点はアジア大移動時代がもうすでに来ています。つまり、ヒト、モノ、カネ、これがアジアで大移動しています。

例えば、日本の物流構造の中で、今、アジアのシェアはなんと46%で、その内20%は中国です。アメリカのシェアは僅か17.4%です。つまり、今、日本の貿易は圧倒的にアジア、特に中国に依存しているのです。これは、貿易の構造です。それから、輸出の構造、アジアのシェアはなんと48%で、その内20%は中国のシェアです。アメリカのシェアは22.4%です。私の試算では、おそらく2010年は、日本の輸出構造にも米中逆転が起きるはずです。つまり、日本にとって、2010年時点で最大の輸出先は、アメリカではなくて中国です。

これはモノのアジア大移動です。つまり、今、日本はアジアに依存し、中国に大きく依存している。

それから、人の移動ですが皆さんのお手元の資料の最後のページの資料6。この一番下のグラフですが、今、日本に来る外国人の数は、昨年は733万人ですが、その内7割以上がアジアから来るのです。それから観光客も、なんと75%がアジアからです。アジアの内、半分ぐらいが大中華圏から来るのです。ですから、人もアジア大移動時代が来ています。

静岡空港はこれから開港するのですが、やはりアジアの視点が重要です。つまり、静岡県独自の特徴を活かして、いかにアジアの人たち、中国の人たちに静岡県に来てもらうかは、地域の活性化に関わる問題です。

皆さんのイメージとしては、中国は外国の直接投資を受け入れる国だというイメージを持っておられるとおもいますが、確かに、そのとおりでが、その一方で、今、中国は対外投資も積極的にやっております。

例えば昨年、中国の対外直接投資は211億ドルになりました、日本の半分に相当します。今、中国の企業は海外進出を積極的にやっています。ですから、中国の企業を静岡県に誘致して、来てもらう、そのようなことも地域の活性化に繋がる1つの手だと考えられます。

それから、どういう戦略が必要なのかということですが、一律にはいえませんが、私の表現で言いますと、「揚長避短」の戦略が必要です。

「揚長避短」は、中国の四文字熟語です。意味は、「長」は長所、強みです。「短」は短所、弱点です。つまり、自分の長所を活かして自分の弱点を回避する、そういう戦略は静岡県、あるいは日本の企業にとって必要です。

それで、日本企業の長所、強みは優れた技術力、優れたブランド力なのです。逆に、日本の企業の弱点はコスト高、人口減少に伴う国内市場の縮小です。ですから、自分の長所、強みを発揮するためには、やはり、優れた技術力、優れたブランド力を活かして、付加価値が高い新しい製品、新しい素材、新しい技術の創出に注力すべきです。自分の弱点を回避するためには、コスト高を是正する。これはアジアの企業、中国の企業との分業体制の構築も極めて大切です。 本日、「揚長避短」というキーワードを持って、私の講演を終わらせていただきたいと思います。長時間、ご清聴ありがとうございました。