《次のレポ-ト レポートリストへ戻る 前回のレポート≫

【中国経済レポ-ト】
【中国経済レポ-ト】
2013年、中国は日本のGDPを追い抜く

沈 才彬
『エコノミスト』誌臨時増刊10月9日号

  • 2013年に中国は日本を抜く
  • 2008年は重要な年
  • 「2007年体制」の発足に向けて
  • 「三和主義」が基本政策へ         
  • 「爆食経済」からの脱却が課題
  • 過熱経済の再燃も懸念
  • 生産過剰は要注意
  • 内需依存への転換がカギ
  •  2003年10月、アメリカの投資会社ゴールドマン・サックスは投資者向けのレポート『BRICsとともに夢を見る2050年への道』を発表した。このレポートによれば、2016年中国は約5兆ドルの経済規模で日本を抜き世界第2位の経済大国になると予測した。

     しかし、この予測は次の3つの要素により中国の経済規模を過小評価していることは明らかである。

    まずは予測のベースになる2000年基礎データの問題である。ゴールドマン・サックスのレポートは、中国政府が国内総生産(GDP)修正値を発表した前のデータを採用したが、このデータは2005年11月に大幅に修正された。修正後の同年GDPは1兆1996億ドルで修正前に比べ11%も拡大した。基礎データの変更によって、予測の結果も大きく変わる。

    2つ目はGDP成長率の予測値と実績値の乖離である。ゴールドマン・サックスのレポートは中国の2001-05年のGDP成長率を8%と予測したが、実績は9.5%に達した。06-10年の経済成長率についても、レポートは7.2%と予測したが、今年上半期実績10.9%を見る限り、向こう5年間の年平均成長率は8%を下回ることはないと思う。

     3つ目は為替レートの変動である。ゴールドマン・サックスのレポートの予測は単純に経済成長率で試算した結果であり、人民元切り上げ要素を十分に考えなかった。しかし実際、中国政府は昨年7月に人民元を2%切り上げた。今後10年、年間ベースで3%程度の元切り上げも考えられる。

    ●2013年に中国は日本を抜く

    上述3つの要素を考慮して試算すれば、実際に中国経済が日本を抜くのは2013年と思う。

    世界銀行2006年7月1日付レポートは、2005年中国の経済規模は日本(4兆5059億ドル)の5割弱に相当する2兆2289億ドルにのぼり、フランス、イギリスを抜き世界第四位になったと発表した。向こう5年間、中国は年平均GDP成長率8.6%、元切り上げ3%、日本はGDP成長率1.9%、為替レート不変で試算すれば、2010年の中国経済規模は3.86兆ドルにのぼり、日本の4.95兆ドルの8割弱になる。

    また、2011-15年、中国は年平均GDP成長率7.5%、元切り上げ3%、日本はGDP成長率1.4%、為替レート不変で試算すれば、2013年中国の経済規模は5.21兆ドルで日本の5.16兆ドルを凌ぐ。なお、2015年の中国GDPは6.36兆ドルで日本の5.31兆ドルを大幅に上回る。

    なお、購買力平価(ppp)ベースでは2005年時点で、中国のGDPは既に8.5兆ドルにのぼり、日本(3.9兆ドル)の2倍に相当し、アメリカ(12.4兆ドル)に次ぐ世界第2位となった。

    ただし、2013年中国の経済規模は日本を上回っても、1人当たりで計算すればまだ4000ドル弱で日本の10分の1程度に過ぎず、国民平均所得で日本に追いつくのはかなり先のことであろう。

    ●2008年は重要な年

     2008年は中国にとって極めて重要な年になる。この年に北京オリンピックが開催される(8月)のみならず、4つの重要な選挙もあり、中国をめぐる国際環境は大きく変わる可能性があるからである。

    4つの選挙とは、国家主席・首相選出の中国の全人代選挙(3月)、ロシアの大統領選挙(3月)、台湾の「総統」選挙(3月)、アメリカの大統領選挙(11月)のことをいう。中国を除いて、ほかの3カ国・地域はいずれもトップが交代される見通しである。

