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【中国経済論談】
【中国経済論談】
北京街頭で見た「3減3増」

中国ビジネス研究所代表、多摩大学大学院フェロー 沈 才彬

先月、4年ぶりに中国に行き、北京、天津を訪れた。中国滞在中、日系企業3社、中国企業1社、外国企業団体1社、北京市政府機関1か所を訪問し、外務省、商務省、中国社会科学院の学者たちとも意見交換を行った。現地から中国経済の最新動向にかかわる情報を入手した。

コロナ前の2019年に比べれば、良い意味でも悪い意味でも中国が大きく変わっているというのは私の実感だった。次に述べる、筆者が北京街頭で見た「3減3増」現象は正にこの変化の現れと言えよう。本稿は中国出張報告として、2回にわたり現地の最新情報を伝える。

●町を歩く外国人が減り、国内旅行者が増加

 北京旅行の第一印象は、町を歩く外国人が少ない一方、国内旅行者が増えた。

北京滞在中、高さ北京一の中信大厦(CITICビル)近くのマンションに住んでいた。ここは北京市CBD(ビジネスセンター)エリアにあり、同市最大の百貨店・新光天地にも近く、賑やかな町である。

4年前に比べ、国内旅行者が増える一方、町を歩く外国人の少なさが印象的だ。また、高速鉄道で北京から天津に移動した際にも、北京南駅内を歩くと、西洋人の顔が見られなかった。外国人の少なさに驚いた。

なぜ北京の街を歩く外国人が減少しているか?外国人観光客の激減と外国企業駐在員の減少が主な原因と思われる。中国文化観光省の発表によれば、今年1〜6月、国内旅行会社が受け入れた外国人観光者は僅か48万人で、2019年同期856万人の5.6%に過ぎない。

外国企業の撤退も在留外国人の減少に繋がっている。現在、中国進出の外資系企業をめぐる経営環境に厳しさを増し、その業績が大幅に悪化している。中国国家統計局の発表によれば、今年1〜10月中国工業企業の利益は前年同期に比べ7.8%減少している。うち、国有企業▼9.9%、私営企業▼1.9%、外資系企業▼10.2%となっており、外資系企業の業績悪化が際立つ(表1を参照)。

表1  2023年1〜10月中国工業企業利益伸び率(対前年同期比 %)

  全 体   ▼7.8%

  国有企業 ▼9.9%

  外資系企業 ▼10.2%

  私営企業 ▼1.9%

 出所)中国国家統計局の発表により筆者が作成

中国経済の低迷や経営環境の悪化に加え、米中対立の激化によって、日米欧企業、特に米国企業の中国撤退が相次いでいる。筆者が面談した北京市外国企業協会副会長の話によれば、「外資系企業は中国事業の拡大にとても慎重で、現状維持が多数派だが、撤退や事業縮小と考える企業も少なくない」という。

 日本貿易振興会(ジェトロ)のアンケート調査はこの副会長の話を裏付ける。ジェトロは今年8〜9月に中国進出日系企業に対しアンケート調査を実施し、7632社から回答を得た。調査結果によれば、今後1年から2年で中国事業の拡大を見込んでいると回答した企業は全体の27.7%にとどまり、初めて3割を下回った。

 また、中国当局の発表によれば、第3四半期の外国直接投資は118億ドルが減少し、これも初めてマイナスに転落した。

 北京の街を歩く外国人の減少は、ヒト、カネの「中国離れ」が加速する実態が反映されている。どうすれば外国観光客や外国直接投資を中国に戻させるか? これは、中国政府が直面する深刻な課題の1つとなっている。

●小売り店舗の利用客が減少、QRコード決済の宅配が急増

 2つ目の北京市の町イメージは、小売り店舗の利用客が減少し、ネットでQRコード決済する宅配が急増していることだ。

 「北京の銀座」と言われる王府井にある百貨店、外国大使館エリアにある中間層・富裕層向けのデパート・燕莎百貨店及び北京市最大の百貨店・新光天地デパートに行ってみた。いずれも客足が少なかった。

 実店舗に足を運ぶ買い物客が減っている一方、QRコード決済のネット通販利用客が急増している。

 筆者が宿泊したマンションに約200世帯が住んでおり、一日300件以上の宅配が届く。平均して1世帯に1.5件が毎日利用される。いずれもQRコード決済である。そして、スーパーやデパートへ買い物に行ってもQRコード決済、バスや地下鉄利用もスマホでQRコード決済。レストランで食事してもQRコード決済。キャッシュレスが想像を超えるほど進んでいるのは実体験だ。

 キャッシュレスの進化は、現金を持たずスマホ一本で持てば何でもできる若者にとっては、とても便利だ。しかし一方、現金使用に慣れてきた老人、及び支付宝(アリペイ)や微信支付(WeChat Pay)を持たない外国人にとっては、不便をもたらすことも事実だ。

  ●町を走るガソリン車・外国車が減少、EVや国産車が急増

 3つ目のイメージは町を走るガソリン車や外国車が減少し、その代わりに電気自動車(EV)や国産車が急増していることだ。

 北京の街では、ガソリン車とEVなど新エネ車が区別されやすい。ガソリン車のナンバープレートは青で、EVなど新エネ車は緑だ。現在、北京市の町を走る車は約2割がEV車、8割がガソリン車。来年1月よりガソリン車のタクシーは走行禁止となり、町を走るEV車の比率が更に高まることになる。

 近年、中国は「脱炭素」という時代の潮流に合わせ、EVなど新エネ車の普及に力を入れている。その結果、新エネ車は躍進を遂げ、市場シェアが猛烈な勢いで拡大している。中国汽車工業協会の発表によれば、今年1〜10月中国新車販売台数は前年同期比9.1%増の2397万台、うちEVなど新エネ車は37.8%増の728万台にのぼる。市場シェアが30.4%を占める。現在、世界で生産・販売されているEVの5割超が、中国製である。

 中国EV技術の躍進によって、国内では国産車と外国車の逆転劇が起きている。1〜10月にBYD、奇瑞、吉利など国産ブランドの販売台数は1142.6万台、前年同期比22.2%増。市場シェアは55.3%を占め、前年同期より6.6ポイント増えた。逆にテスラを除く外資系メーカーのほとんどはマイナス成長に陥っている。

 日系メーカーを例にすれば、今年4〜9月にトヨタの中国販売0.3%増を除くと、三菱自動車▼60.1%、SUBARU▼36.7%、日産▼20.3%、ホンダ▼12.3%、マツダ▼7.6%と揃って前年割れとなっている。

 中国ではEVの急速な普及によって、外資系メーカーと現地メーカーの競争が激しさを増す。競争に負けた三菱自動車はやむを得ず中国から撤退した。世界販売が好調であるトヨタでさえ天津でのガソリン車生産ラインの一部停止を決定した。日系メーカーの中国現地戦略見直しが迫られる。(了)