《次のレポ−ト レポートリストへ戻る 前回のレポート≫

【中国経済レポ−ト】
【中国経済レポ−ト】
中国「2007年体制」への展望−経済−

沈 才彬
『世界週報』2007年3月13日号

  • 限界に来た「爆食経済」
  • 2007年は「ノーランディング」
  • 食料価格高騰、生産過剰に懸念
  • 名目の元高、実質の元安
  • 日中は新しいステークホルダー
  • ●限界に来た「爆食経済」

     経済面では、「2007年体制」は素材・エネルギーの「爆食型成長」から脱却し、資源・環境にも配慮する「省エネ・節約型成長」を目指す。言い換えれば、中国政府は「量の拡大」から「質の追求」へという成長方式の根本的な転換を求め、経済の安定的な持続成長を図る。

    2002年以降、中国は新たな経済拡張期に入り、素材・エネルギーの「爆食」が目立つ。2004年を例にすれば、中国は10%の成長率で世界GDPの4%を創出したが、消費した原油は世界全体の8.1%、鋼材は27%、石炭は31%、セメント40%をそれぞれ占める。中国の素材・エネルギー「爆食」は、世界経済成長を牽引するエンジン役を演じる一方、国際価格の撹乱要素ともなっており、「中国脅威論」を勢いづかせる側面も否定できない。

     しかし、こうした素材・エネルギーの「爆食」は必ずしも効率を伴っていない。英オイルメジャーBPの統計によると、2005年中国が1万ドルGDPを創出するためのエネルギー消費量は米国の3.7倍、ドイツの6倍弱、日本の6倍に達している。言い換えれば、中国のエネルギー効率は日本の6分の1に過ぎない。

     現在、中国の1人当たりエネルギー消費量は先進国に比べまだ低く、日本の約4分の1強、米国の7分の1に過ぎないが、仮に中国が米国並みの水準に達すれば、世界は中国1国のエネルギー消費を賄えない状態となる。「爆食型成長」は既に限界に来たことは明白だ。「省エネ・節約型成長」への転換、量的成長から質的成長への転換が行われなければ、高度成長の持続は難しい。

     中国政府も危機感を強め、そこで資源や環境にも配慮し、「調和の取れた成長」を目指す方針を打ち出した。「爆食型成長」から「資源・エネルギー節約型成長」へという成長方式の転換は、第11次5カ年計画の最重要課題の1つと位置づけられている。同計画は2010年までに単位GDPのエネルギー消費量を20%削減し、06年は前年比4%減少する、という具体的な数値目標を掲げている。

     しかし、06年前半の実績を見れば、単位GDPのエネルギー消費量は減らないどころか、逆に前年同期に比べ0.8%増えた。その結果、同年原油純輸入は前年比19.6%増、石油製品の純輸入は37.9%増となった。抜本的な対策を講じないと、「爆食経済」からの脱却は難しいと思う。

    ●2007年は「ノーランディング」

    中国経済は2002年から新たな拡張期に入り、03年から4年連続で10%成長が続いている。06年は拡張期のピークを迎え、GDP成長率が10.7%(速報値)に達し、アジア通貨危機以来の最高を記録した。

    中国のGDP成長率の適正水準は7%−9%である。9%を超えれば経済は過熱状態となり、逆に7%を下回ると景気は冷え込み、雇用不安や不良債権問題表面化など様々な問題が出てくる。過熱状態下の経済を適正水準に戻すことは政府の仕事だ。それができれば、「ソフトランディング」と言い、逆に適正水準以下に落ちれば「ハードランディング」と言う。

    今秋には5年に一度の共産党全国大会の開催があり、新しい中央執行部が選出される。これまでの経験則によれば、共産党全国大会の開催の年には経済成長率はなかなか下がらない。例えば、1992年は14.2%増、97年9.3%増、02年9.1%増となり、アジア通貨危機の97年を除けば、いずれも前年の成長率を上回ったものである。従って、筆者は2007年の中国経済は「ソフトランディング」でも「ハードランディング」でもなく「ノーランディング」という9%超の「高空飛行」が続くと思う。

