-三井物産戦略研究所中国経済センター長の沈才彬氏に聞く−
中国経済が成長の新たなステージに入りつつある。二〇〇一年末の世界貿易機関(WTO)加入を期に外資の投資、輸出とも急増、内需の伸びもあって一九九〇年代末以降、水平飛行だった国内総生産(GDP)伸び率が上向く気配が見えてきた。中国経済センター長の沈才彬氏に見通しを聞いた。
記者:二〇〇三年の成長率の見通しは。
沈 :今のところGDPは昨年を0.5ポイント上回る年率8.5%の伸びになるとの見方が多い。中国の成長率は九二年の14.2%が最近のピークで、その後はじりじり低下して来たが、再び成長が加速する段階に入ってきたと言える。1−9月期を見ても鉱工業生産が16.7%増、固定資産投資が30.5%増など高成長を裏付けるデータが多い。ただ、実際の成長率は10%以上との見方も少なくない。中国の経済統計は主に生産法アプローチによっており、支出法に直せば成長率は上積みされる可能性が高いからだ。1−9月期の電力需要の伸びが15.6%であることを見ても実際の成長は10%を超えているだろう。中国は明らかに新たな成長期に入ってきた。
記者:成長が加速している理由は何か?
沈 :九七年のアジア金融危機は中国にも大きな影響を与えた。五年間かかってその調整がようやく終わったと言うことだ。デフレ傾向も終息しつつある。物価はここにきて上がってきており、特に最近では食料品の値上がりが目立っているほどだ。固定資産投資はインフラ、工場設備、不動産など活発化しており、一部では過熱傾向もみえる。不動産投資は中国全体で34%増だが、三十五の大都市のうち十都市で70%増になっており、都市部で盛り上がっている。
記者:不安はないか?
沈 :バブルとの見方もあるが、九二 ― 九三年のインフレ状況とは異なっている。当時は生産財の不足が深刻で、供給のボトルネットが問題になったが、現在は生産財のほとんどは充足している。不測の事態が発生しない限り、中国経済は少なくとも二〇〇八年の北京五輪までは8%前後の高成長を続けられるだろう。不安があるとすれば、成長が外資や政府の投資拡大など投入の増加によって実現しており、生産性の向上があまり起きていないことだ。金融機関の不良債権問題も今後、外資への金融開放が進むにつれ、一段と深刻化する不安がある。そうした問題を政府がどう解決するか、注目したい。
記者:日本企業の対中戦略はどうすべきか?
沈 :今年1−7月の日本の貿易統計を見ると、輸出の増加分の77%は中国向けの増加で香港経由も含めると日本の輸出増は90%が中国関係といえる。巨大な中国市場を取り込まない限り、企業の発展はないだろう。日本企業はさらに情熱を持って中国に取り組むべきだが、状況をしっかり見る冷静さも必要だ。