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【中国経済レポ−ト】
【中国経済レポ−ト】
第 5 の 波−中国の台頭とそのインパクト−

沈 才彬
『ANAていくおふ』Winter 2005

●世界経済成長の第5の波

さる10月28日、経済同友会主催の第30回日本・ASEAN経営者会議は東京で開かれた。筆者はこの会議で「発展する中国のASEAN・日本経済への影響」をテ−マに特別講演を行った。日本・ASEAN経済界のリ−ダたちの会議だが、主な議題の1つは中国経済の影響であり、陰の主役は中国と言うイメ−ジが強い。

それでは今なぜ中国か。実際、21世紀に入って、世界経済にとって最も重要な変化はほかでもなく、中国は世界経済に影響される方から影響する方に変わったことである。存在感と影響力を急速に増している中国とどう向き合うか、いかに中国の高度成長からエネルギ−を取り入れ、自国の経済成長に繋がるかは、日本を含む世界各国の課題となっている。

世界経済史から見れば、中国の躍進はいったいどういう位置づけだろうか。近代史において、これまで世界の経済成長に巨大な影響を与えた歴史的な出来事は4回もあった。18世紀半ば英国の産業革命、19世紀後半米国の台頭、20世紀半ば日本・西ヨ−ロッパの高度成長、20世紀90年代米国のIT革命であった。21世紀にBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)と呼ばれるエマ−ジング諸国の離陸、特に中国の躍進は、正にこれらに次ぐ世界経済成長の第5の波となる。

西側先進7国総人口の2倍に相当する巨像・中国。この新しいス−パ−パワ−の出現は、世界を震撼させるほどインパクトがある。現在、中国は世界経済のエンジンとなっており、東アジアでは中国の高度成長から恩恵を受けない国がいない。一方、仮に中国経済は変調すれば、アジア諸国にとって大きなダメ−ジも避けられない。中国経済を抜きにして自国の景気動向を語れないことは東アジアの現実となっている。

●新たな拡張期に入った中国経済

中国経済はいま1つの転換点に来ており、アジア通貨危機以降ずっと続いて来た成長率低迷の局面から脱却し、新たな拡張期に入った。02年の8%成長に続き、03年のGDP伸び率は9.3%、今年1−9月期は9.5%にのぼり、経済拡張の勢いが凄まじい。一方、長引いてきたデフレ圧力も後退し今年からインフレ懸念が強まっている。

新たな拡張期は次の3つの特徴を持っている。まずは経済規模拡大の加速。日本の経験によれば、一国のGDP総額は一旦1兆ドル大台に到達すれば、経済規模の拡大は加速状態に入る。戦後、日本のGDP総額が1兆ドルに到達したのは1979年で、到達までに33年もかかった。しかし、1兆ドルの大台から2兆ドル(1986年)へ躍進したのにわずか7年。2兆ドルから3兆ドル(1991年)へは5年、3兆ドルから4兆ドル(1993年)へは2年だった。

勿論、その背景には様々な要素があった。例えば急激な円高。従って、日本の経験はそのまま中国に当て嵌まるものとは思われない。

しかし、2000年に既に1兆ドル大台に上がった中国の経済規模は、これから拡大の加速に入ることは確かだ。予測によれば、中国の経済規模は2006年に1兆8000億ドル前後に拡大し、フランスとイギリスを追い越し世界第4位となる。さらに2010年前後に2兆5000億ドルにのぼりドイツを抜く世界第3位へ。2020年前後に5兆ドルに拡大し日本と肩を並べるかそれを上回る世界第2位へ。2050年前後に米国を凌ぐ世界最大の経済パワ−になる可能性も高い。

これはあくまで現在の為替水準をべ−スに試算した結果であり、仮に人民元の切り上げ要素を考えれば、実際の中国経済規模は更に大きくなる。

●拍車かかる巨大市場化

2つ目の特徴は市場規模の拡大に拍車がかかる。統計によれば、中国の社会商品小売総額は1995年の2466億ドルから03年の5538億ドルへと、8年で市場規模は2.2倍も拡大した。

現在、鉄鋼、銅、工作機械、携帯電話、家電製品及びビールをはじめ多くの分野では、中国の消費規模は既に日米を抜いて世界1位を占めているが、こうした分野は今後さらに増える。

