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【中国経済レポ−ト】
【中国経済レポ−ト】
日中関係悪化に歯止め

沈 才彬
『日刊工業新聞』2007年4月23日号

中国の首相としては6年半ぶりに実現した温家宝首相の訪日。文字通り「冷たい氷を溶かす旅」になったのか。訪日の意義や日中間の戦略的互恵関係、企業が懸念する2010年以降の中国の経済見通しについて、沈才彬三井物産戦略研究所中国経済センター長に聞いた。(斎藤真由美)

 ―温家宝首相の訪日の意義は。

 「小泉前首相の時に一時的に途絶えていた首相の相互訪問が再開した。悪化していた日中関係に歯止めをかけた意義は大きい。安倍首相が訪中の時に提起した『戦略的互恵関係の構築』だが、当時は肉付けされずに中身は不明だったが、今回の首脳会談で具体化された」

 「実務面での互恵関係が会談では多く盛り込まれた。日中ハイレベル経済対話の立ち上げ、上海・虹橋空港と羽田空港間のチャーター便の運航、省エネ・環境分野での協力強化、日本産米の輸出解禁などだ。なかでも省エネ・環境分野は、今後の日中間の経済関係のキーワードとなる」

 ―なぜですか。

 「中国の国内総生産(GDP)に対するエネルギー効率は日本の6分の1、米国の3分の1と極端に悪い。また環境問題は、杜甫の詩『国破れて山河あり』ならぬ、『国栄えて山河破れる』ほど深刻。一方、日本は省エネ・環境技術は得意分野だが、マーケットは限られている。省エネ・環境分野は日中相互の強みと弱みを補完できる」

 ―中国は知的財産権の侵害問題があり、中国への技術供与にためらう企業は多い。

 「知財の問題は二つの側面がある。中国政府は努力している。だが、13億人の国民に知財順守の意識が浸透するまでにはまだ時間がかかる。地道な努力を重ね、実績を作っていくことが重要だ。三井物産は06年に松下電工とともにビルエンジニアリング会社の北京清華泰豪智能に資本参加、省エネ指向のビルエンジニアリング事業を展開している。また排出権取引のビジネスチャンスも大きい」

 ―2010年の上海万博以降の経済見通しは。

 「2010年までは軟着陸もしなければ硬着陸もせず、いまの不着陸の高空飛行が続く。しかし、景気にはサイクルがある。政府の規制にもかかわらず、バブル状況にある不動産と株価は要注意だ」

 【略歴】しん・さいひん 81年中国社会科学院大学院修士課程修了。東大、早大などの客員研究員を経て93年三井物産戦略研究所主任研究員。01年から現職。著書に「『今の中国』がわかる本」など。江蘇省出身、62歳。