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【中国経済レポ−ト】
【中国経済レポ−ト】
中国 3つのバブル懸念

沈 才彬
2003年12月16日付日本経済新聞「経済教室」

  • 新たな拡張期 デフレも終結
  • 国有企業向け不良債権深刻
  • 冷静な判断 日本に必要
  • 新たな拡張期 デフレも終結

      中国経済はいま1つの転換点に来ている。アジア通貨危機後5年にわたる調整期を終え、経済成長率の停滞局面から抜け出し、新たな経済拡張期に突入する勢いが鮮明になっている。2002年の8%成長に続き、今年の経済成長率は8%を遥かに超えることが確実となり、来年も8%台の維持が可能と見られる。金融危機や台湾独立のような不測の事件がなければ、年平均8%の成長は2008年北京五輪まで続くと思われる。

      一方、消費財と生産財の物価指数も11カ月連続でプラスを記録し、98年以降、長引いてきたデフレ傾向にピリオドが打たれつつある。

      新たな拡張期の牽引役は「3Mブ−ム」と言われるマイカ−(自動車)、マイホ−ム(住宅)、モバイル・テレコム(携帯電話)の消費ブ−ムである。例えば、今年1−10月の乗用車販売台数は前年同期比68%増の150万台と昨年通年実績(112万台)を遥かに上回っている。

      高度成長の持続に伴い、経済規模と市場規模の急速な拡大は期待される。筆者の予測によれば、2000年に1兆ドル大台に乗せた中国の国内総生産(GDP)規模(世界第6位)は、2006年までに1兆7000億ドル前後に拡大し、フランスとイギリスを追い越し世界第4位となる。さらに2010年までにドイツ、2020年までに日本、2050年前までに米国を凌ぐ世界最大の経済パワ−になる可能性も高い。

      最近の人民元切り上げ問題をめぐる日米欧の圧力攻勢はこうした中国の台頭を背景とした「経済防衛戦」の側面を否定できない。

      高度成長と国民生活水準向上によって、中国に消費ショックと需要ショックが起き、日本を含む世界経済に大きなインパクトを与えている。現在、鉄鋼、工作機械、携帯電話、家電製品及びビールなど多くの分野では、中国の消費規模は既に日米を抜いて世界1位を占めているが、こうした分野は今後さらに増える。

      特に輸入で見た場合、中国市場の急拡大が明らかである。2002年に2950億ドル(世界6位)だった中国の輸入規模は、2003年に約4000億ドルに膨らみ、フランス、日本、イギリスを一気に抜き、米・ドイツに次ぎ世界第3位となる。2006年にドイツを凌ぎ世界第2位へ躍進することも視野に入る。

      こうして中国経済が新たな拡張期入りとデフレ終結に向かう一方、バブルの兆しも出ている。固定資産(不動産・設備)投資、銀行貸出し、マネ−サプライの「3つの過熱」はその象徴的なものと言える。

      統計によれば、今年1−9月期の固定資産投資は3兆4351億元と前年同期に比べ30.5%も増え、1993年以来の最高水準となった。そのうち、不動産投資は34%も増え、伸び率が50%を超す省・直轄市・自治区は合計31のうち11に、70%を超す大中都市は合計35のうち10に達している。2年連続で不動産価格が20−30%増と急騰している都市もある。

      設備投資も高い伸び率を見せており、石炭52%増、機械74%増、鉄鋼150%増、繊維626%増となり、過熱状態となっているのは明らかだ。

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    国有企業向け不良債権深刻

      投資過熱は銀行貸出しの急増に支えられるものである。今年1−9月、中国金融機関の新規貸出しは2兆7000億元にのぼり、前年同期に比べれば93%も増えた。9カ月の貸出し総額は昨年通年の実績(1兆9228億元)を遥かに上回る結果となっている。

      投資と貸出しの急増は、マネ−サプライの急増をもたらしている。今年1−9月のマネ−サプライは前年同期比20.7%増を記録し、グリ−ンスパン米連邦準備理事会(FRB)議長が指摘したインフレ圧力は強まっている。