特に輸入規模の拡大から見れば、中国の巨大市場の加速が明らかだ。03年中国の輸入総額は前年比40%増の4150億ドルにのぼり、99年に比べ2.5倍拡大した(図表1)。世界ランキングでは、昨年中国は一気にフランス、イギリス、日本3カ国を追い抜き、第6位から第3位へ躍進した。仮に過去5年間の輸入伸び率の実績をべ−スに試算すれば、06年に中国はドイツを凌ぎ世界第二位の輸入大国となり、10年に輸入規模は1兆ドル前後に拡大し米国に迫る見通しである

●3つのバブル懸念は要注意

3つ目の特徴はバブル懸念の強まりである。現在、中国経済は投資、銀行貸出、マネ−サプライという3つのバブル懸念を抱えている。そのうち、一部の分野の投資過熱ぶりが特に際立つ。例えば、2003年不動産分野は前年比31%増、電解アルミ同92%増、鉄鋼同97%増、セメント同121%増といずれも大幅な伸びを示した。今年に入ってバブル懸念はさらに高まっている。1〜3月期のGDP成長率は9.8%にのぼり、固定資産投資も47%と急増した。昨年、過熱ぶりが際立った不動産、鉄鋼、セメント、電解アルミ4分野は、今年1〜3月期はさらに熱を上げ、投資伸び率はそれぞれ43%、107%、101%、39%に達した。仮に建設中また計画中の投資案件が全部完成すれば、05年末までに鉄鋼、セメント、電解アルミ3分野の生産能力は需要をはるかに上回る結果となる。こんな投資過熱を放置すれば、バブル崩壊の恐れがある。

過熱経済の行方につき、次の3点を述べたい。1つは人間の体温に喩えるならば、中国経済はいま摂氏38度ぐらいの発熱状態となっている。解熱剤を投入しなければ、40度ぐらいの高熱に上がって倒れる恐れがある。

2つ目は、中国政府は今年4月からマクロコントロ−ル政策と金融引締め政策を導入し、過熱抑制に動き出し、効果も徐々に出ている。過熱抑制によって、経済成長は減速があっても失速はないだろう。

3つ目は2008年北京オリンピック開催まで経済成長の波が多少あっても、年平均8%の高成長は続くという見通しには変わりがない。

●誰が中国の巨大市場を牽引しているか

これまで中国は「世界の工場」と言われてきたが、いまは急速に「巨大市場」へ変わりつつある。それではいったい誰が中国の巨大市場を牽引しているか。深く掘り下げれば、国民の豊かさの実現、急速な都市化、3大成長エリアの形成および富裕層の出現という4つの要素が浮上する。言い換えれば、われわれは中国のマ−ケットに目を向ける時、次の4つの人口数字を特に注目する必要がある。

まずは13億人の全国人口。03年中国の1人当たりGDPは1090ドルにのぼり、94年に比べ10年間2.6倍拡大した(図表2)。年平均8%の成長が持続すれば、2010年の国民所得水準は2000ドルに達する見通しである。換言すれば、2010年まで中国の市場規模はさらに2倍拡大する。国民豊かさの実現は市場拡大と経済成長の相乗効果が期待できる。

2つ目は5億2000万人の都市部人口。03年中国の都市部人口は、95年に比べ1億7000万人も増加した。増加分だけで日本の総人口を遥かに上回り、消費市場に対するインパクトは絶大である。

●急速な都市化が原動力

都市化のスピ−ドアップは1996年頃から始まったものである。これまで都市部の人口は毎年約1000万人ずつ増え続けていたが、96年以降毎年2000万人ずつ増え続けている。中国都市部では「1人子政策」を比較的に徹底しているため、毎年2000万人増は都市部人口の自然増加ではなく、主に工業化の進展と急速な都市化による農村部からの人口大移動と考えられる。これは中国の人口構造の変化からも裏付けられている。

96-03年の8年間、中国の総人口に占める農村部人口の割合は95年の70.96%から03年の59.47%へと11ポイント下がった一方、都市部人口の比率は29.04%から40.53%へ増加した。人口構造の変化の背景には、都市化の進展に伴う農村部から都市部への大規模な人口移動があることが明らかである。 

