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【中国経済レポ−ト】
【中国経済レポ−ト】
原油高騰で対中輸出減少 そのマイナス影響度を測る

沈 才彬
『エコノミスト』誌2004年11月1日号

  • 日本の成長率0・5%押し下げ――IMF試算
  • 中国の需要急増の4大要素
  • 成長の条件はエネルギー効率の向上               
  •  原油高騰は、原油需要を急速に拡大させている中国に影響をもたらす。中国経済が失速すれば、日本経済への影響は避けられない。

    日本の成長率0・5%押し下げ――IMF試算

     国際原油価格の高騰が続くなか、世界第2位の石油消費大国である中国の動向が注目されている。だが、原油高が与えるマイナス影響を中国経済が避けられないことは、明らかである。

     まず、輸入コストの増加がその理由に挙げられる。中国の税関統計によれば、今年1〜8月の中国の原油輸入は、数量べースで前年同期比39・3%増の7996万トンであるのに対し、金額べースで63・6%増の204億ドルとなった。このうち、原油高の影響による輸入コストの増加が30億ドルで、石油製品を含めばコスト増は通年70億ドルに上り、原油および石油製品の貿易赤字は300億ドルに達する見通しである(2004年GDPの2・3%に相当)。

     二つ目は、関連産業の生産コストの上昇につながり、自動車、石油化学、航空など産業分野への打撃が大きいこと。

     三つ目は、インフレ圧力である。昨年から中国はインフレ懸念が強まり、消費者物価上昇率は03年の1・2%から、04年第1四半期は2・8%、8月には5・3%へ上昇した。これは、原油高が一因と見られる。例えば、今年のガソリン価格はすでに3回も値上がりし、マイカー保有者のガソリン代金支出が、前年に比べ、3割も増えた。インフレ圧力の増大によって、経済運営のリスクも増している。

     四つ目は、経済成長率の押し下げ効果である。試算によれば、原油価格が1バレル=10ドル上昇すれば、中国の経済成長率は0・5ポイント押し下げられる。仮に、05年の国際原油価格が50ドル台で高止まりすれば、中国の経済成長率は8%を下回る可能性も出てくる。

     当面の中国の原油の海外依存度(03年35%)は、日本や西欧諸国より低いため、原油価格の高騰による中国への影響は限定的なものにとどまり、経済成長は、減速はしても失速には至らないと思われる。しかし、長期的に見れば、安定的な石油供給が確保できるかどうかが中国の経済安全保障にかかわる最大の課題といえよう。

     原油高騰の影響で中国経済が減速すれば、日本経済への悪影響も必至である。日本の輸出は中国依存度が高く、中国経済の減速による日本の景気下振れリスクが大きいからである。

     財務省の貿易統計によれば、03年の日本の対中輸出は、前年比33・3%増(ドルベース43%増)を記録した。総輸出増加分2兆4533億円のうち、中国向け増加分は1兆6580億円に上り、香港向け増加分2802億円を加算すれば、増加分の8割近くが中国の貢献である。

     今年1〜8月にいたっては、対中輸出は前年同期比22・4%増の5兆1569億円に拡大し、香港向け(2兆5122億円)を加算すれば合計7兆6691億円で、米国の8兆8892億円(0・5%増)に接近。総輸出に占めるシェアも19・3%となり、米国の22・4%に肉薄している。中国マーケットを抜きにして景気動向も産業発展も語れないのが、日本経済の現実ともいえる。国際通貨基金(IMF)は、中国の輸入が10%減ると、日本の成長率を0・5%押し下げると指摘している。

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    中国の需要急増の4大要素

     原油高の最大要因は、需要サイドに限っていえば、中国の消費急増である。02年に日量497万バレルだった中国の原油需要は、03年同552万バレルに拡大した。同年の需要規模は世界の7%だったのに対し、増加分(日量55万バレル)は米国の2倍、世界の3割を占め、需要増に最大に寄与している。今年の需要は、さらに15%増の634万バレルと予想される。

