【中国経済レポ−ト】
躍進中国を取り込め−「日中融合」のポイントは「環境と省エネ」−
沈 才彬
『Financial Japan』2007年9月号インタビュー記事
沈む日本、昇る中国。かつて世界史に名を残すほどの発展を遂げた日本経済だが、今やアジアの盟主は中国に取って代わられようとしている。かつての経済大国・日本は、急成長する隣の大国とどういう関係を築けばいいのか。三井物産戦略研究所の沈才彬氏は、「環境と省エネがポイント」と指摘する。
●日本より“資本主義的”!?
――中国が驚異的な速さで経済成長している。
2013年にはGDPが日本を超えると私は見ています。今のペースで中国が成長すればという前提付きですが。スイスの国際経営開発研究所(IMD)が発表した「国際競争力ランキング2007」によれば、停滞した日本よりも、競争力は中国の方が上。日本はもっとこのことに対して危機感を持ったほうがいい。
WTOに加盟してから5年で中国の経済規模は2倍以上に拡大しました。輸出高は3・6倍、外貨準備高は5倍にもなりました。GDPは昨年、世界4位になりましたが、今年か来年にはドイツを抜いて3位に上がるでしょう。
中国は、日本よりもある意味で“資本主義的”です。私には、日本の方が社会主義的に映る。日本は国民が平均的に富むことを目標として発展してきたからか、格差が少ないんです。最近、「格差社会になった」などといわれていますが、中国の沿岸部と内陸部の地域格差、都市部と農村部の所得格差、富裕層と貧困層の貧富格差などは日本よりはるかに大きい。
――格差を抱えながらそれでも伸びている。今の中国経済の強さの秘訣はどこにあるのか?
まさにその格差をパワーに変えているところです。格差は社会不安の要因ともいえますが、是正する過程で経済を押し上げる源になるのです。是正するためといって、豊かな地域の経済を下げるわけにはいきません。低いところの所得を上げるわけです。その過程で全体を押し上げるパワーが生まれるのです。
具体的には、都市化、工業化の力が成長を牽引しています。
まず都市化についてですが、中国の人口は都市部に44%、農村部に56%います。日本は都市化が進みきっていますが、中国はまだまだ。1996年から都市部の人口は毎年2000万人ずつ増えています。農村部から都市部への人口大移動は、日本でも60、70年代に起こっています。まさに同じ現象が中国で現れているのです。
また、工業化が進んでいることも、富の創出に大きく寄与しています。この点は外資が大きな役割を果たしている。78年に始まったケ小平の改革・開放路線から28年、累計で6000億ドル以上の資本が中国に入りました。お金だけでなく、技術や経営ノウハウ、人材や情報など、いろいろな経営資源が入りました。これも経済成長の原動力になったのです。
――いまや中国はアメリカと利害を分かち合う密接な関係を築き上げている。中国は対日関係をどう見ているのか。
アメリカとの関係は、冷戦時代の米ソ関係と違い、経済的には互いに深くビルトインされている。米中はまさに「ステークホルダ」関係になっている。
一方で日本との関係ですが、日本は、アメリカに次ぐ貿易相手国、香港を除く最大の直接投資国。中国にとってなくてはならない存在です。中国は今、「経済成長最優先」路線をとり、他国と協力体制を敷く「敵を作らない」方針を取っているので、中国側から関係を悪化させるようなことはないでしょう。
一方、日本にとって中国は最大の貿易相手国、米国に次ぐ2番目の輸出先となっており、中国市場を抜きにしては日本の景気動向も産業発展も語れない。日中も「ステークホルダ」関係だ。
日中関係は、70、80年代の「日中友好」から90年代の「日中協力」を経て、21世紀に入って以降「日中融合」の時代に入りつつある。今後は、政治や外交の面はもちろん、ビジネスでも関係を深め、「日中融合」はさら深まっていくでしょう。
現在、日本から中国に進出している企業は3万社以上ある。それらの企業が直接生み出した現地雇用は200万人強。下請けなど間接的なものも含めれば、約1000万人もいます。中国にとって、雇用を創出してくれる日本は貴重な存在です。日本にとっても、年間数十億ドルの投資利益の源になる中国は大切です。
中国から来日した観光客の数は、2006年、62万人でした。日本の大学には留学生が全部で約11万人いますが、そのうち7万人は中国から。教育の分野でも交流は進んでいる。その関係を大事にしなければなりません。
●「環境と省エネ」の分野で協力 中国成長の波に乗れ
――停滞する日本が中国と良好な関係を築くためには、何が必要なのか?
キーワードは「環境と省エネ」です。この2つは日本が得意とする分野です。
70年ごろの日本は、現在の中国のように、エネルギーを「爆食」していました。そこにオイルショックが起こって、低迷期を経験し、再び立ち上がるために省エネ技術の開発に力を入れた。こうして日本はエネルギー効率を高めた。石油価格が3倍以上に高騰しても、被害を限定的にできたのは、技術力が高かったからこそ。
一方で、中国のエネルギー効率は極めて悪い。GDP1万ドルを創出するために消費するエネルギーは、日本の6.5倍(アメリカ3.5倍、ドイツの6倍)です。エネルギー効率がこのままだと、その消費量が巨大なものだけに、中国のみならず地球全体にとっての深刻なエネルギー不足、環境問題を引き起こしかねない。
この点については、中国政府もようやく危機感を持ち、2006年に方針転換し、節約型・省エネ型の成長をめざす道を歩み始めた。そこで日本の出番です。
日本が持っている世界のトップクラスの技術を活用して、中国のエネルギー効率を高めるために協力すればいい。たとえば日本車は、欧米や韓国の自動車に比べてエネルギー節約型。三井物産と松下電工は、中国の清華大学傘下にある企業と合弁会社を作り、照明分野で日本の省エネ技術を中国に持ちこんでいる。
中国は環境汚染が深刻な社会問題になっている。その点、日本は公害問題を生み、多くの訴訟も経験している。中国でも、そうした公害問題の関連訴訟が起こるでしょう。日本は、二酸化炭素を削減や砂漠の緑化といった環境保護に関する技術を供与するだけでなく、訴訟対応など法律にかかわる問題解決についても、中国にヒントやノウハウを与えることができる。
中国はこれまで、環境を犠牲にして発展してきた。ですが、世界中に影響を及ぼすほどの存在になった以上、環境に配慮せずに成長だけ求めることは許されません。環境汚染は発生させた国や近隣諸国だけでなく、地球全体で考えるべき問題なのです。
「環境と省エネ」の分野で経験と高い技術を持つ日本。その経験と技術を中国に供与し協力することは、中国の急成長の波に乗ることができるという意味で、日本にとっても見逃せないポイントなのです。これをビジネスにつなげられないとすれば、それは国益を損なっていると言っても過言ではないでしょう。