「1人子政策」のため、中国の人口伸び率は90年代初頭から鈍化し毎年約1000万人ずつ増え続け、03年の総人口は95年より8100万人増加した。都市部に比べ、農村部では「1人子政策」が徹底していないため、この8100万人の総人口増加は主に農村部人口の自然増加と見られる。

ところが、人口の自然増加にもかかわらず、農村部の人口は1995年にピ-クの8億5947万人を記録した後、減少傾向に入り、96年から毎年約1000万人ずつ減り続けてきた。その結果、03年の農村部人口は7億6851万人となり、96-03年の8年間約9000万人も減少した。逆に、都市部の人口は3億5000万人から5億2000万人へと1億7000万人増加した。

周知のとおり、中国の都市部と農村部の収入格差が大きく、1人あたりGDPで見れば実質6倍以上のギャップ(名目は3倍)がある。言うまでもなく、消費市場の主力は都市部人口である。消費の視点から見れば、中国毎年2000万人ずつ都市部人口の増加は意味が大きく、単純に計算すれば5年ごとに1億人規模の新しい巨大市場が出現する。これはまさに中国の高度成長と巨大市場化の原動力である。今後、急速な都市化は続く見通しであり、2010年までに都市部人口はさらに1億5000万人増え、7億人近くにのぼる。

●5000万人もいる富裕層

3つ目は3億人の三大成長エリア人口。中国では経済成長が最も進み、富裕層が集中している地域は3つある。香港と隣接している珠江デルタ(広東省)、長江デルタ(上海市とその周辺地域)と渤海湾地域(北京、天津、大連、青島およびその周辺地域)であり、人口は約3億人いる。

2003年時点で、中国では人口100万人以上、1人あたりGDPが3000ドルを超える大都市は合計24あり、そのうちの21は上記3大成長エリア(珠江デルタ6市、長江デルタ9市、渤海湾地域6市)に集中している(図表4)。この三大エリア自体は正に巨大市場そのものである。

4つ目は5000万人の富裕層人口。中国国民の平均所得水準はまだ低いが、収入格差が日本より遥かに大きいため、富裕層も大量出ている。個人資産10万ドル(1100万円に相当)以上の人口数は既に5000万もあるという。物価水準の低い中国では、1100万円以上の資産といったら莫大なものである。日本の感覚でいえば一億円以上の資産をもつ。

5000万人の富裕層が存在する意味は大きい。03年中国の自動車新車販売台数が一年間で114万台増加という世界にもあまり前例がない出来事、ドイツのBMW最高級車が本国以外に最も売れている国は中国だという事実、ホンダの現地法人・広州本田の車アコ−ドの現地販売価格が日本の2倍近くになるにもかかわらず、出荷待ち状態が続くという現実。その背景にはいずれも富裕層の大量存在がある。今後、この富裕層人口は毎年10%増のスピ−ドで増加すると見られる。

  日本企業はこの富裕層の存在の意味を十分に認識する必要があると思われる。一部の日本企業は、「中国は所得水準が低い国なので、中国では安い品物を売ればいい」という古い発想をいまだに持っている。それは間違いで時代遅れの発想である。いま中国の国民が日本企業に求めているのは安い品物ではない。安い品物は中国では溢れている。低付加価値分野では、日本の企業は中国企業に勝てない。むしろ、高付加価値分野で勝負をかけるべきである。実際、中国の国民がいま日本企業に求めているのは、デザインの良い、品質が良い製品、つまりブランド製品である。この点について、日本企業はきちんとした認識を持って、新しい対中ビジネス戦略を構築しなければならない。

●需要喚起と消費拡大

上記4つの要素によって、中国は需要が喚起し、消費が拡大し、巨大市場を牽引する原動力となっている。このチャイナショックは世界経済に大きなインパクトを与えている。

消費分野別に実態を見てみよう。中国の粗鋼消費は1995年の1億110万トンから03年の2億4417万トンへと141.5%増となり、同期世界粗鋼消費増加分の71.8%を占める。このほか、鉄鉱石海上輸送量(輸入)は4100万トンから1億4800万トンへと261%増、銅消費量は114万トンから309万トンへと171.1%増、アルミは194万トンから519万トンへと167.5%増、石油は328万バレル/日から549万バレル/日へと67.4%増、大豆は1410万トンから3890万トンへと175.9%増、自動車は156万台から439万台へと181.4%増となっている。中国一国の消費増加分が世界需要増全体に占める割合は、鉄鉱石91.5%、銅52.3%、アルミ46.9%、石油24.8%、大豆35.3%、自動車33.5%にのぼる。