    そのうち、中国が一番神経を尖らすのは台湾の「総統」選挙であろう。台湾独立を主張する民進党の候補が勝つか、それとも「1つの中国」を主張する国民党の馬英九氏が勝つか。結果次第で台湾独立加速か中国統合に傾けるかという情勢変化の可能性も出てくるので、中国は警戒心を強めるのは確かだ。

     これらの一連の選挙と五輪開催に備え、事前に体制を整えるために、2007年の秋に、5年に一度の共産党全国大会が開催され、新しい執行部を選出し、「2007年体制」が発足する。いま「2007年体制」の発足に向けて、人事、政策、経済面の準備作業が着々進んでいる。

    ●「2007年体制」の発足に向けて

    来年秋に開かれる第17回共産党全国大会で胡錦涛総書記が続投し、胡―温体制が継続することは予想される。二期目の胡錦涛政権は江沢民氏の影響から脱却し、自分のカラーを前面に打ち出し、「胡錦涛時代」は本格的にスタートする。

     それではいわゆる「2007年体制」はどんな特徴を持つだろうか。

    人事面の特徴としては、「団派」(共産主義青年団出身者)の台頭、「建国後世代」の活躍および人文・社会系の復権などが挙げられる。

    まずは「団派」の台頭である。胡錦涛国家主席は嘗て共産主義青年団トップであった。胡氏は権力基盤を固めるため、彼の出身母体である共産主義青年団出身者を抜擢し、「団派」人脈を活用すると見られる。

    2003年胡錦涛政権発足以降、「団派」の台頭が目立つ。地方では李克強・遼寧省書記、李源潮・江蘇省書記、張慶黎・チベット自治区書記、劉奇葆・広西自治区書記などは、共産主義青年団出身である。中央では李徳洙・民族委員会大臣、李至倫・監察省大臣、李学挙・民政省大臣、呉愛英・司法省大臣、杜青林・農業省大臣、張維慶・人口・計画出産委員会大臣、劉鵬・国家体育総局長らも共産主義青年団出身である。

     来年秋に開かれる第17回党全国代表大会で、李克強・遼寧省書記ら複数の「団派」幹部が中央執行部(中央政治局)メンバーに選ばれる確率が高いと見られる。

     2つ目は「建国後世代」の活躍である。1949年新中国樹立後に生まれた若手幹部は地方を中心に台頭し、地方または中央官庁のトップに就いている。例えば、李克強・遼寧省書記(50歳)、習近平・浙江省書記(52歳)、韓正・上海市長(51歳)、張春賢・交通省大臣(53歳)、劉志軍・鉄道省大臣(53歳)などはいずれも1950年代生まれの「建国後世代」である。彼らの中から目立つ実績を上げた方が来年秋に開かれる党大会で中央執行部メンバーとして登場するのは確実である。「建国後世代」の人たちは、いずれも革命経験がないため、共産主義イデオロギーのカラーが薄く、実務志向が強い。

    3つ目は人文・社会系の復権である。江沢民、朱鎔基両氏を代表とする第3世代指導者、胡錦涛氏を代表とする第四世代指導者たちは、いずれも清華大学をはじめ理工系大学出身者が中心であった。しかし、李克強・遼寧省書記(北京大学経済学博士)、李源潮・江蘇省書記(北京大学MBA))ら第五世代指導者の候補と見なされる人たちは北京大学をはじめ人文・社会系大学出身者が多い。テクノクラートから専門家官僚へという指導層の変化が伺える。

    ●「三和主義」が基本政策へ

     政策面では、「三和主義」が二期目の胡錦涛政権の特徴となる。

    もし「江規胡随」(江沢民前国家主席が決めた政策・方針は胡錦涛氏が引き続き実行する)を第一期目の胡錦涛政権の特徴とすれば、第二期目からは胡氏独自のカラーが益々前面に打ち出される。いわゆる「三和(3つの和)主義」は今後、胡錦涛政権の内政外交の基本政策となろう。

    「三和主義」とは、国内には「和諧(調和の取れた)社会」の構築を目指し、国際には「平和的台頭」を目指し、台湾問題では「平和的統一」を目指すことをいう。国内には内乱を回避し、台湾・国際問題には武力衝突を避け、経済成長に全力投球したいというのが胡錦涛政権の本音である。