    具体的に、今年中国の輸出増加の勢いは若干弱まるが、15〜20%の伸び率保持が可能と思われる。投資も若干鈍化する。ただし、大きな落ち込みがなく、伸び率は20%台が維持されるのではないかと思う。個人消費は多少増加し、14%前後に達する見通しである。この成長3要素を総合的に見れば、今年の中国経済は緩やかな減速があっても失速する懸念がないと見てよい。GDP成長率は9.5%〜10%になるという予測は妥当と思われる。

    また、2008年には北京五輪開催というビッグイベントがあり、全国が盛り上がるため、成長率もなかなか下がらず、9%を下回ることが考えにくい。しかし、2008年五輪開催までは「ノーランディング」状態が続くが、その後または10年上海万博開催後は、「ソフトランディング」か「ハードランディング」かの選択が迫られる。下手をすれば、「ハードランディング」のシナリオ、つまりバブル崩壊もあり得る。2010年後の中国経済の行方は特に要注意である。

    ●食料価格高騰、生産過剰に懸念

    2007年にいくつかの動向は注意が要る。まずは食料価格の高騰である。

    昨年11月にコメ、小麦、トウモロコシなど穀物価格が27%値上がり、豚肉も17%値上げられた。食料価格の高騰で同月のインフレ率は1.9%に達し、06年通年の1.5%を大幅に上回った。

    こうした食料価格の高騰によって、食糧不足の噂が流され、北京市など一部の都市では米、パン粉、トウモロコシなど食料買いだめ騒ぎが起きている。中国政府は食料価格の高騰を抑え、消費者の不安を払拭するために、06年末までに小麦7回、コメ24回、合計1350万トンの食糧備蓄を緊急放出した。また、国家発展改革委員会は食用穀物を確保するために、今後トウモロコシなど穀物を原料とするバイオ・エタノール生産の新規案件を凍結する方針を打ち出している。

    その後、買いだめ騒ぎは一応収まったが、食料不足の不安はなお根強く残っている。周知のとおり、数年前より中国は食糧輸出大国から純輸入国に転落した。政府系シンクタンクの予測によれば、これまで輸出を続けてきたトウモロコシも早ければ今年、遅くても来年に輸入に転じる。2010年まで年間最大1000万トンのトウモロコシ輸入が視野に入る。

    中国の食糧不足は国際マーケットにも大きな影響を及ぼしかねない。食糧の6割以上が輸入に依存している日本にとって、これは決して対岸の火事ではなく、早急に対応策を講じる必要があると思われる。

    2つ目の動向は生産過剰の懸念である。現在、一部の産業分野の過剰投資が目立ち、その結果は必ず生産過剰をもたらす。

    粗鋼生産を例にすれば、2006年中国の粗鋼生産は前年比約20%増の4億2000万トンにのぼり、日本の3.5倍に相当する。年間増加量は約7000万トンで、新日鉄(04年3043万トン)を2つ増設したのに等しい。

    高尚全・中国体制改革研究会会長によれば、建設中または計画中の案件がすべて完成すれば、2010年の粗鋼生産は6億トンに達し、国内需要(4億トン前後)を大幅に上回ることになる。

    自動車の生産過剰も懸念される。06年中国の自動車生産台数は728万台で、前年(571万台)より157万台も増加した。曹玉書・中国マクロ経済研究会副会長によれば、2010年に中国自動車の生産能力(32社のキャパシティ合計)は1800万台に達し、1000万台前後の実需より800万台も多い。

    国内生産が過剰になれば、必ず輸出に回さ、鉄鋼、自動車分野のバックファイアが懸念される。実際、2006年中国の鉄鋼輸出は輸入量の2倍に相当する4301万トン強にのぼり、世界最大の鉄鋼輸出国になった。今後、中国製品をめぐる貿易摩擦はさらに多発しかねず、特徴としては、現在の繊維製品中心の「糸へん(繊維)摩擦」から徐々に鉄鋼および鉄鋼を原材料とする製品中心の「金へん(鉄鋼)摩擦」へシフトすると思われる。

    ●名目の元高、実質の元安

    4つ目は、人民元の動向である。

    2005年7月、人民元レートは1ドル=8.27元から1ドル=8.11元へと約2%切り上げられた。以降、緩やかな元高が続き、2007年1月11日までこの2%を含めば、累計で5.8%も切り上げられた。

