【中国経済レポ−ト】
”巨大市場” どこを狙うか−三井物産戦略研究所中国センター長・沈才彬氏に聞く−
『日刊工業新聞』2005年1月4日
05年も引き続き世界経済成長の"エンジン"となる見通しの中国市場。世界貿易機関(WTO加盟)から3年が経過し、日本企業を含めた外資には、さまざまな分野での新たな中国ビジネスチャンスが期待される。今後、この巨大市場をどう攻めていけばよいのか。中国のエキスパートである沈才彬三井物産戦略研究所中国経済センター長に聞いた。(記者:斎藤真由美)
―中国がWTO加盟4年目に入りました。事業環境はどう変わりましたか。
「加盟時の三つの公約である関税の大幅な引き下げ、直接輸入制限の撤廃、外資の市場開放は基本的に守られた。03年の中国の輸入総額は前年比約40%増の4150億ドルにのぼり、世界ランキングはフランス、英国、日本を追い抜き、6位から3位に躍進した。04年は5000億ドルを突破し、06年にはドイツを抜いて第2位に、そして2010年には1兆ドルと首位の米国に迫る勢いだ。輸入規模という点でも、中国は"世界の工場"から"巨大市場"へと変わりつつあることは明らかだ」
―その巨大市場を攻めるポイントは。
「誰が中国市場をけん引しているのかを、十分に把握する必要がある。注目すべきなのは、国民の豊かさの実現、急速な都市化、渤海湾・長江デルタ・珠江デルタの三大エリアの成長、富裕層の出現という4要素。03年の中国の1人当たりGDPは1090ドルで、過去10年間で2・6倍になった。年平均8%の成長が続けば、2010年の国民所得水準は2000ドルを突破する見通しだ。つまり2010年には、中国の市場規模は今の2倍に拡大することになる」
「中国の都市化は96年ごろに始まり、毎年2000万人が農村部から都市部に移動している。なかでも富裕層が集中しているのが三大エリアで、人口は約3億人。中国で人口100万人以上、1人当たりGDPが3000ドルを超える都市は24都市あるが、うち21都市が3大エリアに集中している。さらに個人資産が10万ドルを超える富裕層がすでに5000万人おり、毎年10%ずつ増えると予想される。
こうしたことを踏まえて対中ビジネスを構築することが重要。『自分たちより所得水準の低い中国人には安い製品を売ればいい』といった認識は時代遅れだ」
―中国は過熱経済との懸念もあります。
「人間の体温に例えると、38度Cの発熱状態。解熱剤を投入しないと40度Cを超えて倒れてしまう。
中国政府はマクロコントロールと金融引き締めによる過熱抑制に力を入れており、効果も徐々に出ている。ただ、少なくとも08年の北京五輪まで、成長の減速はあっても失速はない」
―中国リスクとして押さえておくべき点は。
「不良債権問題、総統選を08年に控えた台湾独立問題、民主化問題、エネルギー不足問題などがある。焦点の人民元の切り上げ問題は、切り上げではなく変動幅を拡大する方向になるだろう」
●【沈才彬略歴】
シン・サイヒン=81年中国社会科学院大学院修士課程(日本経済史)修了、同年同大学院専任講師。84年に来日。東大、早大などの客員研究員を経て、93年三井物産戦略研究所主任研究員、01年から現職。江蘇省出身、60歳。
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