    中国の歴史から見れば、歴代王朝にとって最大の脅威は農民蜂起、つまり内乱である。毛沢東の共産党政権も農民革命の形で蒋介石の国民党から政権を取ったのである。内乱回避は古今を問わず、中国歴代政権の最重要課題である。現在、中国には貧困層と富裕層の貧富格差、農村部と都市部の所得格差、内陸部と沿海部の地域格差が拡大し、高度成長から取り残される貧困層、農村部、内陸部の人たちは不満が溜まっており、各地に暴動も多発している。また、進む経済改革と進まぬ政治改革という政経乖離が起きており、腐敗現象の蔓延に加えて、国民の政治不信も強まっている。政治と経済、人間と自然環境および社会階層間、地域間の不調和が目立ち、胡錦涛政権はこうした不安定要素を無視できない。そこで中国政府は「和諧社会」の構築を提起し、内乱の芽を摘もうとしている。

    国際的には中国の急速な台頭と政治・軍事面の不透明感によって、「中国脅威論」は高まっている。中国政府が「平和的台頭」と台湾問題の「平和的統一」を目指すことは、「中国脅威論」を自ら意識し、アメリカをはじめ外国の懸念を緩和させる狙いがある。

    ●「爆食経済」からの脱却が課題

     経済面では、中国政府は素材・エネルギー「爆食型成長」から脱却し、資源・環境にも配慮する「省エネ・節約型成長」を目指す。言い換えれば、中国政府は「量の拡大」から「質の追求」へという成長方式の根本的な転換を求め、経済の安定的な持続成長を図る。

    2002年以降、中国は新たな経済拡張期に入り、素材・エネルギーの「爆食」が目立つ。2004年を例にすれば、中国は10%の成長率で世界GDPの4%を創出したが、消費した原油は世界全体の8.1%、鋼材は27%、石炭は31%、セメント40%をそれぞれ占める。

    しかし、こうした素材・エネルギーの「爆食」は必ずしも効率を伴っていない。英オイルメジャーBPの統計によると、中国が1万ドルGDPを創出するためのエネルギー消費量は米国の3.5倍、ドイツの6倍、日本の6.5倍に達している。言い換えれば、中国のエネルギー効率は日本の6分の1弱に過ぎない。

    現在、中国の1人当たりエネルギー消費量は先進国に比べまだ低く、日本の約4分の1、米国の8分の1に過ぎないが、仮に中国が米国並みの水準に達すれば、世界は中国1国のエネルギー消費を賄えない状態となる。「爆食型成長」は既に限界に来たことは明白だ。「省エネ・節約型成長」への転換、量的成長から質的成長への転換が行われなければ、高度成長の持続は難しい。

    中国政府も危機感を強め、そこで資源や環境にも配慮し、「調和の取れた成長」を目指す方針を打ち出した。「爆食型成長」から「資源・エネルギー節約型成長」へという成長方式の転換は、第11次5カ年計画の最重要課題の1つと位置づけられている。同計画は2010年まで単位GDPのエネルギー消費量を20%削減し、06年は前年比4%減少する、という具体的な数字目標を掲げている。

    しかし、今年上半期の実績を見れば、単位GDPのエネルギー消費量は減らないどころか、逆に前年同期比0.8%も上昇した。その結果、今年1-6月の原油輸入は前年同期比15.6%増、石油製品の輸入は16.1%増となった。抜本的な対策を講じないと、「爆食経済」からの脱却は難しいと思う。

    ●過熱経済の再燃も懸念

     今年1-6月、中国のGDP成長率は10.9%に達し、特に第2四半期は11.3%とアジア通貨危機以降最大の伸びを記録した。全国31省・市・自治区のうち23地区の域内総生産は12%を上回り、内モンゴル(18.2%)、江蘇(15.4%)、山東(15.3%)、天津市(14.4% )、広東(14.4%)、浙江(14.1%)など6地区は14%を超えている。経済成長の熱狂振りは際立ち、過熱の再燃が懸念される。

     過熱再燃の原因は投資、銀行貸し出し、マネーサプライという3つの過剰にある。今年上半期の固定資産投資(設備、インフラ、不動産など)の伸び率は29.8%にのぼり、前年に比べ4ポイント高い。省別の都市部固定資産投資の伸びを見れば、吉林が55.5%、安徽54.1%、河南48.8%、河北44.4%、内モンゴル43.5%、青海42.3%、福建41.5%と、合計7地区が40%も超えている。

