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【中国経済レポ−ト】
【中国経済レポ−ト】
中国株の急騰には要注意 万博後にバブル崩壊も

沈 才彬
『週刊東洋経済』2007年4月28日号

  • 世界に与えた3つの衝撃
  • 来年まで9%超成長に
  • 米中関係は水面下で連携
  • 2月末の世界同時株安を引き起こした大暴落から2カ月。中国株は、再び高値更新が続いているが、過熱感はないのか。中国経済のスペシャリストが、今後の中国経済の行方を占う。

     北京五輪(2008年開催)を成功させたいという中国政府の思いは、かなり強いようだ。4月11〜13日の温家宝首相の訪日は、そのためにも、日本との友好関係を再構築したいとする中国政府の本音が見え隠れした。

     北京五輪の開催を控えて、中国国民の間には期待感が高まっている。東京五輪(1964年)、ソウル五輪(88年)を控えた日本、韓国もそれぞれ国を挙げて盛り上がった。

     中国もこのムードで、経済成長率が下がることは考えにくく、北京五輪開催までは、株価上昇は続くと見ている。企業業績も堅調で、来年予定されている中国企業への減税(企業所得税は現行の33%から25%へ)なども、後押し要因となるだろう。

     ●世界に与えた3つの衝撃

     現在、中国株はバブルの様相を呈しているとも指摘される。昨年1年間で130%暴騰し、年末に約2500だった上海株価総合指数は、その後2カ月足らずで一気に3000前後まで急騰。その反動減が一因となり、世界同時株安の引き金の一つになった。

     現在3500前後の上海株価総合指数が、世界同時株安直前のようなスピードで4000近くまで急騰すれば、必ず調整局面は訪れる。今回の世界同時株安は、中国経済が挫折した場合に、世界経済がどんな影響を受けるかのシミュレーションになった。世界同時株安は米国経済の失速、円キャリートレード取引の拡大懸念なども原因といわれるが、中国株の暴落が影響したことは間違いない。

     これまで中国株の暴落が、世界同時株安を引き起こしたことはなかった。それが変わったのは、次の三つの動きが象徴している。私はそれを〔1〕連動型、〔2〕連鎖型、〔3〕連想型――と名付けている。

     まず連動型は、世界市場との密接な結びつきに起因した動きだ。米ニューヨーク、香港、シンガポールの3市場は、中国企業が多数上場しており、中国本土の株価暴落が波及しやすい。たとえばニューヨーク証券取引所には、200社以上の中国企業が上場しているのだ。

     連鎖型は、世界市場の実体経済面における中国依存度の高まりだ。中国への輸出依存度が高いのは05年時点(香港含む)で日本(19・5%)、韓国(21・8%)、台湾(21・4%)のほかシンガポールもそうだ。

     3番目が連想型によるものだ。「中国株の下落が、中国経済変調の前兆ではないか、ならば資源エネルギーの需要も減退するのではないか」という連想が、投資家を動かした。この影響を受けたのは、ブラジル、アルゼンチン、ロシア、メキシコ、オーストラリア。これらの国々の対中輸出依存度は高くないが、中国株暴落を契機とした株価下落率が最も大きかった。

     共通しているのは石油や鉄鉱石、非鉄金属などを世界に供給する資源エネルギー国ということだ。中国はここ数年間で、資源エネルギーを大量消費し、各資源の国際価格が急騰した。過去5年で鉄鉱石や石油の価格は3倍以上、銅に至っては5倍以上に上昇している。つまり、資源国市場は、中国の経済成長から大きな恩恵を受けているわけだ。

     ●来年まで9%超成長に

     中国・上海株式も一時暴落したが、現在は高値更新が続く。中国経済は06年まで4年連続で年率10%台の高成長を続けているが、10・7%の経済成長率を記録した06年は明らかに過熱ぎみだ。適正水準は年率7〜9%。9%を超えると過熱状態といえる。今後の見通しでいえば、5年に1度の中国共産党全国代表大会が開かれる今年、そして北京五輪が開催される来年は、経済成長率9%を下回らないだろう。

     ただし、北京五輪開催後、特に10年に開かれる上海万博開催後の中国経済は、ソフトランディングかハードランディングかの選択を迫られる。バブルがはじけて、ハードランディングに陥る可能性もあるので、要注意だ。

     ●米中関係は水面下で連携

     経済にはサイクルがあり、今の世界同時好況が永続するはずはない。何らかのきっかけで不況に転落する可能性は非常に高い。中国発になるかどうかはわからないが、10年前のアジア通貨危機の教訓を忘れてはならない。

     3月末に米国商務省が中国の紙製品に、相殺関税発動を仮決定した。米国議会が民主党主導で動いており、このまま保護主義に舵を切って、米中関係の緊張感が高まるのではないかという指摘はある。

     しかし、米中は対立しているようにみえても、水面下では密接に連携している。中国の外貨準備高の多くは米国国債購入に回っている。さらに、中国にとって米国は、最大の輸出相手国だ。貿易・金融戦争になれば米中は共倒れになる。中国も米国も、いたずらに相手を刺激するような極端な政策は採らない。(談)

    しん・さいひん

    1944年中国江蘇省海門市生まれ。81年中国社会科学院大学院修士課程修了後、同大学院専任講師に就任。84年から東京大学客員研究員、早稲田大学客員研究員、中国社会科学院大学院助教授、お茶の水女子大学客員研究員、一橋大学客員研究人を歴任し、2001年より現職。