【中国経済レポ−ト】
爆食型成長の限界を検証する−中国エネルギ−事情分析(下)
沈 才彬
『世界週報』2005年8月16日
●中国の長期的なエネルギー戦略
中国政府は、資源・エネルギーの確保を「持続可能な経済成長」の鍵と認識しており、長期的なエネルギー総合戦略の策定を急いでいる。総合的な戦略は、国内の新規油田・ガス田開発の加速、海外エネルギー資源の確保、輸入ルートの多様化、石油備蓄基地の建設、原子力発電所建設加速、省エネ・環境保全などを含むと見られる。
@新規油田・ガス田開発の加速
大慶(黒竜江省)、大港(天津)、勝利(山東省)など中国の既存大型油田はいずれも老朽化しており、1990年代から産油量は頭打ち状態となり、増産は期待されない。そこで中国は新規油田の開発に力を入れ、陸上の新疆油田とともに、渤海、東シナ海および南シナ海など海洋油田の開発も急いでいる。新疆油田は2010年に年産5000万トン(100万b/d)に達し、大慶油田を凌ぎ、最大の油田になる見通し。海洋油田のうち、開発が進む渤海油田は埋蔵量が豊富で、中国第2位の油田になる可能性が大きい。新規油田開発の成果が既に出はじめており、特に昨年後半から6つの海洋油田が生産を開始した結果、今年1-3月期中国の原油生産量は前年同期比5.2%増の367万b/dとなり、通年の実績も5%になる見通しである。
一方、新規ガス田の開発も急いでいる。重慶、四川、新疆、陝西など新規ガス田はほとんど西部内陸地域に集中し、消費地は上海など東部沿海地域に集中するため、パイプラインで西部の天然ガスを東部に調達するという「西気東送」プロジェクトの建設工事が進んでいる。それと同時に、渤海、東シナ海および南シナ海など海洋ガス田の開発も急いでいる。特に東シナ海では、日本が主張する排他的経済水域(EEZ)の日中境界線付近で「春暁」「断橋」などのガス田開発は進み、今年10月から生産を開始する見通しである。ちなみに、ガス田から寧波までの海底パイプライン敷設工事は韓国の現代重工業が落札したものであり、いま着実に進んでいる。
A海外エネルギー権益の確保
国内油田・ガス田の新規開発を加速する一方、中国は海外エネルギー権益の確保にも積極的に乗り出している。政府は第10次5カ年計画(01−05年)で海外エネルギー資源の確保を国家戦略と明確に位置づけ、戦略拠点として@中央アジア・ロシアA中東・北アフリカB南米の3地域を設定。
中国商務省のデータによれば、中国石油天然ガス総公司(CNPC)、中国石油化学総公司(CINOPIC)、中国海洋石油総公司(CNOOC)など中国の石油企業はこれまでに、世界30数カ国の65件の探査、開発プロジェクトに対し総額70億ドルを投資し、これにより計6000万トンの供給枠を確保したという。そのうち、昨年1年間に確保した供給枠は1750万トン、既確保分の4分の1を超える(2005年5月26日付『中国証券報』記事)。
B積極的なエネルギー外交
現在、中国の石油輸入の5割前後は中東に依存し、一極集中のリスクが大きい。中東の石油に対する過度の依存を減らし、長期的に安定したエネルギー資源を確保するため、中国政府は積極的なエネルギー外交を展開している。
中南米では、中国は既にヴェネズエラの油田の権益を手に入れたが、ヴェネズエラのほか、ブラジルなどエネルギー資源豊富な中南米諸国に対しても、首脳外交で急接近し、経済分野の連携強化を図る。
北米のカナダでは、中国海洋石油(CNOOC)が今年4月、カナダのオイルサンド(油砂)会社の一部株式を1億2200万米ドルで取得した。5月に中国石油化工(CINOPIC )はカナダ・アルバータ州北東部のノーザンライツ・オイルサンド事業について、同国のシネンコ・エナジーに総額8300万米ドルを支払い、同事業の権益40%を取得した。
アフリカからの石油輸入は中国の石油輸入全体の2割強を占めているため、対アフリカ外交は中国のエネルギー外交の重要な一環と位置づけられている。昨年、胡錦涛国家主席はエジプト、アルジェリアなど3カ国を、曾慶紅国家副主席がチュニジアなど4カ国を訪問した一方、中央アフリカ大統領、ガボン大統領もそれぞれ中国を訪れた。中国・アフリカ諸国首脳会談の主な議題はいずれもエネルギーを中心とする経済分野の協力であった。現在、中国はナイジェリア、ス-ダンなど17カ国において石油権益を既に確保済みである。
東南アジアでは、今年4月、フィリピン訪問の胡錦涛国家主席はアロヨ大統領と会談し、両国間の「戦略的なパ-トナ-シップ関係の構築」に合意したほか、南シナ海の南沙諸島などの領有権問題を「棚上げ」して、南沙諸島や西沙諸島の海域で、ベトナムを加えた三国の石油会社による合同海底調査の早期実施、海底油田の共同開発を目指すことでも一致した。
