【中国経済レポ−ト】
ビジネスチャンス到来!? いま熱い「中国経済」の全貌
沈 才彬
『VEB VISION』2004年11月30日
さる10月28日、経済同友会主催の「第30回日本・ASEAN経営者会議」が東京で開かれた。筆者はこの会議で「発展する中国のASEAN・日本経済への影響」をテーマに特別講演を行った。日本・ASEAN経済界のリーダーたちの会議だが、主な議題の1つは中国経済の影響であり、会議の影の主役は中国というイメージが強い。
●世界経済成長の「第5の波」
それではいま、なぜ中国経済が熱いのか。実際、21世紀に入って、世界経済にとって最も重要な変化はほかでもなく、中国が世界経済に影響される方から影響する方に変わったということである。存在感と影響力を急速に増している中国とどう向き合うか、いかに中国の高度成長からエネルギ−を取り入れ、自国の経済成長に繋げるかは、日本を含む世界各国の課題となっている。
世界経済史から見れば、中国の躍進はいったいどういう位置づけだろうか。近代史において、これまで世界の経済成長に巨大な影響を与えた歴史的な出来事は4回もあった。18世紀半ば英国の産業革命、19世紀後半米国の台頭、20世紀半ば日本・西ヨーロッパの高度成長、20世紀90年代米国のIT革命であった。21世紀に「BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)」と呼ばれるエマージング諸国の離陸、特に中国の躍進は、まさにこれらに次ぐ世界経済成長の第5の波となる。
西側先進7ヵ国総人口の2倍に相当する巨像、中国。この新しいスーパーパワーの出現は、世界を震撼させるほどインパクトがある。現在、中国は世界経済のエンジンとなっており、東アジアでは中国の高度成長から恩恵を受けない国がいない。一方、仮に中国経済が変調すれば、アジア諸国にとって大きなダメージも避けられない。中国経済を抜きにして自国の景気動向を語れないことは東アジアの現実となっている。
●新たな拡張期に入った中国経済
中国経済はいま1つの転換点に来ている。アジア通貨危機以降ずっと続いてきた成長率低迷の局面から脱却し、新たな拡張期に入った。02年の8%成長に続き、03年は9.3%、今年上半期は9.7%にのぼり、経済拡張の勢いが凄まじい。一方、長引いてきたデフレ圧力も後退し今年からインフレ懸念が強まっている。
新たな拡張期は、次の3つの特徴を持っている。まずは経済規模拡大の加速。筆者の予測によれば、中国の経済規模は2006年に1兆8000億ドル前後に拡大し、フランスとイギリスを追い越し世界第4位となる。さらに2010年前後にドイツを、2020年前後に日本を、2050年前後に米国をしのぐ世界最大の経済パワーになる可能性も高い。これはあくまで現在の為替水準をべースに試算した結果である。仮に人民元の切り上げ要素を考えれば、実際の中国経済規模は更に大きくなる。
2つ目の特徴は、市場規模の拡大。現在、鉄鋼、銅、工作機械、携帯電話、家電製品及びビールをはじめ多くの分野では、中国の消費規模は既に日米を抜いて世界1位を占めているが、こうした分野は今後さらに増える。特に輸入規模の拡大から見れば、中国の巨大市場の加速が明らかだ。2003年中国の輸入総額は前年比40%増の4150億ドルにのぼり、99年に比べ2.5倍拡大した。仮に過去5年間の輸入伸び率の実績をべ−スに試算すれば、06年に中国はドイツをしのぎ世界第2位の輸入大国となり、10年に輸入規模は1兆ドル前後に拡大し米国に迫る見通しである。
3つ目の特徴は、バブル懸念の強まりである。現在、中国経済は投資、銀行貸出、マネーサプライという3つのバブル懸念を抱えている。過熱経済の行方につき、次の3点を述べたい。1つは人間の体温にたとえるならば、中国経済はいま摂氏38度ぐらいの発熱状態となっている。解熱剤を投入しなければ、40度ぐらいの高熱に上がって倒れる恐れがある。2つ目は、中国政府は今年4月からマクロコントロール政策と金融引締め政策を導入し、過熱抑制に動き出し、効果も徐々に出ている。政府の過熱抑制によって、経済成長は減速があっても失速はない。3つ目は2008年北京オリンピック開催まで経済成長の波が多少あっても、年平均8%の高成長は続くという見通しには変わりがない。
●誰が中国の巨大市場を牽引しているか
これまで中国は「世界の工場」と言われてきたが、いまは急速に「巨大市場」へ変わりつつある。それではいったい誰が中国の巨大市場を牽引しているか。深く掘り下げて見れば、国民の豊かさの実現、急速な都市化、三大成長エリアの形成および富裕層の出現という4つの要素が浮上する。言い換えれば、われわれは中国のマーケットに目を向けるとき、次の4つの人口数字を特に注目する必要がある。