粗鋼、鉄鉱石、銅、アルミ、石油、大豆などの商品はいずれも中国の国内生産が需要に追付かず、海外から大量輸入せざるを得ず、結果的には国際価格の大幅な上昇をもたらした。中国での需要喚起と消費拡大は、日本を含む世界経済を牽引するエンジンとなる一方、原油高など世界経済を圧迫するマイナス要素とも指摘されている。

●中国は日本の最大の貿易相手国へ

日本経済はいま2つの大きな変化を迎えている。1つは長引く不景気というトンネルから抜け出し、確実な景気回復に向かっていることであり、2つ目は米中逆転が起き、中国は米国に代わり日本の最大の貿易相手国となったことである。この2大変化の影の主役は、いずれも中国である。

財務省の貿易統計によれば、今年1-10月、日本の対中国(香港を含む)輸出入合計は18兆2066億円に達し、米国の17兆258億円を上回る結果となった。この逆転劇によって、米国は戦後60年近くずっとキ−プしてきた日本の貿易相手国トップの座を中国に明け渡した。歴史的な出来事であった。

米中逆転の決定的な要素は、中国の高度成長の持続による日本の対中輸出の急増である。2003年を例にすれば、同年米国向け輸出はマイナス9.8%で、金額べ−スでは1兆4603億円減少した一方、対中輸出(香港を含まず)は前年比33.3%増(円べ−ス。ドルべ−スでは43%増)を記録した。通年日本の総輸出増加分2兆4533億円のうち、中国向け増加分は1兆6580億円にのぼり、香港向け増加分の2802億円を加算すれば、輸出増加分の8割近くが中国の貢献である。対中輸出の増加がなければ、2003年日本の輸出拡大も景気回復も語れないことは自明の理である。日本の景気回復を支える陰の主役は中国と言っても決して過言ではない。

今年1-10月、日本の対中輸出は更に拡大し、中国向けは前年同期比21.8%増の6兆6001億円、香港向けは12.9%増の3兆1955億円となり、合計9兆7956億円で米国の11兆3542億円(1.3%増)に肉薄している。

対中輸出の急増によって、日本の輸出構造には大きな変化が起きている。総輸出に占める米国のシェアは、98年の30.5%から03年の24.6%、今年1-10月期の22.4%へ低下したのに対し、中国(香港を含む)のシェアは98年の11%から03年の18.5%、今年1-10月期の19.3%へと急速に拡大している

2年前、筆者は2010年前後に中国が米国に代わり日本の最大輸出市場となると予測していたが、実際は予測より3年前倒しで07年までに実現する可能性が出てきた。

ちなみに、韓国の輸出構造には米中逆転が既に起き、2003年の総輸出に占める中国のシェアは米国を圧倒した。

●高まる日本の対中依存度

中国の高度成長持続によって、ここ10年、日本・韓国・ASEAN経済の対中国依存度は急速に高まっている。輸出の対中依存度(総輸出に占める対中輸出の比率)は、94年に比べ03年は日本2.5倍増(4.7%→12.1%)、韓国3.3倍増(6.1%→20.1%)ASEAN3倍増(2.6%→8.2%)。GDPの対中依存度(GDPに占める対中輸出の比率)は、日本3倍増(0.4%→1.3%)、韓国4.3倍増(1.5%→6.5%)、ASEANは5倍近く増加(1.2%→5.8%)(図表7)。2010年前後、日本の対中依存度はさらに現在の約2倍に拡大することが予想される。

対中依存度の急拡大によって、これまで米国の景気動向のみを注目すれば良かった時代は確実に終わり、中国のマ−ケットを抜きにして日本の景気動向も産業発展も語れない時代が訪れた。日本企業はこの重要な変化に応え、新しいビジネス戦略の構築を急がなければならない。

