【中国経済レポ−ト】
爆食型成長の限界を検証する−中国エネルギ−事情分析(上)
沈 才彬
『世界週報』2005年8月9日
6月27日、中国共産党中央政治局勉強会が開かれ、胡錦涛国家主席をはじめ中央執行部メンバ−が出席した。議題は「国際エネルギー情勢とわが国のエネルギー資源戦略」であった。
これに先立つ6月2日、中国国家エネルギー指導小組(戦略会議)が正式に発足した。温家宝首相が代表、黄菊、曾培炎両副首相が副代表、委員には馬凱・国家発展改革委員会主任(事務局長兼務)、李肇星・外交部長、金人?・財政部長、薄熙来・商務部長ら4人の大臣が名前を並べている。国家エネルギー戦略・長期計画の検討・作成、エネルギー開発と省エネの研究、エネルギー安全保障や対外協力など重要な政策・方針の策定を行うことはエネルギー指導小組のミッションとされる。この組織の発足および華麗なるメンバ-の顔ぶれから、エネルギー問題を「中国の経済発展、社会安定および国家安全に関わる重大な戦略問題」(温家宝首相)と位置づける中国政府の姿勢が伺える。
現在、中国は高度成長が続き、ものすごいスピードで変化している。中国経済拡張の規模、成長のスピード、および世界へのインパクトなどはいずれも人々の予想を遥かに超えている。現代人の誰も経験したことがない、中国の台頭という歴史的な出来事に対し、日米欧を含む諸外国は勿論のこと、中国自身も心の準備ができておらず、戸惑いを隠せない。まさに「中国の衝撃」である。
一方、当面続いている中国の経済拡張はエネルギーの「爆食」を特徴とするものであり、資源や環境に配慮せず、効率も伴っていないため、その脆弱さが否定できない。安定的なエネルギー供給を確保できるかどうかが中国の経済成長の行方を左右する鍵となっている。このレポートは、中国のエネルギー事情から見た「爆食型成長」の限界を検証し、中国のエネルギー戦略を分析する。
●2004年中国エネルギー生産と消費の特徴
2004年中国エネルギー生産と消費の実態は次のとおりである。
◎エネルギー全体
*生産量 石油換算12億7189万トン( 前年比15.2%増)
*消費量 石油換算13億5740万トン(同15.2%増)
◎原油
*生産量 1億7500万トン (351万b/d) (同2.9%増)
*輸入量 1億2272万トン (246万b/d) (同34.8%増)
*消費量 2億9223万トン (587万b/d) (同16.8%増)
*石油消費量(原油+石油製品) 638万b/d (同15.6%増)
(換算率:1トン=7.33バレル)
◎石炭
*生産量 19億5600万トン(同17.3%増)
*消費量 18億7000万トン(同14.4%増)
◎天然ガス
*生産量 415億m3(同18.5%増)
*消費量 415億m3(同18.5%増)
◎電力
*生産量 2兆1870億kwh(同14.5%増)
内訳
火力 1兆8073億kwh
水力 3280億kwh
原子力 517億kwh (推定値)
*消費量 2兆1735億kwh(前年比14. 9%増)
内訳
火力 1兆7954億kwh (同14.8%増)
水力 3280億kwh(同15.6%増)
原子力 501億kwh(同15.6%増)
昨年中国のエネルギー生産と消費は次の3つの特徴を持っている。1つ目は一次エネルギーの生産は大幅に拡大し、石油換算の伸び率は15.2%にのぼり、GDP成長率の9.5%を遥かに上回っている。
2つ目はエネルギー生産(主として石炭)の大幅増にもかかわらず、依然として需要に追いつかず、需給バランスが崩れている。2003年から続いてきた電力不足は一層深刻化している。
3つ目は原油需要の急増が目立つ。2004年中国の石油需要は前年比15.6%増の638万b/dに達した。国内の原油生産は小幅増(2.9%)にとどまったため、海外から大量輸入せざるを得なかった。昨年中国の原油輸入量は初めて1億トンを突破し、前年比34.8%増の1億2272万トン(246万b/d)にのぼった。輸入依存率も42%に達した。同年中国の原油消費増加分は世界需要増全体の3分の1を占め、チャイナインパクトは原油高の最も重要な要素の1つとなっている。
