【中国経済レポ−ト】
中国で起こる「3M」ブ−ムに乗り遅れるな
沈 才彬
「エコノミスト」誌2003年3月4日号
2002年、中国のGDP総額は10兆2000億元(約1兆2300億ドル)に達し、1人当たりGDPは970ドルで、今年1000ドル突破は確実な状態となる。
それでは、1人当たりGDPが1000ドルを突破すると、中国は何が起きるか。結論から言えば、3M(マイカ−、マイホ−ム、モバイルテレコム《携帯電話》)ブ−ムが起き、個人の海外旅行も企業の対外直接投資も急増する。これらの動きはいずれも日本の景気動向に直接に関わっており、注目すべき動向である。
中国の3Mブ−ムが日本の設備稼働率を上げる
市場の観点から21世紀にビジネス世界に注目される有望な分野は3Mと呼ばれる中国のマイカ−、マイホ−ム、モバイル・テレコムである。そのうち、マイカ−の潜在力は最も大きいと見られる。
日本が「マイカ−時代」を迎えたのは1960年代のことである。64年に東京オリンピックが開催され、66年1人当たりGDPが1000ドル達成。以降、マイカ−は中間層を中心に急速に普及し始め、100人当たり乗用車保有台数で見た場合、毎年前年比1ポイントずつ増え続けてきた。一方、マイホ−ムの急速な普及を見せ始めたのも60年代のことであった。
モ−タリゼ−ションでは今の中国は60年代の日本に似ている。中国の発表によれば、02年に中国の自動車生産台数は前年比38.5%増の325万台に達し、そのうち乗用車の生産台数と販売台数はそれぞれ109万台と112万台で、いずれも前年比55%増と爆発的な伸びを示している。
しかし、マイカ−の普及率について言えば、北京市のような4%台に達した地域も出現しているが、全国レベルでは依然1%台にとどまっている。13億人口の市場を考えると、拡大の余地が大いにあることは自明の理である。今後、経済成長に伴う富裕層、中間層の増加を背景に、08年北京オリンピック開催を挟んで、2010年前後に中国でマイカ−が急速に普及することは疑う余地がない。市場規模で言えば、2010年の乗用車販売台数は現在の3倍に相当する300万台になる確率が大きく、乗用車を含む自動車の国内販売台数は日本を上回る可能性も秘められる。
自動車産業は中国の基幹産業と位置付けられている。裾野が広いため成長に伴い、その原材料である鉄鋼、ゴム、石油、化学などの産業分野、プラスチック、金型などの部品分野の発展も期待される。今後20年、自動車産業は中国の経済成長を支える最重要ファクタ−になることは確かである。
現在、日本自動車業界の中国市場に対する期待感が高まっており、日産、トヨタ、ホンダなど中国進出の大型案件が目立つ。一方、中国向けの自動車輸出も拡大している。02年、中国の自動車輸入台数は前年比76.6%増の12万台超となり、そのうち半分以上が日本車である。トヨタ一社だけで対中輸出は4万7千台で、2年前に比べ4倍増を記録した。今後、中国との貿易摩擦が起こらない限り、日本車の対中輸出拡大が期待されるとともに、自動車と密接なかかわりがある鋼材、化学製品などの中国向け輸出も期待される。
実際、中国自動車用鋼材の需要急増のため、02年日本の対中鉄鋼輸出は前年比約50%増の650万トンとなり、鉄鋼輸出全体の約18%、全国鉄鋼生産量の約6%を占めている。中国の自動車産業および次に述べるIT産業、住宅産業の鋼材需要の動向は、日本の設備稼働率などを左右する要素にもなっている。
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不動産バブルの再燃は要注意
モバイル・テレコム(携帯電話)もブ−ムとなっている。01年、中国の携帯電話保有台数は1億4480万台に達し、米国を抜き世界最大市場となった。02年は引き続き爆発的な成長が続き、保有台数は前年比5970万台増の2億台を突破し、一年の増加分で日本保有台数のト−タルに相当する。
しかし、世界最大の市場規模となったにもかかわらず、普及率で言えばまだ16%にとどまっている。現在、日本の携帯電話普及率は約65%だが、日本並の水準に到達すれば、中国の携帯電話保有台数は8億台になり、日米欧のト−タルを上回る規模になる。月ごとに約500万台の新規加入台数を増え続けている現状を見れば、これは決して遠い先のことではない。携帯電話を中心とする中国IT産業の躍進は、経済成長を牽引する原動力の1つともなっている。
マイホ−ムブ−ムも到来している。1998年朱鎔基首相は、持ち家制度導入を中心とする住宅制度改革を行い、従来の社宅制度を是正してきた。これによって、国民にとって昔の夢だったマイホ−ムは着実に現実味を帯びてきた。02年、中国の住宅産業は前年比28%増を記録したが、今後20年間にわたって成長が続く見通しである。
ただし、不動産バブルの再燃は要注意である。朱首相は昨年12月に開かれた中央経済活動会議で演説した時、不動産バブルの再燃に対する懸念を次のように表明したという。「私は高所(高度成長)恐怖症だ。成長率は高すぎると困る。今、不動産バブルの兆しが出ており、その再燃に気をつけなければならない」と。われわれは住宅産業分野のビジネスチャンスに注目すると同時に、バブル再燃のリスクを見逃してはならない。
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海外旅行をする人も急増