まずは13億の全国人口。2003年中国の1人当たりGDP(国内総生産)は1090ドルにのぼり、10年前に比べ2.6倍拡大した。2010年に2000ドルを突破する見通しである。国民の豊かさの実現は市場拡大と経済成長の相乗効果が期待できる。
2つ目は5億2000万人の都市部人口。工業化の進展と急速な都市化によって、1996年から中国の農村人口は毎年1000万人ずつ減少し、都市部人口は毎年2000万人ずつ増加している。農村部から都市部への人口大移動が実際に起きている。周知のとおり、中国の都市部と農村部の収入格差が約6倍あり、消費市場の主力は言うまでもなく都市部人口である。消費の視点から見れば、毎年2000万人ずつ都市部人口が増加することは意味が大きい。単純に計算すれば5年ごとに1億人規模の新しい巨大市場が出現する。
3つ目は3億人の三大成長エリア人口。中国では経済成長が最も進み、富裕層が集中している地域は3つある。香港と隣接している珠江デルタ(広東省)、長江デルタ(上海市とその周辺地域)と渤海湾地域(北京、天津、大連、青島およびその周辺地域)。2003年時点で、中国では人口100万人以上、1人あたりGDPが3000ドルを超える大都市は合計24あり、そのうちの21は三大成長エリア(珠江デルタ6市、長江デルタ9市、渤海湾地域6市)に集中している。この三大エリア自体は正に巨大市場そのものである。
4つ目は5000万人の富裕層人口。富裕層とは10万ドル以上の個人資産を持つ人たちをいう。中国国民の平均所得水準はまだ低いが、収入格差が大きいため富裕層も大量出ており、個人資産10万ドル以上を持つ人口は既に5000万もあると言われる。物価水準の低い中国では、10万ドル以上の資産といったら莫大なものである。日本の感覚でいえば1億円以上の資産をもっている。5000万人富裕層人口の存在は意味が大きい。03年中国の自動車新車販売台数が1年間で114万台増加という世界にもあまり前例がない出来事の背景には富裕層の大量存在がある。
上記4つの要素は巨大市場の原動力となっており、需要ショックと消費ショックを引き起こしている。このチャイナショックはいま、国際市況価格に影響を与える最重要ファクターの1つとなっている。
●中国市場の巨大化で日本にインパクト
中国市場の巨大化は日本経済に大きなインパクトを与えている。03年日本経済は長引く不景気というトンネルから抜け出したが、実際、景気回復の陰の主役は中国である。日本財務省の貿易統計によれば、昨年日本の総輸出4.7%増(円ベース)、米国向けマイナス9.8%に対し、中国向けは33.3%増(ドルべース43%増)を記録した。通年日本の総輸出増加分2兆4533億円のうち、中国向け増加分は1兆6580億円にのぼり、香港向け増加分の2802億円を加算すれば、輸出増加分の8割近くが中国の貢献である。対中輸出の増加がなければ、日本の輸出拡大も景気回復も語れないことは自明の理である。
中国向け輸出の急増によって、日本の輸出構造に大きな変化が起きている。米国シェアが急ピッチで低下し、中国シェアは急速に拡大している。仮に過去10年間の対米・対中(香港を含む)輸出伸び率実績をべ−スに試算すれば、2007年までに米中逆転が起き、中国は米国に代わり、日本の最大の輸出市場となる。
中国の高度成長持続によって、ここ10年、日本経済の対中国依存度は急速に高まっている。輸出の対中依存度(総輸出に占める対中輸出の比率)は、94年に比べ03年は2.5倍増(4.7%→12.1%)、GDPの対中依存度(GDPに占める対中輸出の比率)は3倍増(0.4%→1.3%)。これまで米国経済のみを注目すればよかった時代は確実に終わり、中国マーケットを抜きにして景気動向も産業発展も語れない時代が訪れてきた。
発展する中国は日本に多くのビジネスチャンスをもたらす一方、中国ビジネスリスクも見落としてはいけない。短期的には前に述べた3つのバブル懸念を抱えているが、中長期的に見れば、「2006年問題」(不良債権問題)、「2008年問題」(台湾独立の懸念)、「2010年問題」(政治民主化のリスク)、「2015年問題」(石油危機の恐れ)などが懸念される。日本企業は中国ビジネスのチャンスとリスクを両方複眼的に捉えなければならない。
■沈 才彬(シン サイヒン)
三井物産戦略研究所中国経済センター長。マスコミに「現代中国の政治・経済を鋭く切り取る屈指の論客。緻密で正確な分析と公平な視点は、日本の政財界から高い評価を受け『中国問題最強のアナリスト』の呼び声が高い」(「毎日新聞」)と評価され、企業や各地の経済団体での講演多数、NHKはじめテレビでも活躍中。著書『チャイナショック―世界を揺るがす、中国経済のスーパーパワー』(日本能率協会マネジメントセンター)などがある。
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