●「もはや日本国内だけでは飯が食えない」

ビジネスの観点から、次の4点は日本企業にとって極めて重要であり、常に念頭に置くべきと思われる。

まずは、バイオ、ナノテク、液晶、デジタルなど一部の新興分野を除き、日本の産業分野のほとんどは国内需要がほぼ飽和状態となっており、「もはや国内だけでは飯が食えない」という厳しい現実に直面していることである。 ピ-ク時に比べれば、日本の国内需要は粗鋼3割減、自動車3割減、酒類4割減、新設住宅着工戸数4割減、工作機械7割減、紙・パルプ1割減、エチレン1割減、プラスチック1割減となっており、市場規模の縮小傾向が鮮明になっている。 予測によれば、2006年から日本の人口は減少傾向に入り、少子高齢化はいっそう加速する。総人口の減少によって、国内需要のさらなる縮小が避けられない。日本企業は生き残るために、海外市場の開拓が必要だが、アメリカ市場もEU市場も日本と同じように飽和状態に近づいている。頼るのはBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)と呼ばれるエマ−ジング市場であり、そのうち現実的に最も有望なのは中国市場である。日本企業は長期的な視野に立つ対中戦略の構築を急ぐ必要がある。

●物流・人流・金流の変化に注目

2つ目は中国をめぐる物流(モノの流れ)、人流(ヒトの流れ)、金流(資本の流れ)の変化である。

まずは物流の変化。財務省の貿易統計によれば、今年1-10月日本の貿易全体に占めるシェアは、中国(香港を含む)はトップで20%、米国は2位で18.7%を占めている。アジア全体のシェアは5割近くだが、そのうち中国・香港、台湾、シンガポ−ルを含む大中華圏は約3割も占めている。日本を基点とする物流はいま、アジア、特に中国を中心に動いていることは明らかである。この物流構造の変化にどう対応するか、いかに大中華圏ダイナミズムから活力を取り入れるか、日本企業の戦略が問われる。 

次に人流も大きく変わっている。中国の高度成長持続によって、中国の国民は益々豊かになっている。その結果、海外観光がいまブ-ムとなっている。2003年中国の出国者数は2200万人にのぼり、日本の1800万人を上回り、アジア最大の観光資源国となった。今年は更に2500万人を突破する見通しである。

日本の小泉首相は観光振興策を唱え、2010年まで外国観光客を倍増させる計画も打ち出している。観光客誘致のメ-ン・タ-ゲットは中国と思われる。しかし、外国観光客倍増計画の実現にはハ-ドルがなお残っている。その1つは政府の規制である。

周知の通り、日本政府は中国人観光客への旅行ビザ-発給は団体客のみ。しかも北京、上海、広東省、江蘇省、浙江省、山東省、遼寧省など一部の地域に限られている。規制緩和をすれば、中国人の不法滞在者が増加し、治安問題も複雑化する恐れがあるからである。その理由は良くわかる。しかし、どんなことでもプラスとマイナスという両面がある。マイナスばかり考える発想はプラスにならない。日本は「利に赴き害を避ける」という対策をとって積極的に規制を緩和すべきである。

最後は金流(資本の流れ)。中国は直接投資の最大の受入国であり、2003年まで実績べ-ス金額は累計で5000億ドルにのぼる。これまで中国をめぐる資本の流れは基本的に一方通行であり、中国から海外への投資は極めて少ないのは特徴である。しかし、これから中国からの資本逆流が起こる。中国政府は「走出去」(海外進出)戦略を打ち出し、中国企業の海外投資を奨励している。高度成長の持続によって、中国をめぐる資本の双方向交流は期待される。

要するに、中国をめぐる人的・物的・資本の流れが大きく変化し、その変化から多くのビジネスチャンスが出てくる。日本企業はそのチャンスを逃さずに迅速に対応できる戦略を構築しなければならない。

●「政冷経熱」から「政経両熱」へ

3つ目は中国における日本のプレゼンスの低下と日中関係の「政冷経熱」の現状である。日本における中国のプレゼンスの向上と対照的に、中国における日本のプレゼンスが相対的に低下している。中国の税関統計によれば、今年1-9月中国の輸出入合計は前年同期比36.7%増の8285億ドルにのぼり、貿易相手国のうちEUが1位(1280億ドル)に浮上、米国は2位(1222億ドル)へ躍進、これまでずっとトップの座をキ−プしてきた日本は3位(1218億ドル)へ転落。