    金融機関の過剰貸し出しも目立つ。6月末の金融機関の人民元貸出残高は前年同期比15.2%増で、伸び率は前年同期を2ポイント上回った。1-6月の新規貸出累計は2兆1800億元にのぼり、前年同期より7233億元も多かった。

    マネーサプライも過剰だ。今年6月末時点の広義通貨供給量残高は前年同期比18.4%増、市中現金残高は同12.6%増、伸び率はいずれも前年同期より2ポイント以上高い。中国政府は投資、銀行貸し出し、マネーサプライという3つの過剰にどうメスを入れ過熱を抑制するかが注目される。

    現在、中央政府は金融引き締め政策や不動産投資抑制など過熱抑制策を打ち出しているが、効果が限定的にとどまると思われる。なぜならば、今年は第11次5カ年計画スタートの年であり、07年に5年に一度の共産党大会開催、08年に北京五輪開催もあるため、経済成長率を簡単に下げられる環境ではないからである。08年まで「ソフトランディング」もなく「ハードランディング」もなく、実際は「ノーランキング」で高空飛行が続く見通しである。しかし、09年以降は「ソフトランキィング」か「ハードランキング」かが迫られる。下手をすれば、バブル崩壊もあり得る。

    ●生産過剰は要注意

    過剰投資の結果は必ず生産過剰をもたらす。中国の生産過剰の行方は特に要注意である。

    粗鋼生産を例にすれば、2005年中国の粗鋼生産は前年比24.6%増の3億5239万トンにのぼり、日本の3倍に相当する。年間増加量は6957万トンで、新日鉄(04年3043万トン)を2つ増設したのに等しい。06年上半期の生産実績を見れば、今年4億トン突破が確実な状態となっている。

    高尚全・中国体制改革研究会会長によれば、建設中または計画中の案件がすべて完成すれば、2010年の粗鋼生産は6億トンに達し、国内需要(4億トン前後)を大幅に上回ることになる。

    自動車の生産過剰も懸念される。曹玉書・中国マクロ経済研究会副会長によれば、2010年に中国自動車の生産能力(32社のキャパシティ合計)は1800万台に達し、1000万台前後の実需より800万台も多い。

    国内生産が過剰になれば、必ず輸出に回さ、鉄鋼、自動車分野のバックファイアが懸念される。今後、中国製品をめぐる貿易摩擦はさらに多発しかねず、特徴としては、現在の「糸へん(繊維)摩擦」から徐々に「金へん(鉄鋼)摩擦」へシフトすると思われる。

    ●内需依存への転換がカギ

    今年1-6月、中国の貿易黒字は前年同期比55%増の614億ドルとなり、通年は昨年の1019億ドルを大幅に上回ることは確実な状態となっている。貿易黒字の急増は貿易摩擦の多発と人民元切上げ圧力の強まりをもたらしかねない。

    改革・開放以降、中国は輸出牽引型経済成長を続け、成功を遂げてきた。しかし、輸出依存は元安維持を前提にしたものであり、結果的には貿易黒字と外貨準備高の急増をもたらしている。

    輸出依存型成長のため、政府は絶えず米ドル買いの市場介入を通じて元高を抑えている。1日あたりの政府介入規模は、2005年では6億ドル程度だったが、今年1-6月ではさらに8億ドルに拡大した。市場介入だけで中央政府は毎日50億元相当の人民元を市場に供給しなければならない。マネーサプライの過剰と流動性の加速は、結果的には経済の過熱と不動産バブルをもたらしている。

     米ドル買いによる元安維持をやめない限り、3つの過剰の是正も輸出依存の脱却も難しい。過熱抑制の効果も限定的なものにとどまる。

    周知のように、輸出依存の体質は極めて脆弱なものであり、世界経済が変調した場合、中国は大きな打撃を受けざるを得ない。バブル崩壊のリスクも否定できない。従って、中国政府は輸出依存の体質から脱却し、内需依存への構造転換を促すためにも、人民元の切り上げを容認せざるを得ない。今後、元高方向に向かうことは間違いないだろう。