【中国経済レポ−ト】
限界にきた「爆食成長」 省エネへの転換で調整局面へ
沈 才彬
『エコノミスト』2005年9月6日号記事
「省エネ・節約型」に目を向けた中国。世界経済への影響を考える。
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中国は2002年から本格的な経済拡張期に入り、04年のGDP成長率9・5%に続き、今年1〜6月期も9・5%を記録した。昨年1兆6490億ドルに達したGDPは、人民元の切り上げ要素も計算に入れれば、今年は1兆8000億ドルに達し、世界第6位になるのは確実。2010年には3兆ドル強となり、仏英独3カ国を追い抜き、世界第3位の経済大国も視野に入る。
しかし、中国の経済拡張は素材やエネルギーの「爆食」を特徴とし、効率も伴っていないため、その脆弱性は否定できない。
中国のGDP成長率は1995〜01年の6年間平均で8%に達したが、石油換算のエネルギー消費量は95年の8・9億トンから01年の8・4億トンへと減少した。ところが、02〜04年の3年間平均の成長率9%に対し、エネルギー消費量は01年の8・4億トンから04年の13・9億トンへと急増した(図)。つまり、95〜01年はエネルギー消費量を増やさずに高成長を実現したのに対し、02〜04年は年平均9%のGDP成長率を維持するために、石油換算で毎年1・8億トンのエネルギー需要増を必要としたわけだ。
中国の週刊経済誌『瞭望』05年2月28日記事によれば、04年に中国は9・5%の成長率で世界全体のGDPの4%を創出したが、消費した原油は世界全体の8・1%、鋼材は27%、石炭は31%、セメントは40%をそれぞれ占めるという。
●非効率なエネルギー利用
エネルギー利用効率の低さも目立つ。英オイルメジャーBPの統計によると、中国がGDP単位を創出するためのエネルギー消費量は米国の4倍、ドイツの7倍、日本の8倍弱に達するという。現在、中国の1人当たりエネルギー消費量は先進国に比べまだ低く、約5分の1にとどまっているが、仮に中国が米国並みの水準に達すれば、世界は中国1国のエネルギー消費を賄えない状態となる。「爆食型成長」は明らかに限界にきており、「省エネ・節約型成長」への転換、量的成長から質的成長への転換が行われなければ、高度成長の持続は困難というわけだ。
当然、中国も「爆食型成長」が限界にきていることを認識し、危機感を強めている。そこで政府は、資源や環境に配慮し、(1)人間と自然、(2)経済と社会、(3)経済と政治――の調和を主な柱とする「バランスのとれた成長」を目指す方針を打ち出した。この方針は今策定中の第11次5カ年計画の中心テーマとなり、今年10月に開かれる中国共産党第5回中央委員会全体会議(5中全会)および来年3月に開かれる全国人民代表大会(全人代、国会に相当)での採択を経て、実行される見通しだ。
「省エネ・節約型成長」への本格的な転換によって、経済調整は避けられない。02年から始まった経済拡張期は年内に終わりを告げ、来年からは調整期に入るのは確実と見られる。
調整局面に入れば、9%台の高度成長は期待できず、成長の減速が予想される。ただし、今の中国経済は正に走行中の自転車のように、速度が速すぎれば(9%を超えた場合)危険だが、逆に遅すぎれば(7%を下回った場合)倒れてしまう恐れがあるため、一定の速度を保つ必要がある。また、08年には北京五輪、10年には上海万博も控えているため、仮に経済調整期に入っても、急ブレーキがかかるとは考えられず、減速はあっても失速はないだろう。北京五輪開催まで7・5〜8%成長が続くと見るのが妥当だろう。
減速でも、日本の対中輸出には打撃を与える。特に鉄鋼、化学などの素材分野および造船、海運、建設機械、工作機械など関連分野では、経済拡張期のような対中輸出大幅増はもはや期待できない。日本企業は調整局面の到来に備え、早急に適切な対策を取らなければならない。
●引き締めは金融から土地へ
中国政府は、「省エネ・節約型」への転換を唱えると同時に、マクロコントロール政策の中心も「緊縮銀根(金融引き締め)」から「緊縮地根(土地引き締め)」へとシフトしている。中国ではすべての土地は国有だが、土地の使用権は政府の許可があれば売買が可能だ。統計によれば、ここ3年、地方政府が土地使用権の賃貸許認可で得た資金は、中央政府が国債発行で得た資金をはるかに超えている。地方政府はこれらの資金を開発に投入し、投資過熱の大きな要因となっている。
このため、04年後半には「国務院の改革進化・土地管理厳格化に関する決定」が発表された。これは、不動産開発の土地管理を厳しくする一方、既存の開発区・輸出加工区・保税区を整理・整頓し、再審査を行うものだ。審査を受けず、または審査に合格していない開発区・保税区に対しては、新たな土地使用を認めないという中央政府の方針が明確に打ち出された。「緊縮地根」政策は、一部の外国企業にも影響を及ぼしている。開発区や保税区への進出を決めた外国企業が、立地審査の不合格や合格発表の遅れによって、計画の取り消しや見直しを迫られるからだ。日本企業はこうしたビジネスリスクを回避するために、進出を決める前に中国の開発区や保税区をきめ細かく選別しなければならない。
「省エネ・節約型成長」への本格的な転換によって、設備・生産過剰になる可能性もある。
中国は01年から04年までのわずか3年間で、粗鋼を8割、造船を8割、自動車を1・2倍、カラーテレビを8割、冷蔵庫を1・2倍、エアコンを1・8倍も増産した。そのスピードは我々の想像をはるかに超えている。現在、中国の粗鋼、石炭、セメント、化繊、化学肥料、家電など主要工業製品の生産量はいずれも世界1位だ。これらの製品が「成長方式の転換」によって輸出に回れば、貿易摩擦がなお一層多発する懸念も出てくる。
実際、鉄鋼分野では、その懸念が現実のものとなっている。中国鉄鋼工業協会の羅氷生常務副会長によれば、中国の今年の国内粗鋼生産量は3億トンの大台を突破する見通しだが、上半期ですでに鉄鋼製品の純輸出国に転じたという。
今後、鉄鋼製品および鉄鋼を原材料とする製品の輸出の急増が懸念され、中国をめぐる貿易摩擦は現在の「糸偏=繊維」から「金偏=鉄鋼」の摩擦へシフトするという新たな局面を迎えることになろう。
また、成長シナリオの転換は、中国経済をインフレからデフレに転じさせ、再び国際価格の破壊要素にもなりうる。02年以降、原油や石炭、鉄鉱石、紙・パルプなど素材、エネルギーの国際価格は一斉に急騰した。しかし、中国の経済拡張期の終結と調整局面の到来によって、原油価格はともかく、素材価格の下落は避けられない。
実際、鋼材、スクラップ、エチレン、紙・パルプ、ナフサなどの市況は既に下落し始めている。中国がデフレに転じれば、素材価格の一層の下落は避けられず、日本の素材メーカーの収益を圧迫する可能性が高い。
ただ、「省エネ・節約型」への転換によって、出番が増える日本企業も少なくない。たとえば、鉱工業や交通輸送、建設分野の省エネ、石炭の液化、石炭・石油の脱硫、二酸化炭素排出削減、水浄化や汚水処理、海水淡水化などの技術である。省エネ・新エネ・環境ビジネスなどの分野はいずれも日本の得意な分野であり、技術・ノウハウの蓄積がある。中国が「省エネ・節約型」へ向かえば、日本企業の出番はむしろ増えてくるだろう。
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