●需要急増の背景に猛烈な経済拡張
中国のエネルギー需要は2002年から急増し始めたものであり、その背景には同年から始まった猛烈な経済拡張がある。中国は、アジア通貨危機以降続いてきた成長率低迷の局面を脱却し、02年から新たな経済拡張期に入った。GDP成長率は02年8.3%、03年9.3%に続き、04年さらに9.5%を記録した。新たな拡張期は、@経済規模の加速度的な拡大、A大量生産、大量消費、B鉄を中心とした重工業時代に突入、Cエネルギー「爆食」、などの特徴を持つ。
@経済規模の加速度的な膨張
まずは経済規模の加速度的な拡大である。04年中国のGDP規模は1兆6490億ドルに達し、拡張期に入る前の01年に比べれば3年で1.4倍も拡大した。シェアではまだ世界全体の4%に過ぎないが、増加分で言えばその寄与度は18.2%にのぼり、世界経済のエンジンとなっていることは明らかである。
筆者の予測によれば、06年に中国の経済規模は2兆ドル弱に達し、英国、フランスを抜き世界第4位になる。10年に約2兆8000億ドルとなりドイツを抜いて世界第3位へ、20年前後に5兆ドル以上にのぼり日本を凌ぎ世界第2位へ、そして50年前後に米国を抜いて世界最大の経済大国になるであろう。ただし、これは現在の為替水準に基づく試算であり、もし人民元を切り上げれば、中国の経済規模拡大は更に早くなる。
A大量生産・大量消費
猛スピードで進む経済拡張の2つ目の特徴は、大量生産・大量消費である。まずは大量生産である。2004年中国の生産財・消費財類の主要工業製品の生産量と前年比伸び率は次の通りである。
2004年中国主要工業製品の生産量と前年比伸び率は次のとおりである。
◎生産財類
・粗鋼 2億7279万トン(前年比22.7%増)
・鋼材 2億9723万トン(同23.3%増)
・銅 217万トン(同18.0%増)
・電解アルミ 699万トン(同14.7%増)
・セメント 9.7億トン(同12.5%増)
・化繊 1424万トン(同20.6%増)
◎消費財類
・自動車 507万台(同14.2%増)
・カラーテレビ 7328万台(同12.0%増)
・冷蔵庫 3033万台(同35.3%増)
・洗濯機 2349万台(同19.6%増)
・エアコン 6646万台(同37.9%増)
経済拡張期に入った前の年(2001)に比べれば、中国は僅か3年間で粗鋼生産量は8割、鋼材8割強、造船8割、化繊7割、自動車1.2倍、カラーテレビ8割、冷蔵庫1.2倍、洗濯機8割弱、エアコン1.8倍、石炭7割弱、発電量5割弱増産し、膨張のスピードはわれわれの想像を超える。現在、中国の粗鋼、石炭、セメント、化繊、化学肥料、家電など主要工業製品の生産量はいずれも世界1位を占め、「世界の工場」という実態が浮き彫りになっている。
大量生産の背景には旺盛な国内需要があり、大量消費がもたらす結果とも言える。現代的消費の象徴とも言われる「3M」(自動車my car、住宅my home、携帯電話 mobile telecom)を例にすれば、2004年の消費量は2001年に比べ、自動車は倍増、携帯電話保有台数は2.3倍に拡大、と都市部住宅建築面積は2000年から03年まで倍増した。
鉄鉱石、粗鋼、銅、アルミなど素材消費量もいずれ大幅な増加を示している。2004年主要素材の消?は鋼材3.1億トンで15.1%増、酸化アルミ1284万トンで9.7%増、セメント9.6億トンで12.4%増。1995年に比べれば、04年中国の鉄鉱石海上輸送量(輸入)は4100万トンから2億800万トンへと407.3%増、粗鋼消費は1億110万トンから2億5819万トンへと155.4%増、銅消費量は114万トンから324万トンへと184.2%増、アルミは194万トンから618万トンへと218.6%増となっている。
