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【中国経済レポ−ト】
【中国経済レポ−ト】
中国政治・経済・外交の最新動向(下)

沈 才彬
  • 米中関係:定着しつつあるステークホルダー関係
  • 日中関係:「氷を砕く旅」から「氷を溶かす旅」へ
  • 中ロ関係:「上熱下冷」解消は課題        
  • アフリカをめぐる米中両国の最新動向        
  • 3)中国外交の最新動向

    ●米中関係:定着しつつあるステークホルダー関係

    さる3月末に米国商務省が中国の紙製品に、相殺関税発動を仮決定した。また、中国の知的財産権侵害問題で、米国政府はWTOに提訴することも決めた。米国議会が民主党主導で動いており、このまま保護主義に舵を切って、米中関係の緊張感が高まるのではないかという指摘はある。

    しかし、米中関係を読むキーワードには、「対立」と「連携」の2つがある。冷戦時代の米ソ関係とは全く違い、米中は経済的に互いに深くビルトインされるため、一見、対立しているように見えても、水面下では密接に連携している。中国の外貨準備高の多くは米国国債購入に回っている。一方、中国にとって米国は最大の輸出相手国だ。貿易・金融戦争になれば米中は共倒れになる。中国も米国も、いたずらに相手を刺激するような極端な政策は採らないと思う。

    周知のとおり、2001年ブッシュ政権発足当時、米国は中国の位置づけをクリントン時代の「戦略的パートナー」から「戦略的競争相手」と変更し、強硬的な対中政策を取ってきた。ところが、「9.11事件」をきっかけに、米中はテロとの戦いで建設的な協力関係を再構築し、一時的に悪化した関係を修復した。2005年ゼーリック・元副国務長官は米中関係を「ステークホルダー」と再定義し、この表現はいまブッシュ政権の対中政策の指針となっている。

    この「ステークホルダー」関係を象徴する出来事は、2006年12月に北京で開かれた「米中戦略経済対話」である。米国側はポールソン財務長官をはじめ8人の閣僚、中国側は呉儀副首相をはじめ12人の閣僚が出席した。前例がないハイレベルの二国間会合といわざるを得ない。また、駐米大使など歴任し、ブッシュ大統領一家と個人的な親交もある楊潔虎氏は外務大臣に任命され、米中パイプの太さが改めて世界に示された。

    今後、貿易摩擦、知財保護、人民元の切り上げ、台湾問題、人権問題など米中間の懸案をめぐって、双方の激しいやり取りが予想されるが、米中間の「ステークホルダー」関係の基本構図は変わりがないと見られる。戦争や制御不能な経済競争のシナリオも考えられない。両国は、共通利益のために緊密に連携していくは間違いないだろう。

    ●日中関係:「氷を砕く旅」から「氷を溶かす旅」へ

    「氷を砕く旅」と言われる昨年10月の安倍首相の中国訪問に続き、今年4月に中国温家宝首相による「氷を溶かす旅」の日本訪問も実現した。小泉前首相の時に一時的に途絶えていた日中首脳の相互訪問が再開し、日中関係の悪化に歯止めをかけた意義は大きい。

    安倍首相が訪中の時に提起した「戦略的互恵関係の構築」だが、当時は肉付けされずに中身は不明だったが、今回の首脳会談で具体化された。実務面での互恵関係が首脳会談では多く盛り込まれた。例えば、日中ハイレベル経済対話の立ち上げ、上海・虹橋空港と羽田空港間のチャーター便の運航、省エネ・環境分野での協力強化、日本産米の輸出解禁などだ。なかでも省エネと環境は、今後日中間の経済関係のキーワードとなると思われる。

    中国の国内総生産(GDP)に対するエネルギー効率は日本の6分の1、米国の4分の1弱と極端に悪い。また環境問題は、杜甫の詩「国破れて山河あり」ならぬ、『国栄えて山河破れる』ほど深刻。一方、日本は省エネ・環境技術は得意な分野だが、マーケットは限られている。省エネ・環境分野は日中相互の強みと弱みを補完できる。

    現在、日本にとって中国は最大の貿易相手国であり、米国に次ぐ2番目の輸出市場となっている。中国マーケットを抜きにして、いま日本の景気動向も産業発展も語れない。一方、中国にとって、日本はEU、米国に次ぐ3番目の貿易相手国、2番目の直接投資国である。日本企業は資金、技術、ノウハウなどの面で中国の高度成長に大きく貢献しているのも疑えぬ事実である。

    今後、日中間の相互依存・補完の関係は継続する。ただし、相互依存の度合いは微妙に変化していく。ここ10年、中国の急速な台頭によって、日本の輸出の対中依存度は94年の4.7%から05年の13.5%へと3倍拡大し、GDPの対中依存度(対中輸出がGDPに占める割合)も0.4%から1.8%へと4.5倍へと急増した。それに対し、中国の対日輸出依存度は同期の17.8%から11%へ、GDP依存度は4%から3.8%へと縮小した。日中間の相互依存度の一進一退は正に両国の力関係の微妙な変化の現われに他ならず、見落とされてはいけない。

    2007年は日中国交樹立35周年、日本からの遣隋使派遣1400周年を迎え、日中関係の節目の年となろう。また、今年9月に神戸、大阪で開かれる第9回世界華商大会は日本での初開催となり、2000人超の各国華僑経営者が集まってくる。日本、特に関西経済にとっては「追い風」となろう。

    ●中ロ関係:「上熱下冷」解消は課題

    昨年の中国の「ロシア年」に続き、今年はロシアの「中国年」というイベントの開催が企画され、両国政府は友好ムードの演出に腐心している。今年3月26日、胡錦濤・中国国家主席はロシアを訪問し、プーチン大統領とのトップ会談を通じ、両国の「戦略的パートナーシップ」を再確認した。

