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【中国経済論談】
【中国経済論談】
「雄安新区」の設立から見た米中関係の密度

中国ビジネス研究所代表、多摩大学大学院フェロー 沈 才彬

今年7月末、筆者は中国経済の現地調査を実施し河北省雄安新区を訪れた。雄安新区は北京の南方にあり、高速鉄道に乗り80分で到着する。

◆深せん、上海浦東に次ぐ第三の国家級特区

この雄安新区は今年4月1日に党中央、国務院の決定によって正式に設立され、深せん経済特区、上海浦東開発区に次ぐ第三の国家級開発区となる。総面積は2000平方キロ、河北省保定市の管轄下にある雄県、容城、安新3県を含む。

中国政府の構想では、初期開発面積を100平方キロ、中期開発面積を200平方キロ、長期開発面積を2000平方キロとそれぞれ設定し、2030年まで開発を完了させると言う。

雄安新区の中心地は河北省内の最大の湖で、北京市周辺の最大の水源地とも言われる白洋淀だ。白洋淀沿いの広大なエリアはほとんど白紙のような未開発地であり、優越な自然環境及び北京との距離から見れば、なぜ習近平国家主席は副都心として雄安新区の設立を決断したかがわかる。

◆習近平国家主席決断の思惑

習近平主席の雄安新区設立の思惑は次の3つと思われる。

1つ目は習氏が雄安新区を自分のレガシー(政治遺産」として後世に残したい。深せん特区は1980年代初頭にケ小平氏の決断、上海浦東開発区は1992年江沢民政権の決断。雄安新区を設立すれば、習近平はケ小平、江沢民に匹敵できる21世紀のレガシーを手に入れる。

2つ目は首都機能の分散化。北京市は人口急増で大気汚染や交通渋滞など深刻な問題に直面し、遷都を回避するために首都機能の分散化が急務となる。雄安新区の設立によって、将来的には副都心としての役割が期待される。

3つ目は経済成長の新たな起爆剤への期待。一期目の習近平政権は反腐敗に重点を置き、国民から支持を得ている。10月開催の党大会を経て二期目の習政権の活動重心は経済にシフトすると見られる。雄安新区の設立は大規模なインフラ需要が発生し、新たな経済起爆材と期待される。

◆雄安新区の設立は米中協力の産物

米中は表向きでは様々な問題で対立しているが、水面下では緊密に連携し、絆を深めている。

雄安新区の設立も米中連携の結果といえる。

関係者の話によれば、ヘンリー・ポールソン元米財務長官は雄安新区の設立に深くかかわっている。

2012年、当時の河北省保定市長はポールソン氏本人及びポールソン基金会にご協力を申し入れ、保定市及び白洋淀エリアの環境評価を行うよう依頼した。

ポールソン基金会は評価報告書の力点を白洋淀エリアの環境保全及び北京市の首都機能分散化に置く。

2年後、ポールソン氏はこの評価報告書を地元政府に提出したと同時に習近平主席にも渡した。報告書の趣旨は意外に習氏の「北京・天津・河北省一体化」という戦略構想と一致している。

習の構想では1億3,000万人口を有する北京、天津、河北省を一体化させ、巨大な経済圏を作る。中央政府は一部の行政機能と兵站保障機能を保定市に移転し、北京市の交通渋滞や環境汚染を改善し、周辺地域の経済成長も促進する。

14年7月、習主席はポールソン氏と会談した。その際、習は「北京・天津・河北省一体化」戦略による難題解決を将来に残るレガシー(政治遺産)と考え、「これは私個人の発想だ」と明言した。

これらの事実はポールソン氏の著書『DEALING WITH CHINA』(2015)にも詳しく記述されている。

3年後、習主席の決断で、ポールソン氏の提案も取り入れた雄安新区は正式に発足した。