      投資、銀行貸し出し、マネ−サプライという三つの過熱により、不動産バブルの崩壊や生産過剰などによる経済の急変調が懸念され、経済運営のリスクは増大している。

      中国国家統計局は、「8.5%成長(今年1-9月)は過去20年間の年平均9.4%の成長率を下回る」ものとして、経済過熱を強く否定しているが、その理由は説得力を欠く。政府と金融当局は3つの過熱を看過し、早急に適切な対応策を打たなければ、バブルの再燃と金融危機の発生という「近憂遠慮」は決して杞憂ではない。

      3つの過熱のうち、金融機関の貸し出し急増が特に懸念される。不良債権問題は一層深刻化し、金融危機に繋がる恐れがあるからだ。

      金融機関の貸し出し急増の中身を調べれば、大手企業と公共事業に過度集中しているという「一大二公」が浮き彫りになる。大手企業や公共事業に貸し出すこと自体は問題と言えないが、問題は貸出先の大部分は国有企業であり、その貸出債権の多くは将来不良債権になりかねないことだ。

      現在、国有企業の業績不振に起因した中国の不良債権問題ははなはだ深刻だ。中国人民銀行(中銀)の発表によれば、02年末時点、中国金融機関の不良債権比率は24.1%にのぼり、国際警戒ライン10%及び中国人民銀行の規定上限15%を遥かに上回っている。不良債権総額も3兆元近く(45兆円相当)にのぼり、同年GDPの29%を占める。

      中国のGDP規模は日本の3分の1弱に過ぎないが、不良債権総額は日本(35兆円)の1.3倍、不良債権比率は日本(約7.5%)の3.2倍、GDPに占める不良債権の割合は日本(7%)の4倍に相当し、問題の深刻さが窺がえる。

      最近、貸出債権全体の6割を占める四大国有商業銀行は、金融当局の指導を受け、不良債権比率を昨年末の26%から2005年に15%以下に引き下げようとしている。問題は分母(債権全体)の拡大に注力することにある。債権規模の急速な拡大は経済過熱を招く恐れがあるのみならず、新たな不良債権の種にもなりかねず、金融リスクの解消に繋がらない。

      2007年までに外国銀行の人民元取り扱い業務に対する規制は撤廃され、外資系銀行の参入により中国の金融機関はかつて経験したことがない、厳しい試練に直面している。

      中国の金融界に激震をもたらした「南京エリクソン事件」はその典型例である。昨年3月、中国政府のWTOに対する約束に基づき、米シティバンク上海支店は中国域内における全ての顧客を対象とする外貨取り扱い業務の許可を得た最初の外資系銀行となったが、同時に南京市最大の外資系企業、南京エリクソンが、そのメーン借入先を中国系銀行から同支店へ変えた。

      優良企業である南京エリクソンへの貸出債権は中国系銀行にとっては、利益の源泉であったから、その外資系銀行へのシフトは、優良債権と利益の流失に他ならず、中国金融界にとっては正に「事件」であった。

      中国系銀行に比べ、外資系銀行の金融サービスの質が良好で、従業員の給料も五〜六倍高い。中国金融機関が持つ顧客と人材は外銀へシフトし金融リスクが増大する恐れがある。中国の金融機関は抜本的な改革をしなければ不良債権問題は一層深刻化し、金融危機に発展するリスクが大きい。

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    冷静な判断 日本に必要

      現在、中国政府は景気過熱への警戒を強め、固定資産投資や金融機関の融資を抑制する姿勢を鮮明にしている。商業銀行の余剰資金を吸収する短期金融債の発行、預金準備率の引き上げ、開発区の統廃合、不動産向けの融資抑制など対策を相次いで打ち出し、四大国有商業銀行への公的資金再注入も検討している。こうした一連の対策はどこまで効果があるかを見守りたい。

      日本の景気動向や製造業の発展が中国市場に益々大きく依存する現在、いかに中国の活力を取り込み、その成長から最大限に利益をとるかが日本企業の重要課題となっている。ただし、過熱気味の中国経済に対し冷静な頭脳を持つことも極めて大切である。

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