    ロ中両国は上海協力機構のコアメンバーであり、長年の懸案であった国境問題も解決済み。アメリカの一国主義の対抗軸として、両国は「戦略的パートナーシップ」を構築し、国連など外交舞台では緊密な連携をとりながら、共同軍事演習も行っている。ロ中両国の緊密関係が際立つ。

    しかし、一見して順風満帆のロ中関係は実際、すべて旨く行っているわけでもない。今年3月、海外出張時の訪問先であるロシア科学アカデミー極東研究所のBerger博士は、「上熱下冷」という言葉でロ中関係の現状を表現している。つまり、両国のトップ同士、政府間関係は「熱い」関係にあるが、一方、国民レベルでは中国に対するロシア側の警戒感、ロシアに対する中国側の不信感が残っており、「冷たい」一面も否定できない。こうした「上熱下冷」関係は、2005年に日本外務省がロシアの国内調査会社に依頼したアンケート調査の結果にも裏付けられている。「ロシアにとって一番親近感を持つ国はどこか」という設問に対し、フランスと答えた人は25%で1位、ドイツは17%で2位、日本と米国はともに10%で並列3位、中国はわずか4%で5位、という結果だった。

    ロ中経済関係を見ても、「政熱経冷」という現象が起きている。前出のBerger博士が提示したロシア側の統計によれば、ここ数年、年平均30%台で増加してきたロ中貿易額は、 2006年に中国の「ロシア年」というイベントの開催にもかかわらず、ロ中貿易額は1Q 29.4%増、2Q 18.5%増、3Q 12.5%増、4Q 4.4%増と四半期ごとに伸び率が急速に低下している。そのほか、東シベリア石油パイプラインの中国支線の敷設も天然ガスパイプラインの中国への敷設も価格交渉などが難航し、現状では実質の進展がないままである。「政熱経冷」の温度差が目立つ。「上熱下冷」現象をどう解消するかが中ロ関係の課題となる。

    ●アフリカをめぐる米中両国の最新動向

    最近、アフリカをめぐる米中両国の動きが目立つ。昨年11月、中国・アフリカサミットは北京で開かれ、アフリカの48カ国の国家元首または政府首脳(うち8カ国が閣僚)が出席した。胡錦濤国家主席は、@対アフリカ援助倍増、A30億ドルの優遇借款と20億ドルの優遇輸出ローンを提供、B50億ドル規模のアフリカ発展基金設立、Cアフリカ連合(AU)会議センター建設支援、D2005まで期限切れの政府間債務を免除、Eアフリカ最貧困国の440品目の商品に対しゼロ関税率を実施、F経済貿易協力区を設置、G15000人アフリカ人材を育成、政府奨学金留学生数を2000人から4000人へ増加など、一連の優遇政策を打ち出し、中国のアフリカ重視の姿勢をアピールした。

    今年に入って、1月末から2月10日まで、中国の胡錦濤国家主席は就任後3回目のアフリカ訪問を行い、カメルーン、リビリア、スータン、ザンビア、南アフリカなど8カ国を歴訪した。胡主席の訪問に先立って、李肇星外務大臣(当時)は1月1日からアフリカ7カ国を訪問した。中国の外務大臣は毎年アフリカ国家を最初の訪問先に選び、10年以上も続いている。中国はいかに対アフリカ外交を重視しているかを裏付けている。

    一方、ゲーツ米国防長官は今年2月6日、上院軍事委員会の公聴会で証言し、ブッシュ大統領がアフリカ地域を担当する新たな軍司令部・アフリカ軍司令部の設置を承認したことを明らかにした。

    アフリカをめぐる米中の新しい動きの背景には、2大国によるアフリカ石油資源の争奪がある。アメリカ側の統計によれば、2006年アフリカからの原油輸入量は223万b/dに達し、僅かながら初めて中東地域を抜いた。2010年アフリカ産原油は世界全体の20%を占め、今後10年米国の石油需要の25%がアフリカに依存するという米国専門家の予測もある。米国の石油会社は今後10年間700-800億ドルをアフリカに投資する計画もある。米国のアフリカ軍司令部の新設は、この地域の石油資源の確保を狙う戦略的布陣といわざるを得ない。

    他方、中国のアフリカからの原油輸入も急増している。2006年、国別原油輸入量ベスト10にはアンゴラ(2位)、コンゴ(6位)、赤道ギニア(7位)、スータン(8位)、リビア(10位)など5カ国がアフリカの国である。特に2位のアンゴラは2345万トンで、1位のサウジアラビアの2387万トンに肉薄し、今年は逆転することも予想される。中国はエネルギー安全保障の観点から、数年前から地政学的なリスクが多い中東地域への一極集中を是正し、アフリカ、中南米、中央アジアなど地域から石油輸入を拡大している。その結果、中東への依存度は03年58%から06年45%へと大幅に減少し、アフリカへの依存度は31%に拡大した。同時に、中国の国有石油会社は政府のバックアップの下で、莫大な資金を投入し、いくつかのアフリカ油田の権益確保に成功した。中国の対アフリカ外交攻勢の背景には石油資源確保の思惑が見え隠れしている。

    米中両国に比べ、アフリカにおける日本の存在感が薄い。貿易も直接投資もODAも中国に遥かに及ばない。石油需要の9割が中東に依存している現状では日本のリスクはあまりにも大きく、国家エネルギー安全保障の観点からも対アフリカ戦略を早急に見直す必要がある。