消費が爆発的に伸びる背景には国民所得水準の向上、急速な都市化、国民消費の近代化および鉄を中心とする重工業時代への突入という4つの要素がある。中国の都市部と農村部は1人当たり所得格差が実質上6倍あり、1人当たりエネルギー消費量も3.5倍の格差があるため、95年から毎年2000万人ずつ増え続ける都市部人口の急増は、国内消費を刺激する最大の要素と見られる。
米アース・ポリシー(地球政策)研究所の最新レポートによれば、5大基本商品のうち、中国は石油消費が米国に次ぐ世界第2位を占めるが、食糧、肉類、石炭と鉄鋼の消費規模はいずれもアメリカを抜いて世界1位を占め、アメリカに代わり世界最大の消費国になった。
特に、粗鋼、鉄鉱石、銅、アルミ、石油などの商品はいずれも中国の国内生産が需要に追い付かず、海外から大量輸入せざるを得ず、結果的には国際価格の大幅な上昇をもたらした。中国は世界経済のエンジンであると同時に、国際市場価格の撹乱要素ともなっている。
B鉄を中心とした重工業生産時代に突入
3つ目の特徴は鉄を中心とする重工業生産時代への突入である。2001年に比べ、2002-04年の3年間、鉄を中心とする重工業生産はいったいどのぐらい拡大したか。鉄を作るための原材料を見れば、鉄鉱石は2.1億トンから3.1億トンへと47.6%増、石炭は11.6億トンから19.2億トンへと65.9%増となっている。
中間財で見れば、粗鋼生産量は1億5163万トンから2億7280万トンへと79.9%増、鋼材は1億6068万トンから2億9723万トンへと85.0%も拡大した。
鉄鋼消費の最終製品として、自動車生産量は237万台から507万台へと116.7%増、冷蔵庫1351万台から3033万台へと124.5%増、洗濯機は1342万台から2349万台へと75.0%増、エアコンは2334万台から6646万台へ184.7%増、輸送手段として造船は476万トンから850万トンへと78.6%増となっている。
60、70年代の日本重化学工業時代と同じように、中国の鉄を中心とする重工業時代への突入によって、エネルギー消費が急増し、電力需要を逼迫した。2002-04年の発電量は1兆4808億kwhから2兆1870億kwhへと47.7%増えたにもかかわらず、全国的な電力不足が起きている。
●「爆食型成長」に限界 調整局面が必至
急速な経済拡張の第4の特徴は、エネルギーの「爆食」である。
@エネルギー「爆食」の実態
10年前の消費実績に比べれば、新たな拡張期のエネルギー「爆食」の実態は一目瞭然である。1995-2001年の6年間、中国のGDP年平均伸び率は8%に達したが、石油換算のエネルギー消費量は95年の8.9億トンから01年の8.4億トンへと減少した。ところが、2002−04年経済拡張期の3年間、GDP年平均伸び率9%に対し、石油換算のエネルギー消費量は8.4億トンから13.6億トンへと急増し、年平均伸び率は17.5%にのぼる。
言い換えれば、1995-2001年はエネルギー消費量を増やさずに高度成長を実現したが、2002−04年経済拡張期では1ポイントのGDP成長率を押し上げるために、1.9ポイント(中国側統計なら1.5ポイント)のエネルギー需要増を必要とした。エネルギーの「爆食」と利用効率の急低下が明らかだ。 (図表12)
国際的に見れば、中国のエネルギー爆食のインパクトがものすごく大きい。中国『瞭望』週刊2005年2月28日記事によれば、2004年中国は9.5%の成長率で世界GDP全体の4%を創出したが、消費した原油は世界全体の8.1%、石炭は31%を占めている。
A深刻化する電力不足
しかし、資源や環境にあまり配慮せず、効率も伴わない「爆食型成長」は素材分野の投資過熱、エネルギー分野の需給バランスの崩れ、環境破壊、炭鉱やガス田爆発事故多発、生産性の低下など様々な歪みをもたらし、いま限界に来ていることは明らかだ。