    本来ならば、元高は中国の輸出競争力を削ぐ結果になるが、しかし、実態は元高にもかかわらず、中国の輸出製品の国際競争力が落ちておらず、8〜11月の月別輸出はほぼ30%台という高い水準で推移している。それはいったい何故だろうか?理由は名目の元高、実質の元安にあると思う。

    米ドル対主要国通貨の為替レートを調べて見た。昨年、ドル安が進み、12月8日時点で05年末に比べ、対人民元で3%、対ユーロで11%下がった。人民元対ドルの切り上げ幅がユーロなど主要国通貨の対米ドルの切り上げ幅より遥かに小さいため、人民元の実勢レートは元高ではなく、元安という結果が判明した。実際、中国第3四半期の輸入品価格の値上がり率は9.1%で、輸出品価格の値上がり率4.7%の2倍に相当し、輸出競争力は低下することがなく、むしろ上昇したといえる。

     今年、人民元切り上げの余地はまだ十分にあり、緩やかな元高傾向が続くことは間違いない。ただし、年間切り上げ幅は中国政府の許容範囲の5%以内にとどまると思う。

    ●日中は新しいステークホルダー

     2006年11月中旬、私は山東省政府の招待で、中国人事省、国家外国専門家局、山東省政府が共同主催する第4回山東国内外高度技能人材交流・技術商談会出席のため、山東省の省都・済南市を訪れた。山東大学にて「日中関係の行方と日本の対外直接投資」を題とする講演を行った。

    講演後、質疑応答の際、ある学生から「日本製品不買を唱える人がいる。先生はこのスローガンをどう見ておられるか」という質問を受けた。私は次のように答えた。

    「抗日戦争の時、このスローガンは確かに愛国主義的な表現だったが、今は違う。日中経済は互いに深くビルトインされている現在、日本製品不買は誰のためにもならない。実は多くの日本製品はメード・イン・チャイナであり、中国に進出した日系企業が作ったものである。これらの日系企業は合計3万社、創出した現地雇用は200万人、下請けを含むと900万人。日本製品の不買で、3万社の日系企業が経営破綻になれば、数百万人が失業し、大きな社会不安要素になりかねない。中国は大きな被害を受けることが避けられない。これは本当に「愛国」といえるだろうか。いまこそ日中双方はマイナス発想を捨て、新しいステークホルダー関係を構築すべきではないか」。

    こう答えると、会場から大きな拍手が起きた。学生たちは私の意見を理性的に受け入れ、理解してくれた感動的な一幕であった。若者たちとのナマの交流の大切さを改めて痛感した。

    現在、日本にとって中国は最大の貿易相手国であり、米国に次ぐ2番目の輸出市場となっている。06年、日本の対中輸出(香港を除く)は前年比22.2%増となり、日本全体の伸び率14.6%を大きく上回っている。通年の日中貿易も記録的な2076億ドルに達した。中国マーケットを抜きにして、いま日本の景気動向も産業発展も語れない。

    一方、中国にとって、日本はEU、米国に次ぐ3番目の貿易相手国、2番目の直接投資国である。日本企業は資金、技術、ノウハウなどの面で中国の高度成長に大きく貢献しているのも疑えぬ事実である。

    今後、日中間の相互依存・補完の関係は継続する。ただし、相互依存の度合いは微妙に変化していく。ここ10年、中国の急速な台頭によって、日本の輸出の対中依存度は94年の4.7%から05年の13.5%へと3倍拡大し、GDPの対中依存度(対中輸出がGDPに占める割合)も0.4%から1.8%へと4.5倍へと急増した。それに対し、中国の対日輸出依存度は同期の17.8%から11%へ、GDP依存度は4%から3.8%へと縮小した。日中間の相互依存度の一進一退は正に両国の力関係の微妙な変化の表れに他ならず、見落とされてはいけない。

    2007年は日中国交樹立35周年、日本からの遣隋使派遣1400周年を迎え、日中関係の節目の年となろう。また、今年9月に神戸、大阪で開かれる第9回世界華商大会は日本での初開催となり、2000人超の各国華僑経営者が集まってくる。日本、特に関西経済にとっては「追い風」となろう。

    また、06年10月の安倍首相の訪中に続き、07年温家宝首相の日本訪問も確実となっている。5年間中断したままの日中首脳相互訪問の再開は、実に意義が大きい。政治関係の改善と経済交流の拡大というシナジ効果が期待され、経済界は心から望んでいる。