≪次のレポート レポートリストへ戻る 前回のレポート≫

経済レポ−ト
沈才彬氏が解く中国の「5つの疑問」

『週刊東洋経済』2004年1月31日号

   疑問1 中国経済の高成長は当面続くのですか。

 2003年は9・1%(速報値)の経済成長を達成したと見られます。04年も8%台の成長率が期待できそうです。

 当局の発表については、実態を正確に反映した数字ではない、と疑問視する向きが少なくありません。かつては「過大評価」と言われていましたが、今は逆に「過小評価」との声が聞かれます。「実質成長率は10%台」との指摘もあるほどです。

 1997年のアジア通貨危機以降、中国経済は停滞が続きましたが、02年で成長率低下にも歯止めがかかり、拡大局面を迎えています。消費者物価が12カ月連続してプラスになるなど、デフレも終息しました。

 日本の経験則に従えば、GDPは1兆ドルの大台に乗せると、その後の伸びに弾みがつきます。日本のGDPが1兆ドルに到達したのは79年。戦後、30年以上の期間を要しました。ところが、7年後にはあっという間に2兆ドル乗せを果たしました。中国は2000年に1兆ドルをクリアしています。06年には仏英両国を抜いて世界第4位。10年にはドイツを上回り第3位。20年前後には第2位の日本と肩を並べるか、抜き去る水準まで拡大。そして50年前後には米国を追い抜き、世界最大となる可能性が高いでしょう。

 中国の携帯電話の普及台数は03年9月末で2億5000万台と、米国の1億5000万台を上回り世界1位。ビール、鉄鋼、銅などの消費もトップです。ナンバーワンの分野が今後、さらに増えるのは確実です。

疑問2 商品価格の高騰も中国の影響大ですか。

 これまでは「中国がデフレを輸出している」との見方が、日本のマスコミの論調の主流でしたが、現在はその一方で、中国の買いが価格を押し上げているのも事実です。03年の中国国内の鉄鋼生産量は2億2000万〜2億3000万トンと、日本の倍の水準を記録しました。しかし、それだけでは足りず、3000万トン前後の鋼材を輸入しています。中国需要が国際鉄鋼市況に大きな影響を及ぼしているのは明らかです。

 中国は工作機械の分野でも世界1位。市場規模は02年時点で57億ドルに達していますが、国内生産は45%で、残りの55%を輸入に依存しています。この結果、工作機械の価格も上昇しました。古紙、ナフサ、大豆……。これらも中国国内の旺盛な需要を背景に値上がりしています。中国から欧米向けの海上輸送が増えたおかげで、海上運賃もハネ上がりました。日本で高炉、海運、工作機械、建設機械などの業績が好調なのも中国要因が背後にあります。

  疑問3 中国に懸念材料は見当たりませんか。

 中国経済には三つのバブルの兆しが出ています。投資、銀行貸し出し、マネーサプライです。昨年1〜9月の固定資産(設備、不動産)投資は前年同期比約31%増。なかでも、不動産投資は同34%も増えました。設備投資も鉄鋼、繊維、機械などの分野で急拡大しており、明らかに過熱状態にあります。

 自動車事業では国内、海外メーカーともに競って投資を増やしており、他分野からの参入も見受けられます。投資に国内需要が追いつかなければ、輸出に振り向けられ、対外貿易摩擦を深刻化させる懸念もあるでしょう。

 銀行貸し出しも03年1〜9月、前年同期比23%増。新規貸し出しだけを見ると、同90%以上増えるなど、急激な伸びを示しています。貸出先の多くは国有企業で将来、新たな不良債権になりかねません。

 同年1〜9月のマネーサプライも約20%増加。グリーンスパン米連邦準備制度理事会議長は昨年、中国のインフレ懸念に言及しました。

 実際、バブルになっては手遅れのため、政府や中央銀行も対策を講じているところです。不動産向け投資の規制、開発区の整理・統合などを相次いで打ち出しています。

疑問4 不良債権の問題が深刻だと聞きますが

 政府は4大国有商業銀行に公的資金を注入し、自己資本比率を高める努力をしていますが、こうした対策がどこまで続くか定かではなく、不良債権問題が中国の経済成長を頓挫させる可能性も残っています。決して大げさな言い方ではありません。

 中国金融機関の不良債権比率は02年末時点で24・1%。日本の大手・地方銀行の同比率(03年3月期末)の3・2倍です。不良債権総額も日本の1・3倍。対GDP比率も日本の4倍の水準に達しており、この問題の深刻さが裏付けられます。

 最近の貸し出し増は、中央銀行が4大国有商業銀行に不良債権比率引き下げを指導しているのが一因です。各行は02年末に26%の同比率を05年までに15%へ低下させるため分母、つまり貸し出し拡大に走った結果、新たな不良債権発生につながるリスクが高まってきました。

 07年までには外国銀行に人民元取り扱いが全面開放されます。そうなると、サービス、人材、給与などの面で劣る中国金融機関が厳しい状況に直面するのは避けられません。

 03年3月には「南京エリクソン事件」がありました。中国政府は世界貿易機関(WTO)への公約どおり、外貨取り扱い業務を外資系に開放。米国のシティバンク上海支店が認可第1号となりました。それと同時に南京市最大の外資系企業で、優良企業でもある南京エリクソンは、メインの借入先を中国系銀行から同支店にシフトしてしまったのです。

 南京エリクソンは中国系銀行にとって利益の源泉だっただけに、この事件は優良債権と利益の喪失を意味します。中国系銀行は今後、抜本的改革をやらないと、「対岸の火事」では済まなくなるおそれがあります。

疑問5 国有企業の改革は進んでいますか

 改革は想像以上に進んでいます。国有企業の従業員は3000万人減少。その受け皿として私営企業や個人経営企業が急増しています。

 国有企業は今、競争メカニズム導入に取り組んでいるところです。PCメーカー最大手の聯想(レンソウ)集団有限公司は「ワーストワン淘汰制度」という、従業員を対象とする総合的業績評価制度を採り入れました。6カ月ごとに優秀、合格、要改善という3段階で評価を行い、2回連続で「要改善」と判定されると、解雇の対象になります。同制度を通じて同社は社員に危機意識や緊張感を持たせることに成功、増収増益を確保しています。

 社員食堂に業績評価を掲示するなど、日本企業では想像もつかない制度を採用している企業も多いのです。それに比べると、日本企業にはむしろ、労働意欲を損なうような社会主義的構造が残っています。

* トップに戻る *