中央アジアでは、中国・カザフスタンの石油パイプラインプロジェクトにつき、カザフスタン区間はすでに着工しており、中国側新疆区間の建設も今年3月23日にスタ-トした。計画によれば、このパイプラインは今年12月に全線貫通する予定。設計輸送能力は年間2000万トンに達する。また、ウズベキスタン大統領は今年5月に中国を訪問し、同国油田の中国との共同開発に合意した。
一方、シベリアの石油を極東に送るロシアパイプラインの建設をめぐって、中国は旺盛な国内需要という市場カ-ドを切り、ロシア側に猛烈な外交攻勢を展開した結果、日本が提案する太平洋ル-トに赤信号がともり、ブ-チン大統領は7月8日に西シベリアの既存原油を中国に送るル-ト建設を優先する方針を明言した。
C石油備蓄基地の建設
経済安保の観点から見れば石油備蓄体制の構築が不可欠である。そのため、中国は大連、黄島、鎮海、舟山など4大石油備蓄基地の建設を急いでおり、08 年までに完工させる予定である。石油備蓄を現時点の国内石油需要の2週間分から2010年の40日分、15年の55日分に増やす計画も立てている。
D原子力発電所の新規建設に注力
中国は長期的なエネルギー戦略の一環として、原子力発電所の新規建設に注力している。現在、中国には深?大亜湾、浙江省秦山など11基の原子力発電設備があり、そのうち9基が既に稼動。2004年原子力発電能力(出力べ-ス)は800万kwに達し、発電量は501億kwhにのぼり、同年発電量全体の2.4%を占める。いま建設中の広東省嶺?、江蘇省連雲港などの原子力発電所が完成すれば、原子力発電出力は新たに660万kw増える。
中国は、2020年までに原子力発電能力(出力べ-ス)を現在の800万kwから4000万kwへ増やし、電力生産全体に占める原子力シェアを2.4%から4%以上に高めようと計画している。そのため、今後15年間「発電量100万キロワット級の原子力発電所を新たに31基建設する必要」(康日新・中国核工業集団総経理)があり、投資規模は500億ドルにのぼる見通しである。
E鍵を握る省エネ技術の向上
前に述べたように、中国のエネルギー効率は世界平均水準の半分以下、ドイツの5分の1、日本の4分の1に過ぎず、効率の低さは目立つ。視点を変えれば、仮に中国のエネルギー効率を日本並みの水準に高めれば、エネルギー消費を増やさなくても、GDP4倍増目標の実現が可能になる。従って、いかにエネルギー消費を抑えながら高度成長を持続するかが、中国経済にとって最大の課題と言える。この意味で、省エネ技術の向上と普及は中国エネルギー戦略の成否の鍵を握っている。
F競合と協力は日中関係の基軸
中国は既に米国に次ぐ世界2位の石油消費大国となっており、しかも毎年2桁の伸び率で石油需要が増えつづけている。原油輸入依存率も2004年時点で42%に達しており、近い将来60%を超える見通しとなる。エネルギー分野、特に石油分野においては、需要が急増する中国と、原油が100%輸入に依存する日本との間に、競合関係にあることは否定できない。日本も国益に適う長期的なエネルギー戦略を構築しなければならない。
しかし一方、われわれは、エネルギー分野における日中関係は競合だけではなく協力関係にもあることを見逃してはいけない。先ずは省エネ・新エネ分野及び環境分野の協力である。鉱工業・交通輸送・建設分野の省エネルギー技術、石炭の液化技術、石炭・石油の脱硫技術、二酸化炭素排出削減技術などはいずれも日本の得意な分野であり、技術・ノウハウの蓄積があるため、中国に対しては十分に協力・貢献できる。また省エネ技術や原子力など新エネ技術及び環境技術の協力を通じて、日本企業のビジネスチャンスも増える。
次は東シナ海ガス田の共同開発である。正に小泉首相は東シナ海を「対立の海ではなく、協力の海にしていきたい」と指摘した通り、係争中の東シナ海ガス田開発問題は現実的な解決方法として共同開発しかない。資源争奪より相互協力の方は日中両国の国益に適う。
将来的には、日中石油消費同盟の締結も視野に入るべきである。正にドイツ・フランス石炭・鉄鋼同盟が両国の和解およびEU結成をもたらしたように、日中石油消費同盟も日中和解及び東アジア共同体の結成を導く役割が期待される。
要するに、日本は長期的な視野に立って、競合と協力をエネルギー分野における日中関係の基軸として、総合的な対中エネルギー対策を取るべきである。
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