《次のレポ−ト レポートリストへ戻る 前回のレポート≫

【中国経済レポ−ト】
【中国経済レポ−ト】
緩やかに減速しても失速する懸念はない

沈 才彬
『エコノミスト』2007年2月12日号

  • 2007年の成長率は9.5%〜10%
  • 名目の元高、実質の元安
  • ●2007年の成長率は9.5%〜10%

    中国はいま米国と並び世界経済を引っ張るもう1つのエンジンである。中国の2006年の経済成長率は10.7%で、アジア通貨危機以来の最大の伸びを達成し、4年連続10%台の高度成長が続いている。

     10%超の経済成長は適正水準を越え、過熱気味を帯びているのは明らかだ。中国のGDP成長率の適正水準は7%−9%である。9%を超えると、経済は過熱状態となり、中国政府はマクロコントロ-ル政策と金融引き締め政策を導入し、過熱抑制に動き出す。一方、7%を下回ると、景気は冷え込み、雇用不安や不良債権問題表面化など様々な問題が出てき、政府は必ず積極財政出動など景気刺激策を打ち出す。

    過熱状態の中国経済を適正水準に戻すことは政府の仕事だ。それができれば、「軟着陸」に成功し、逆に適正水準以下に落ちれば、「硬着陸」といえる。

    現在、中国の経済学界では、「軟着陸」か「硬着陸」をめぐって大論争を展開している。しかし、私から見れば、向こう2年間、中国経済は「軟着陸」も「硬着陸」もなく「不着陸」が予想される。言い換えれば、9%超の「高空飛行」が続くのである。

    私の見方に根拠がある。今秋には5年に一度の共産党全国大会の開催があり、新しい中央執行部が選出される。これまでの経験則によれば、共産党全国大会の開催の年には経済成長率は下がらない。例えば、1992年は14.2%増、97年9.3%増、02年9.1%増となり、アジア通貨危機の97年を除けば、いずれも前年の成長率を上回ったものである。従って、今年の中国経済は昨年より多少減速するが、失速はないと思う。GDP成長率は9.5%〜10%になるという予測は妥当と思われる。

    具体的に、輸出は昨年より若干鈍化するものの、15〜20%の伸び率を確保できると思われる。

    投資も若干鈍化する。ただし、大きな落ち込みがなく、伸び率は20%台が維持できると見ている。個人消費は多少増加し、14%増前後に達する見通しである。この成長3要素を総合的に見れば、今年の中国経済は緩やかな減速があっても失速する懸念がないと見てよい。

    また、2008年には北京五輪開催という歴史的なイベントがあるため、国挙げての盛り上がりムードの下では経済成長率は9%を下回るようなシナリオが考えにくい。

    しかし、08年五輪開催または2010年上海万博開催後は、「軟着陸」か「硬着陸」かの選択が迫られる。下手をすれば、「硬着陸」のシナリオ、つまりバブル崩壊もあり得る。

    ●名目の元高、実質の元安

     今年も人民元の動向には引き続き注意が必要である。05年7月、人民元レートは1ドル=8.27元から1ドル=8.11元へと約2%切り上げられた。以降、緩やかな元高が続き、06年11月30日時点で1ドル=7.83元まで上昇し、元切り上げ後累計で3.45%の元高となった。特に、06年7月以降、元高が一気に進み、11月末時点で前年末に比べ約3%元高、ドル安となった。

    しかし、元高にもかかわらず、中国の輸出製品の国際競争力が落ちておらず、8〜11月の月別輸出はほぼ30%台という高い水準で推移している(図5を参照)。それはいったい何故だろうか?理由は名目の元高、実質の元安にあると思う。

    米ドル対主要国通貨の為替レートを調べて見た。昨年、ドル安が進み、12月8日時点で05年末に比べ、対人民元で3%、対ユーロで11%下がった。人民元対ドルの切り上げ幅がユーロなど主要国通貨の対米ドルの切り上げ幅より遥かに小さいため、人民元の実勢レートは元高ではなく、元安という結果が判明された。実際、中国第3四半期の輸入品価格の値上がり率は9.1%で、輸出品価格の値上がり率4.7%の2倍に相当し、輸出競争力は低下することがなく、むしろ上昇したといえる。

     今年、人民元切り上げの余地はまだ十分にあり、緩やかな元高傾向が続くことはまちがいない。ただし、年間切り上げ幅は中国政府の許容範囲の5%以内にとどまると思う。