1人当たりGDPが1000ドルを突破すれば、レジャ−ブ−ムが起きることは各国の経験である。豊かさの実現によって、国民は国内旅行のみならず、海外旅行も楽しむ向きがあるからである。
02年、中国の観光人数はト−タルで9億6800万人(うち海外からの観光者数9800万人)に達し、通年観光収入5500億元(約630億ドル、うち外貨収入200億ドル)を実現し、GDPの5.4%(うち海外観光者による外貨収入がGDPの1.7%)も占めている。観光業はいま、自動車、住宅、IT産業と並んで中国の経済成長を牽引する4大基幹産業の1つともなっている。
一方、国民所得水準の向上と出国規制緩和を背景に昨年中国の出国人数は前年比36.8%増の1899万人に達した。そのうち404万人が観光・レジャ−の目的で、155万人が友人・親族訪問の目的で海外に行ったものである。筆者の試算によれば、豊かになってきた中国人の海外観光者数(友人・親族訪問を含む)は向こう10年にわたり年平均20%の伸び率で逓増し、05年に1000万人突破、10年に2000万人を突破する見通しである。
統計によれば、02年1−9月に日本訪問の中国人観光客(友人・親族訪問を含む)は34万7802人万で、前年比15.3%も増えた。香港・マカオを除けば、日本は中国人の一番の渡航先となっている。
日本は世界第2位の経済大国であり、歴史、文化、自然という観光資源に恵まれる国でもある。しかし、2001年に日本訪問の外国人観光客は477万人で、同年日本人海外観光者数1622万人の29%に過ぎず、観光小国の実態が浮き彫りになっている。
政府は2010年までに外国人観光客数を1000万人に増やす「観光プラン」を策定しているが、この目標を実現すれば、経済効果と雇用効果が大きく期待される。ただし、目標達成のためには、毎年9%の伸び率確保が必要条件である。いかに高度成長の中国からより多くの観光客を誘致するかは実際、この観光プラン成否の鍵を握っている。現在、中国人観光客を対象とする日本側の入国規制が厳しく(例えば日本観光許可地域は北京、上海、広州3都市に限られ、団体旅行のみとの制限もある)、観光振興のマイナス要素ともなっている。「観光プラン」実現のために一層の規制緩和が不可欠と見られる。
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日本に中国企業誘致を
これまで中国は基本的に直接投資受入の立場にある国であった。02年、中国の直接投資は実績ベ−スで527億ドルに達し、米国を抜いて世界最大の直接投資受入国となった。統計によれば、昨年末までに設立された外資系企業の累計は42万4196社、導入された外資は実績ベ−スでは4480億ドルにのぼる。膨大な外国直接投資は、中国の経済に多大な役割を果たし、経済成長を牽引する原動力ともなっている。実際、2001年、中国GDPの17%、設備投資の10%、鉱工業生産の27%、鉱工業企業利益の29%、輸出の51%、税収入の19%は外資系企業によるものであった。
対内投資に比べ、中国企業の対外投資がまだ小さい。石広生・対外貿易経済協力相によれば、02年6月までに海外に進出した中国企業は6758社、投資総額(非金融部門)は132億ドル(契約ベ−ス)で対内投資8260億ドルの100分の1程度に過ぎない。
しかし、経済実力の増大に伴い、特に1人当たりGDP1000ドル突破以降、直接投資の受入のみならず、中国企業の対外投資の活発化も予想される。現在、中国政府は国内企業の海外進出を奨励する方策を打ち出しており、江沢民国家主席は昨年11月に開かれた党大会での演説の中で、「比較優位のある国内企業の海外進出を奨励・支持する」と表明した。競争力の向上に伴い、中国企業の活発な海外進出が期待される。
GDP総額に占める対内直接投資累計額の割合は、ドイツ22%、米国27%、英国32%に比べ、日本は僅か1%にとどまっている。対内直接投資の不振は、景気低迷の一因と見られ、積極的な外国投資誘致政策はいま経済振興策の一環として求められている。
そこで益々実力がついてくる中国企業誘致も視野に入る。確かに中国企業の対日投資は金額ではまだ小さい。2001年度は僅か2億円で、日本対内直接投資全体の0.1%も満たしていない。しかし、日本進出の中国企業がこれから益々増えることは間違いない。実際、素早く中国企業誘致に動き出した日本の地方自治体も出ている。日本の大阪市も昨年初めて中国企業を対象とする投資説明会を上海で開催した。
これまでの中国企業の対日投資は、商社型(日中間貿易)、メ−カ−の販売拠点型(例えば、海爾と三洋電機の合弁販売会社)およびソフトウェア型(例えば、北京大学の先端企業・北大方正の日本子会社など)がメ−ンだったが、02年印刷機械の中堅会社・秋山印刷機械に対する上海電気集団の買収をきっかけに、日本企業を対象とするM&Aも活発化する見通しである。
要するに、1000ドル突破で中国の3Mブ−ムが起き、個人も企業も海外に目を向け始める。日本は戦略的な視野に立って、この大きな流れに生まれてくるビジネスチャンスを見逃さないように対策と行動を講じるべきである。
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