【中国経済レポ−ト】
「日米」貿易蜜月関係が「日中」に変わる日
沈 才彬
《エコノミスト》誌2002年12月3日号
日本の貿易構造にいま異変が起きている。日本の輸出全体に占める米国シェアはここ数年低迷が続く一方、中国(香港を含む)シェアは急速に上昇している。2010年前後に中国向け輸出は米国向け輸出を上回り、中国は日本の最大の輸出市場となる確率が高い。
一方、中国からの輸入は年内に米国を抜き、日本にとって最大の輸入元になる見通しである。中国経済の台頭は、輸出と輸入両面から日本の景気動向を大きく左右するようになっている。
01年、日本の輸出全体はドルベ−スで前年比15%減少した中、中国向けは14.9%(円ベ−ス)も増えた。その結果、2000年に日本の4番目の輸出先だった中国は、01年に韓国、台湾を抜き米国に次ぐ2番目の輸出市場となった。
実際、ここ数年、日本の中国向け輸出は大幅に増加している。財務省の統計によれば、01年、中国向け輸出は3兆7,637億円に達し、1998年に比べ43.6%も増えた。
一方、米国向け輸出は減少が続き、98年に比べて01年は約5%縮小した。その結果、日本の輸出全体に占める米国のシェアは低迷しているが、中国(含む香港)シェアは98年の11%から2001年の13.5%に上昇した。今年になってからも対中輸出は増え、1−8月期で前年同期比25.8%(円ベ−ス)の大幅な伸びを示し、香港を含むと日本の輸出全体の15.3%を占めるようになった。
もし過去3年間の対中輸出(年平均伸び率13.2%)と対米輸出(同マイナス1.6%)をベ−スに計算すれば、2010年前後に米中逆転が視野に入り、中国(含む香港)は米国の代わりに日本の最大の輸出市場となる。日本の景気動向は中国経済の行方に大きく左右され、中国マ−ケットを抜きにして日本の景気動向を語れなくなる時代がやってくる。
拍車がかかる中国の巨大市場化
日本の対中輸出急増の背景には、拍車がかかる中国の巨大市場化がある。一般的に言えば、潜在的な巨大市場に成長するには、次の3つの要素が必要だ。巨大人口、高い経済成長率、低い製品普及率である。中国はいま、この3つの要素を全部備えている。
91−01年の11年間、中国の年平均GDP成長率は9.9%(日本の7.5倍に相当)と高水準で、経済規模は3.1倍増を実現した。GDP規模の世界における順位も、91年の第10位から2001年の第6位へと躍進した。経済規模の拡大に伴って市場規模も膨張し、01年の輸入総額は91年の3.8倍となっている。
今後、中国経済では2つの動きが加速すると予想される。第一に、経済規模の拡大加速である。日本の経験によれば、一国のGDP総額は一旦1兆ドルの大台に到達すれば、経済規模の拡大は加速状態に入る。
戦後、日本はGDP総額が1兆ドルに到達したのは79年で、到達までに34年もかかった。しかし、1兆ドル大台から2兆ドル(86年)へ躍進したのはわずか7年。急激な円高もあって、2兆ドルから3兆ドル(91年)の大台に上がったのは5年、3兆ドルから4兆ドル(93年)へは2年だった。
勿論、日本の経験はそのまま中国に当て嵌まるものとは思わない。しかし、00年に1兆ドルの大台に上がった中国GDP総額は、これから拡大加速に入ることは確かだ。私見だが、中国のGDP規模は10年に2兆ドル強、15年に3.5兆ドル、20年に5兆ドルで00年の約5倍になる見通しである。
第二に、国民の豊かさの加速である。同じく日本の経験によると、1人当たりGDPが一旦、1000ドル台に上がれば、国民の豊かさも加速状態に入る。
日本の1人当たりGDPが1000ドル台に上がったのは1966年のことであり、到達まで21年もかかったのである。その後、2000ドル台までの所要年数は5年、3000ドル台へは2年で到達した。
韓国も日本と同じような傾向を示している。韓国の1人当たりGDPが1000ドル台に上がったのは78年のことであり、朝鮮戦争終結から到達まで27年もかかった。しかし、2000ドル台へは5年、3000ドル台へも5年だった。
中国では、持続的な高度成長の結果、1人当たりGDPは2001年の時点で既に900ドルを超え、今年、1000ドル台に上がることは確実だ。これからは国民の豊かさの実現がハイウェ−に入り、2010年に2000ドル台、15年に3000ドル台、20年に5000ドルに近づく見通しである。
上記2つの動きの加速によって、中国の消費市場膨張にも拍車がかかり、20年の市場規模は現在の5倍以上になる見通しである。現在、携帯電話や家電製品及びビ−ルをはじめ多くの分野では、中国の市場規模は既に世界1位を占めている。
