【中国経済レポ−ト】
年内の人民元切り上げは5%範囲内で
沈 才彬
『日刊工業新聞』2005年8月19日記事
人民元再切り上げの見通しや、人民元改革が日本企業に及ぼす影響について、沈才彬三井物産戦略研究所中国経済センター長に聞いた。この中で同センター長は今後の再切り上げについて「当面は通年実績ベースで5%以内の範囲で緩やかに進む」との見通しを明らかにした。
―元の切り上げ効果はありますか。
「2%と小さい切り上げ幅だったため、大きな影響はなかった。ただし、今回の人民元改革は"中国通貨の改革の序章"であり、"米ドル基軸体制の終章"の意味合いがある。長期的な視野からみれば大きな一歩だ」
―今後の再切り上げの見通しは。
「年内に1割はいかない。5%以内と見ている。来年以降も、当面は通年実績ベースで5%を超えない範囲内の切り上げ幅で推移すると思う。向こう20―30年となれば元の価値はいまの2倍に上がってもおかしくはないが、中国政府は一気呵成(かせい)ではなく、漸進的に達成しようとするはずだ。85年のプラザ合意で円が2割切り上げられ、日本経済が長期低迷となった苦い経験を中国は反面教師に改革にあたっている」
―完全な変動相場制に移行するのはいつですか。
「最終目標はそこにあるが、そのためには環境づくりが必要。元の兌換(だかん)制、資本市場の完全開放、不良債権の処理、この三つの条件をクリアしなければならない。外貨の先物市場など金融市場の育成も不可欠。完全な変動相場制への移行は、08年の北京オリンピック以降になるだろう」
―今後の段階的な元切り上げの日本企業への影響は。
「緩やかでも元高が続けば徐々に影響は出てくる。元の切り上げは中国の主に輸出企業のコスト上昇につながり国際競争力をそぐ。だが、中国企業の自助努力によって実力をつける企業も出現し、日本企業にとっては手ごわい相手になる。中国企業の対外進出は追い風となる。日本は中国をビジネスの現場として見ることに慣れてきたが、これからは日本が中国企業のビジネスの現場とされる。中国企業による日本企業のM&A(企業の合併・買収)も増える」
―元切り上げなどに対応し、リスク分散を考える企業も出ています。
「投資の一極集中リスクを分散させようという考えは正しい。問題は、リスク分散にも"分散リスク"があることだ。中国から他国に移転すると時間もコストもかかる。移転先のリスクがないわけではない。リスク分散と分散リスクを見極めたうえで決断するべきだ」
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