まずは素材分野の投資過熱である。03年電解アルミの投資は前年比92%増、鉄鋼97%増、セメント121%増といずれも大幅な伸びを示した。2004年1-3月期、上記3分野の投資はさらに熱を上げ、鉄鋼107%増、セメント101%増、電解アルミ39%増に達した。素材分野の投資過熱はエネルギー需要を一層逼迫する結果をもたらしている。
次はエネルギーの需給バランスの崩れである。2003年に全国31省・直轄市・自治区のうち、21が電力不足に陥り、上海、江蘇、浙江、広東など6省・市が一時的に停電に追い込まれた。2004年エネルギー逼迫はさらに深刻化し、電力不足に陥った省・直轄市・自治区は24に増えた。
B環境汚染の「超大国」
環境破壊も深刻化している。中国のCO2排出量は米国に次ぐ世界2位だが、ほかの汚染物排出量はいずれも世界1位。前出『瞭望』記事によれば、2004年中国の酸化窒素排出量は日本の27.7倍、ドイツの16.6倍、米国の6.1倍、インドの2.8倍に相当。SO2排出量は日本の68.7倍、ドイツの26.4倍に相当。現在、国土面積の3分の1は酸性雨に侵食され、大中都市340市のうち、60%は大気汚染に見舞われている。中国は環境汚染の「超大国」といわざるを得ない。
C高い炭鉱爆発事故死亡率
旺盛な国内需要のため、安全を無視してエネルギー生産を無理矢理に拡大する動きが全国各地で見られている。その結果、炭鉱爆発事故は後を絶たない。単位石炭生産の爆発事故死亡率は中国が米国の100倍、ロシアの10倍、インドの12倍に相当する。
Dエネルギー効率の悪さ
国際的に見れば、中国のエネルギー利用効率の低さが目立つ。2004年、中国は1万ドルGDPを創出するためのエネルギー消費量は石油換算で前年比5.3%増の1.09トンで、世界平均水準の2.4倍、ドイツの5倍、日本の4.4倍、インドの1.6倍となっている(『瞭望』記事)。言い換えれば、中国のエネルギー利用効率は世界平均水準の半分以下、ドイツの5分の1、日本の4分の1に過ぎず、同じ途上国のインドにも及ばない。
現在、中国の1人当たりエネルギー消費量は先進国に比べまだ低く、約5分の1にとどまっているが、もし中国もアメリカ並みの水準に達すれば、世界エネルギーのすべては中国一国の消費を賄えない状態となる。
中国はエネルギー資源が乏しい国である。1人当たり資源占有量は、石炭が世界平均値の79%、石油11%、天然ガス4.5%となっている。
要するに、いまのような「爆食型成長」が続けば、中国自国のエネルギー資源は勿論のこと、世界中どの国も中国の高度成長を支えることができない。エネルギー「爆食型成長」が明らかに限界に来ており、「省エネ型成長」への転換、量的成長から質的成長への転換が行わなければ、高度成長の持続が難しい。
D脱「爆食型成長」へ政策転換
中国政府も「爆食型成長」が限界に来ていることを認識し、危機感を強めている。そこで中国政府は、資源や環境に配慮し、人間と自然の調和、経済と社会の調和、経済と政治の調和を主な内容とする「調和の取れた成長」を目指す方針を打ち出した。この方針は今策定中の第11次5カ年計画の中心的なテ-マとなり、来年3月に開かれる全人代での採択を経て実行する見通しである。
「爆食型成長」から「調和の取れた成長」への本格的な転換によって、経済調整が避けられない。2002年から始まった経済拡張期は、今年に終わりを告げ、来年からは経済調整期に入る見通しである。
調整局面に入れば、9%台の高度成長が期待されず、成長の減速が予想される。ただし、今の中国経済は正に走行中の自転車のように、速度が速すぎれば(成長率が9%を超えた場合)危険だが、逆に遅すぎれば(7%を下回った場合)倒れてしまう恐れがあるため、一定の速度を保つことが必要である。また、北京五輪(2008年)、上海万博(2010年)も控えているため、仮に経済調整期に入っても、急ブレーキがかかるとは考えられず、中国経済は減速があっても失速はないだろう。北京五輪開催まで7.5−8%成長が続くという見方は妥当と思う。
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