日本経済新聞社が業界団体から聞き取った「日中市場規模比較調査」によれば、01年に市場規模では鋼材は中国が日本の2倍強、銅約2倍、携帯電話2倍、DVDプレ−ヤ−3倍、ビ−ル3倍、ピアノ5倍となっており、中国の国内需要は消費財から生産財まで幅広く拡大し、日本よりも大きくなった分野が目立つ。
さらに注目すべきことは、市場潜在性の大きさである。例えば、携帯電話。中国のユ−ザ−数は、02年8月末時点で1億8500万人に達し、世界最大規模となったが、普及率で言えば僅か14.6%に過ぎない。もし日本(普及率は56%)の水準に到達すれば、中国の携帯電話の保有台数は7億台に達し、日米欧のト−タルを上回る市場規模になる。月ごとに500万台の新規加入台数という現状を見れば、それは決して遠い先のことではない。
マイカ−も同じである。現在、中国のマイカ−普及率は僅か1%だが、国民の豊かさの実現と富裕層の拡大によって、08年北京オリンピック開催を挟んで、マイカ−時代の到来に疑う余地がない。
携帯電話や自動車などほぼ飽和状態になっている日米欧のマ−ケット状況を見れば、人口13億の中国巨大市場を抜きにして日本産業の発展を語れないことは自明の理である。
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日本の輸入シェアで米中逆転
また、ここ数年、中国から日本への輸出が急増している。財務省の貿易統計によれば、98年中国(含む香港)からの対日輸出は5兆703億円だったが、01年に7兆2036億円へと42%も増えた。日本の輸入全体に占める中国シェアも98年の13.8%から2001年の17%に拡大し、逆に米国シェアは98年の23.9%から01年の18.1%へ低下してきた。今年1−8月には米中が逆転し、中国シェアは18.3%に達し、米国(18%)を上回り、日本の最大の輸入元となった。
中国からの輸入急増の背景には中国の「世界の工場」化の進行がある。日中主要工業製品の世界市場に占めるシェアを比較すれば、「世界の工場」がいま、日本から中国にシフトしつつある実感が出てくる。実際、中国のデスクトップPC生産は日本の13倍、携帯電話2倍、エアコン3倍、カラ−テレビ24倍、二輪車5倍、粗鋼1.4倍、ビデオテ−プレコ−ダ−19倍、DVDプレ−ヤ−7倍、ハ−ドデスク駆動装置(HDD)3.7倍となっている。素材からハイテク製品まで、幅広い分野にわたり、中国は日本を抑え世界第1位の生産シェアを占めている。
70年代、80年代に日本はかつて「世界の工場」だった。しかし、いまは「世界の工場」が中国へシフトしつつある。この2つの「世界の工場」を比較すれば、何が違うか。最も大きな違いは、日本の場合は「世界の工場」というステ−ジには主役1人(日本企業)しかいなかったが、中国の場合は「国内企業」と「外資系企業」という2人の主役がいることである。
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日本のデフレ圧力へ
中国の統計によれば、02年9月末まで、中国進出を果たした外資系企業は累計で41万社、外国直接投資は契約ベースで8000億ドル超、実績ベースで4000億ドルを超える。そのうち、日系企業は約3万社、日本からの直接投資は300億ドル(実績ベ−ス)以上となる。
巨額な外国資本は中国経済成長の原動力となり、多大な役割を演じている。01年、中国GDPの17%、設備投資の10,7%、鉱工業総生産の27%、鉱工業企業利益の29%、税収の19%、雇用の10%が外資系企業によるものである。
一方、中国の国内企業も激しい国際競争を通じ、競争力が急速についている。2人の主役が互いに競争しながら、相互補完して中国の経済成長を牽引する。
中国の「世界の工場」ステ−ジに2人の主役がいるため、01年中国輸出全体の51%は実際、もう1人の主役・外資系企業の輸出によるものである。日本に入ってくる「メイド・イン・チャイナ」製品も約6割が実際、日系企業が作ったものと見られる。形は「日中貿易」だが、実際は「日日貿易」、つまり日本国内企業と中国に進出している日系企業との間の取引である。いわゆる「ブ−メラン」形態の貿易である。
中国が「世界の工場」になれば、日本にとってプラス影響があるが、次のようなマイナス影響も懸念される。1つは日本企業の資金、生産拠点、R&Dセンタ−の中国シフトは加速し、産業空洞化と雇用悪化の懸念が出てくる。2つ目は「ユニクロ」のような安い中国製品の日本輸出が急増して価格破壊が起き、デフレ圧力が一層大きくなる可能性もある。
要するに、高度成長が続く中国パワ−は輸出と輸入両面から日本経済に影響を与え、日本の景気動向が中国経済の行方に大きく左右される時代は間もなくやってくる。その時問われるのは、日本側の対応である。
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