     爆発的な原油需要の背景には、高度成長の持続、急速な都市化、国民消費の近代化、および石炭から石油へのエネルギー構造の変化という四つの要素がある。そのうち、急速な都市化と消費の近代化は、特に影響が大きい。

     高度成長の持続と工業化の進展によって、中国は1996年から、農村部の人口が毎年1000万人ずつ減少する一方、都市部人口は同2000万人ずつ増加と、農村部から都市部への人口大移動が起きている。都市部人口の1人当たり石油消費量は農村部人口の約6倍に相当するため、石油消費の主力は、いうまでもなく都市部人口である。

     毎年2000万人ずつ増加する都市部のインパクトは大きく、単純計算すれば5年ごとに1億人規模の新しい巨大市場が出現する。今後、急速な都市化は続く見通しであり、2010年までに都市部人口はさらに1億5000万人増え、原油需要の増加はあっても、減少することはないだろう。

     国民消費の近代化も、原油需要の急増をもたらしている。ガソリンを燃料とする自動車の消費ブームが、その典型的な事例である。03年の中国の自動車新車販売台数は前年比114万台増の439万台に上り、2010年の1000万台突破が視野に入る。

     自動車ブームの背景には、富裕層の出現がある。中国国民の平均所得水準はまだ低い(03年の1人当たりGDPは1090ドル)が、収入格差が大きいため富裕層も大量に出ており、個人資産10万ドル以上を持つ人口はすでに5000万人いるといわれる。今後、この富裕層は毎年10%増のスピードで増加し、原油消費の拡大を牽引する一大原動力となる。

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    成長の条件はエネルギー効率の向上

     現在、中国の1人当たり石油消費量は、日本の10分の1、先進国平均の5分の1にすぎない。しかし、高度成長の持続、都市化の進展および国民消費の近代化によって、先進国との1人当たり原油消費格差がますます縮小するのは間違いない。

     中国政府は2020年までにGDP規模を00年の4倍に増やす目標を立てているが、これを実現するためにどのぐらいの原油需要が発生するか、シミュレーションを試みると、96〜03年の中国のGDP成長率年平均8・3%に対し、同期原油需要伸び率は6・4%。換言すれば、経済成長率を1ポイント押し上げるためには、0・77ポイントの原油需要増が必要であることになる。

     この実績をべースに、政府目標のGDP4倍増計画を実現する経済成長率を7%と設定した場合、2020年まで年率5・3%の原油需要増が必要となる。つまり、2020年の中国の原油需要は03年の2・4倍に相当する日量1328万バレルになり、03年の世界需要全体の16・8%、米国の3分の2に相当する。

     近年、中国国内の原油生産は横ばいが続き、大幅な増産は期待できない。2020年の原油需要の日量1328万バレルのうち、国内生産は450万〜500万バレルと見込まれ、残る830万〜880万バレルは輸入に頼らざるを得ない。原油輸入4倍増(03年193万バレル)の計算である。

     問題は、これほどの原油の輸入が確保できるかどうかにある。確保できなければ、経済成長の挫折が避けられない。中国政府がエネルギー問題を経済安保にかかわる重要課題と位置づける最大の理由である。

     現在、中国政府は国内の新規油田開発の加速、リスク分散のための輸入ルート多様化、大連、黄島、鎮海、舟山など4大石油備蓄基地の建設(08年までに完成)、省エネルギー化などの総合的な石油戦略を構築している。そのうち特に重要なのは、省エネルギー化であろう。

     世界的に見ると、中国のエネルギー効率の低さが目立つ。北京の週刊誌『瞭望』は、1万ドルのGDP創出に対し、中国のエネルギー消費量は米国の3倍、ドイツの5倍、日本の6倍に相当し、エネルギー大量消費型高成長の実態が浮き彫りになっている。視点を変えれば、仮に中国のエネルギー効率を先進国並みの水準に高めれば、原油消費を増やさなくても、GDP4倍増目標の実現も可能になる。いかに原油消費を抑えながら高度成長を持続するかが、中国経済にとって最大の課題である。

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