【中国経済レポ−ト】
人民元の切り上げはいつあるのか?
沈 才彬
『DAILY TIMES』February 2005
人民元はこれから切り上げられるかまたは切り下げられるか。仮に切り上げがあるとすれば、何時、どんな形、どのぐらい切り上げられるか。これは日本を含む世界各国の大きな関心事となっている。21世紀に入って、世界経済の最大の変化はほかでもなく中国経済が世界経済に影響される方から影響する方に変わりつつあるからである。
●人民元の切り上げは避けられない
結論から言えば、人民元の切り上げは避けられない。その理由は2つある。1つは通貨と経済成長の関係にある。中国の高度成長は既に20年以上続いており、世界的に見れば高度成長が20年以上続いてきた国で、為替水準があまり変わらない国は中国以外に1つもない。この意味では、これから人民元は中国経済の実力にふさわしい為替水準に持っていかなければならない。
2つ目の理由は、中国のGDP規模に関する2つの評価の間でギャップが大き過ぎることにある。2つのGDP評価というのは、1つは為替レートによる評価であり、2003年時点で、中国のGDP規模は1兆4,000億ドルとされる。
ところが、もう1つの評価があり、それは世界銀行の購買力平価による評価方法である。仮に購買力平価による評価をすれば、昨年の中国のGDPはすでに6兆ドルを超え、日本を上回る規模になっている。この2つの評価の間には4倍以上のギャップがある。換言すれば、中国の人民元は為替レ-トでは過小評価されている。2つのGDP評価のギャップを是正するために、中国の人民元を徐々に元高方向に持っていかなければならない。
長期的に見れば、今後2、30年間で人民元は2倍に切り上げても可笑しくない。しかし現実的には人民元の切り上げは難しく、その理由は中国の為替制度にある。現在、中国の為替制度は「変動管理相場制」であり、変動の幅が政府の管理下で極端に小さく抑えられている。実質的には米ドルとリンクする固定相場制なので、これを是正して「変動相場制」に移行しない限り、大幅な切り上げは期待されない。
●変動相場制への移行は2010年以降
中国の変動相場制の移行は当面ないと思う。不良債権の処理や資本市場の開放など環境作りが必要なので、変動相場制への移行は北京オリンピック開催以降の2010年前後になるだろう。
当面は、現実的に可能なのは元の変動幅拡大である。現在、人民元対ドルの変動幅が0.1%前後に抑えられているが、中国政府は変動幅の拡大を検討している。
2004年10月末、中国の中銀である人民銀行は預金・貸し出しの基準金利を引き上げたと同時に、貸出金利の上限を撤廃し自由設定範囲を拡大した。預金金利については、引き下げも認め、引き下げの下限を基準金利の0.9倍とした。つまり、金利制度の柔軟性を増やしたことである。この金利柔軟性の拡大措置は、為替制度の柔軟性拡大に繋がる可能性が大きく、エコノミストたちの間で人民元変動幅拡大の前触れと受け止める向きもある。この意味では、人民元変動幅拡大の国内環境ができつつあると思われる。
国際環境については、中国は外国の元切り上げ政治圧力に屈しない姿勢を続けてきた。しかし今年に入って、元切り上げにおけるブッシュ政権の「圧力」政策から「協調」政策への転換が目立ち、外国の政治圧力が弱まる傾向は鮮明になってきた。この変化は中国にとって自主的な元変動幅拡大を行いやすい国際環境も整ったことを意味している。残る問題は、いつ実行するかということだけだ。
言うまでもなく、現時点では人民元の変動幅を拡大すれば、実質上の元切り上げになる。
●2005年元変動幅拡大へ
まったく個人的な見方だが、元変動幅の拡大は2005年に行われる可能性が高い。その確率は9割以上と筆者が見ている。ただし、変動幅については小幅にとどまり、5%(±2.5)前後になるのではないかと予想される。
また、現在は人民元が米ドルとリンクしているが、将来的には通貨バスケット制度、つまり米ドルだけではなくて、ヨーロッパのユーロ、日本の円、韓国のウォンなど主要国通貨と連動する為替制度に変わる可能性も高い。
人民元変動幅の拡大が行われた場合、日本企業は次の2点を十分に留意する必要があると思う。一つは、中国経済の存在感と影響力が益々増しているため、円相場は元相場に振られる場面も増えることである。
二つ目は、日本企業は元高だけではなく、元安にも留意する必要がある。長期的には元高の傾向が強いが、短期的には、例えば2007年に一時的に元安になる可能性もある。なぜかといえば、2006年に中国は1つのヤマ場を迎えるのだ。ヤマ場という意味は、中国は2001年にWTOに加盟した時に3つの公約をした。1つは、輸入関税率の大幅な引き下げ、2つ目は直接輸入制限の撤廃、3つ目は外資の市場参入認可で、この3つの公約はいずれも2006年末までに履行しなければならない。これらの市場開放措置、特に関税率の大幅な引き下げと直接輸入制限の撤廃によって輸入の急増をもたらし、経常収支が赤字に転落する恐れが出てくる。
これまでの経験則によれば、経常収支が赤字に転落した場合、元安になる可能性が大いにある。1985年から95年までの10年間、人民元の切り下げは5回もあったが、いずれも経常収支が赤字に転落した年、または翌年に起きたことである。
要するに、日本企業はこれから中国の経済収支の動きを注意深く見守り、迅速な情報収集と適切な分析・判断に基づく行動が必要と思われる。
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