【中国経済レポ−ト】
人民元 利上げでどうなる?
沈 才彬
『毎日新聞』(電子版)2004年11月12日、16日
中国人民銀行(中央銀行に相当)は10月29日から、金利の引き上げを行った。金融当局のこの決定をどう受け止め、中国経済に今後与える影響をどう考えればいいのか、また、人民元の切り上げとはどんな関わりがあるか、Q&Aでまとめてみた。
−−人民銀行決定の主な内容は?
◆今回、人民銀行が引き上げた金利の中身は、主に二つある。一つは、預金・貸し出しの基準金利を10月29日から引き上げることである。上げ幅は0.18〜0・8%で、期間1年の預金金利と貸出金利はともに0.27%上がり、それぞれ1.98→2.25%、5.31→5.58%になった。
◆二つ目は金利制度の柔軟性を増やすことである。人民元建て貸出金利については上限を撤廃し、自由設定範囲を拡大した。一方、預金金利については、引き下げを認め、引下限を基準金利の0.9倍とした。
−−マクロコントロ−ル政策の転換か?
◆人民銀行の今回の措置は、マ−ケットに二つのメッセ−ジを伝えた。一つは、行政指導中心から市場手段中心へというマクロコントロ−ル政策の転換である。
◆昨年後半から、中国には投資、貸出、マネ−サプライという3つのバブル懸念が強まり、政府当局は行政指導を中心とするマクロコントロ−ル政策を導入し、過熱抑制に取り込んできた。この政策による過熱抑制効果が出たことで、四半期ごとのGDP(国内総生産)成長率は2003年第4四半期の9.9%から、今年第1四半期9.8%、第2四半期9.6%、第3四半期9.1%へと緩やかながら低下した。経済成長の適正水準(7〜9%)に近づいたわけだ。
◆これまでの経験則によれば、不完全な市場経済国では、市場手段より行政指導の方が過熱抑制には有効である。しかし、長期的に行政指導を続ければ、その効果が段々失われる懸念があるのも確かだ。中国は行政指導がまずまずの効果を上げた段階に、金利引上げという市場手段を取り、適時に行政指導中心から市場手段中心へというマクロコントロ−ル政策の転換を行った。これは至極当然のことである。
−−元切り上げとの関わりは?
◆二つ目のメッセージを考えてみよう。金利制度改革と為替制度改革の関わりについてだ。今回の金利柔軟性の拡大措置は実際、人民元変動幅拡大の前触れと受け止めることができる。この点については、市場もマスコミもほとんど見落としているので注意が必要だ。
◆中国政府は現在、市場ニーズに応えるため、柔軟性がある金利政策と為替政策の改革を模索している。今回の元建て貸出金利上限の撤廃と預金金利引き下げの認可は、まさにそうした改革の試みであり、人民元の為替レート変動幅の拡大につながる可能性が高い。言うまでもなく、変動幅を拡大すれば、実質上の元切り上げになる。
−−元変動幅拡大のタイミングは?
◆人民元変動幅拡大の環境はできつつある。今回の金利の柔軟性拡大の措置は、人民元変動幅拡大の国内環境の整備とも言える。国際環境については、中国は外国の政治圧力に屈しない姿勢を続けてきたが、今年に入ってブッシュ政権の「圧力」政策から「協調」政策への転換が目立ち、元切り上げに対する外国の政治圧力が弱まっている。この傾向は益々、鮮明になってきており、中国にとって自主的な元変動幅拡大を行いやすい国際環境が整いつつあることを意味している。残る問題は、いつ実行するか、ということだけだ。
◆まったく個人的な見方だが、元変動幅拡大は来年に行われる可能性が高い。タイミングとしては、来年1月20日に行われる米大統領就任式の前後が特に要注意である。なお、変動幅については小幅(例えばプラスマイナス2%前後)にとどまることが予想される。
−−日本企業の対応は?
◆人民元変動幅の拡大が行われた場合、日本企業は次の2点を十分に留意する必要があると思う。一つは、中国経済の存在感と影響力が益々増しているため、円相場は元相場に振られる場面が増えることが予想される。二つ目は、日本企業は元高だけではなく、元安にも留意する必要がある。元高傾向は2006年まで続く見通しだが、07年からいったん元安に転じる可能性も高い。06年に中国経済は一つの山場を迎えるからである。
◆中国政府のWTOに対する公約によると、輸入関税率の引き下げ、直接輸入制限の撤廃、外資の市場参入などはいずれも06年までに基本的に完成しなければならない。関税率の大幅な引き下げと直接輸入制限の撤廃は輸入の急増をもたらし、経常収支が赤字に転落する恐れが出てくる。
これまでの経験則によれば、経常収支が赤字に転落した場合、元安になる可能性が大いにある。1985年から95年までの10年間、人民元の切り下げは5回もあったが、いずれも経常収支が赤字に転落した年、または翌年に起きたことである。従って、日本企業は中国の経済収支の動きを注意深く見守る必要がある。
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