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【中国経済レポ−ト】
【中国経済レポ−ト】
障子を開けて見よ 外は広い−グローバルの中の日本の進路−

沈 才彬
『生産性新聞』2006年4月5日号

今年2月下旬、筆者は静岡県湖西市の三上市長の招きで同市主催のトップセミナ−にて講演した。この湖西市はトヨタ自動車の創業者・豊田佐吉氏の生家であり、「豊田佐吉記念館」も開設されている。「障子を開けてみよ。外は広いぞ」という佐吉氏の名言は、記念館のパンフレットの表紙を鮮やかに飾っている。100年前の佐吉氏のこの言葉はまさに「世界のトヨタ」の原点であり、グローバル時代の日本の進路も示唆されたものと思われる。

●グローバル時代に3つの視点が必要

日本の人口は2005年から減少傾向に入り、少子高齢化はいっそう加速している。グローバルの中の日本の進路を考える場合、次の3つの視点は極めて重要と思う。

まずは「もはや国内だけでは飯が食えない」という視点である。現在、バイオ、ナノテクなど一部の新興分野を除き、日本の産業分野のほとんどは国内需要がほぼ飽和状態となり、市場規模の縮小傾向が益々鮮明になっている。自動車産業を例にすれば、2005年の新車販売台数は585万台で、ピーク期の1990年の777万台に比べれば、約2割縮小した。今後、総人口の減少によって、国内需要のさらなる縮小が避けられない。日本企業は生き残るために、海外市場の開拓が不可欠である。近年、自動車産業の好景気はまさに海外市場開拓の結果にほかならない。

2つ目の視点はBRICsの視点である。現在、アメリカ市場もEU市場もほとんどの分野では日本と同じように国内需要は飽和状態となっている。日本にとって、実際に頼るのはBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)と呼ばれるエマ−ジング市場であり、昨年日本の総輸出の半分近くを中国、ASEANなどエマ−ジング市場のアジアが占めている。日本企業はBRICsに代表されるエマ−ジング市場の開拓に力を入れなければならない。

3つ目の視点は中国ダイナミズムの視点である。BRICs4カ国のうち、日本にとって巨大市場といえるマ−ケットは現段階ではまだ中国だけである。2005年、日本のBRICs4カ国向け輸出はト−タルで14兆円弱。そのうち中国(香港を含む)向け輸出は13兆弱で、ブラジル、インド、ロシア3カ国合計(1兆円強)の12倍となり、中国市場の存在感がいかに大きいかがわかる。日本企業が長期的な視野に立ち、引き続き中国市場の開拓に注力する必要性は自明の理である。

●中国ダイナミズムと日本企業の進路

現在、中国をめぐる人流(ヒトの流れ)、物流(モノの流れ)、金流(カネの流れ)の構造はダイナミックな変化が起きている。まずは人流の変化である。中国はこれまで外国観光者受け入れ国として知られてきたが、今はアジア最大の観光客輸出国ともなった。国民の豊かさの実現によって、2005年中国の出国者数は3100万人にのぼり、日本の1740万人より1300万人も多い。より多くの中国人観光客を日本に誘致することは、レジャ−関連ビジネスのチャンスになるのみならず、地域経済の活性化にも繋がる。

次は物流の変化である。現在、中国は「世界の工場」にとどまらず、巨大な市場にもなっている。昨年、中国の輸出入総額は日本の1.3倍に相当する1兆4000億ドルで、米・独に次ぐ世界第三位となった。中国の輸出入の急増によって、世界の物流構造は激しく変化している。2005年世界主要港のコンテナ取扱量は1位香港、2位シンガポール、3位上海、4位深?、5位釜山、6位高雄の順で、ベスト6はいずれも中国関連業務が中心である。日本を基点とする物流構造も大きく変化し、これまで米国を中心とする構造はいまアジア中心、特に中国中心へ変わっている。財務省の貿易統計によれば、05年日本を基点とする物流(貿易)全体に占めるシェアは、中国(香港を含む)はトップで20.1%、2位の米国(17.9%)を大きく上回っている。

最後は金流の変化である。これまで中国をめぐる資本の流れは基本的に一方通行で、中国は海外から膨大な資本を取り込むことで高度成長を牽引してきた。しかし最近では中国から海外に向かう資本逆流が起きている。例えば、2002年に日本の中堅印刷メ-カ-の秋山印刷機械、2004年に歴史がある工作機械メ-カ-の池貝は相次いで上海電気に買収された。04年末に米IBMのパソコン事業も中国のPCメ-カ-最大手の聯想集団(レノボ)に買収された。高度成長の持続、人民元の切り上げおよび企業実力の増強によって、中国企業の海外進出は大きな流れとなり、内外資本の真の双方向交流の時代が訪れてくる。

このように、一方的なヒト・モノ・カネの流れがいずれも双方向になってきた。こうしたダイナミックな変化が起きる時には、必ずビジネスチャンスが生まれる。日本企業はこの時代の変化を敏感に捉え、「日中双方向ビジネス」の創出に注力すべきである。

●「揚長避短」の戦略

 「障子を開けてみよ。外は広いぞ」。いまこそ豊田佐吉氏のこの言葉を、日本企業はもう一度噛み締めるべきである。

それでは日本企業は世界に目を向ける時、どんな戦略が必要であろうか。

中国語にはという熟語があり、長所・強みを活かして短所・弱みを回避するという意味である。これは正にグローバル時代に生き残る日本企業の取るべき戦略と思う。

日本企業の長所・強みは優れた技術力とブランド力にあり、短所、弱みはコスト高にある。日本企業は優れた技術力・ブランド力を活かして、付加価値が高い新しい技術・素材・製品の創出に注力すべきである。その一方、コスト高を是正するために、中国・アジア企業との分業体制を構築することも極めて大切である。

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