現在、日中関係は「政冷経熱」(冷たい政治関係、熱い経済交流)が続いている。小泉首相の靖国神社参拝をきっかけに、中国国民の対日感情は急速に悪化し、日中政府首脳同士の相互訪問は3年間も途絶えている。領土・領海問題を加え、最近、日中間の険悪な雰囲気が漂っている。日中関係を改善しないと、経済交流にも悪影響を及ぼしかねず、中国における日本のプレゼンスの更なる低下が避けられない。いかに「政冷経熱」から「政経両熱」へ転換するかが日中両国の共通の課題である。

●中国の経済成長に4つのハ−ドル

4つ目は中国ビジネスリスクである。発展する中国は日本を含む世界各国に多くのビジネスチャンスをもたらしている。しかし一方、中国ビジネスリスクも見落としてはいけない。短期的には前に述べた投資、銀行貸出、マネ−サプライという3つのバブル懸念を抱えているが、中長期的に見れば、「2006年問題」、「2008年問題」、「2010年問題」、「2015年問題」なども懸念される。

いわゆる「2006年問題」は不良債権の問題である。2003年中国のGDP規模は日本の3分の1強に過ぎないが、不良債権総額は日本の1.1倍、不良債権比率は日本の2.3倍、不良債権総額がGDPに占める比率は日本の3.6倍となり、不良債権問題がいかに深刻化しているかが裏付けられている。中国政府のWTOに対する公約によれば、2006年に人民元取り扱い業務に対する外資規制を撤廃しなければならない。金融市場の開放によって、中国金融機関が持つ顧客と人材は外資系銀行にシフトし、不良債権問題はさらに悪化し、金融危機に繋がる恐れがある。

「2008年問題」とは台湾独立の懸念をいう。2008年に台湾総統選挙があり、独立かどうかが総統選挙の最大の争点となり、中台関係の緊迫が予想される。2008年は北京オリンピック開催の年でもある。中台関係が緊迫する中で、オリンピック開催が成功できるかどうか、中国は厳しい試練を待ち受けている。

●「2010年問題」

いわゆる「2010年問題」は政治民主化のリスクである。改革・開放政策実行以降、これまで中国は経済成長の挫折を3回も経験した。1981年、86年、89年である。いずれも民主化運動の壁にぶつかった結果であった。経済問題だけで成長挫折のケ−スは一度もなかった。その意味では、政治民主化問題は中国の経済成長に横たわる最大の壁と言えよう。

これまでの経験則によれば、国民は豊かになればなるほど、経済の自由化のみならず政治の民主化も求める。1人当たりGDPが2000ドルを突破すれば、政治民主化実現の可能性も出てくる。例えば、欧州のスペイン、アジアの韓国と台湾地域などはいずれも2000ドルの壁を突破した段階で民主化が実現したのである。2010年に中国の1人当たりGDPが2000ドルを突破し、大きな転換点になる可能性が大きい。1989年「天安門事件」のような民主化運動が発生すれば、政治混乱のリスクが懸念される。

●「2015年問題」

「2015年問題」とは石油危機の恐れである。96−03年中国の年平均GDP成長率8.3%に対し、原油需要伸び率は6.4%に達した。言い換えれば、GDP成長率を1ポイント押し上げるためには、0.8ポイントの原油需要増が必要である。この実績をべ−スに試算すれば、2015年に中国の原油需要は03年(552万b/d)の2倍、原油輸入(03年193万b/d)は3倍に拡大する見通しである。安定的な原油供給が確保できるかどうかが懸念され、確保できない場合は石油危機が起こり、経済成長の挫折が避けられない。

要するに、日本企業は中国ビジネスを展開する時、チャンスとリスクの両方を複眼的に見ておかなければならない。

日本の景気動向や産業の発展が中国市場に益々大きく依存する現在、いかに中国の活力を取り込み、その成長から最大限に利益をとるかが日本企業の最重要課題となっている。言うまでも無く、日本企業は情熱をもって中国の巨大市場を取り込むべきである。一方、バブル懸念、不良債権問題などビジネスリスクに対し冷静な頭脳を持つことも極めて大切である。



 

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