先ごろ、ある日本経済界ミッションが中国を訪問した際、会見に出た中国政府要人や企業経営者には30−40歳代の若手が多い。これに対し、日本側の複数の団長・副団長のうち、66歳の大手企業の会長が最年少だった。"爺さんと孫」のような会見風景は、関係者に強烈な印象を与えた。
ますます深刻化する、日本政官財界の人材枯渇と経営者の高齢化。片や、急ピッチで進む中国の幹部若返り。日中産・官・学リ−ダの年齢格差は両国の国際競争力にも影響を及ぼしかねない。
スイスの国際経営開発研究所(IMD)の2002年版「国際競争力白書」によれば、主要49カ国における日本の国際競争力順位は前年の26位から30位へ後退した。こうした日本国際競争力の急速な低下は人材枯渇と経営者高齢化の進行と決して無関係ではない。一方、中国の国際競争力は前年の33位から31位へ前進し、日中国際競争力順位の逆転も視野に入り始めている。
日本では中国が官僚主義的な老人支配の国だというイメ−ジが一般的なものだが、実態は必ずしもそうでもない。確かに党の執行部である政治局常務委員7人のメンバ−のうち、江沢民(国家主席、1926年生まれ)、朱鎔基(首相、1928年生まれ)、李鵬(「全人代」委員長、1928年生まれ)ら5人が70歳を超えている。しかし、各中央官庁、地方の省、市、自治区では30歳代の方が局長クラス、40歳代の方が大臣(省長)・副大臣(副省長)クラスに就くのは決して珍しいことではない。
それは、80年代から実行されてきた「高、壮、若3結合」制度と幹部選抜制度が定着していることと切っても切れない関係にある。政府や企業の幹部は実績のある中高年層、壮年層、若年層という3つの年齢層の方が一定の比例で構成される。胡錦涛・国家副主席は1992年に最年少(50歳)で共産党執行部(7人)入りを果たしたのもこの比例代表制に負う一面がある。
現在、中国では産・官・学を問わず、指導層の世代交代が目立ち、幹部の若返りは急ピッチで進行している。今年秋に開かれる党の第16回全国代表大会で59歳の胡錦涛副主席は江沢民主席からバトンを受け継ぎ、胡新執行部の平均年齢は、現執行部より一気に10歳ぐらい若くなり、老人支配を訣別する見通しである。
これを受けて各官庁と地方政府も中央執行部と歩調を合わせ、能力・実績・高学歴がある若い幹部の選抜を急いでいる。選抜の対象は60年代に生まれ、80年代に大学を出るという「6080幹部」、即ち40歳以下の若手幹部に重点を置く。
中央政府の人事部門は各地方政府へ通達を出し、中央官庁の処(課に相当)に相当する政府部門の指導グル−プ構成メンバ−に、少なくとも2人の40歳以下の若手幹部を、局に相当する政府部門の指導グル−プに少なくとも1−2人、中央各官庁および各省・直轄市・自治区の指導グル−プに少なくとも1人を選抜するよう、具体的な数字目標を掲げている。今後、中央と地方政府および大学の指導層、企業の経営層において、「6080幹部」が一層頭角を現すことは間違いない。
4月下旬、筆者は中国出張の際、広州市政府のシンクタンクである広州市経済研究院を訪問し、広東省幹部公募制導入による幹部選抜の実態につき、劉君里副院長(院長代行)および魯開根産業経済研究所常務副所長に取材した。38歳の魯副所長本人はこれまで3回も同省幹部公募に応募した経験があり、幹部選抜の全過程を筆者に生々しく説明してくれた。
魯所長によれば、広東省政府は3年前から競争メカニズムを人事制度に導入し、年に1回公募による幹部選抜を行っている。今回の公募対象は広東省所轄各市の副市長、省庁の副局長、大学の副学長などであり、合格者をまず「副職」に就かせ、実績があれば数年後にトップに抜擢する。
省政府は「年青化、知識化、専業化」(若さ、高学歴、専門性)という基準に基づき、45歳以下、大卒(短大を含む)、副課長経験3年以上という3つの募集条件を設定している。キ−ワ−ドは「公正、公平、公開、競争」であり、3つの条件を満たせば、産・官・学を問わず誰でも応募できる。かつて大学の学部長を経験したこともある魯副所長が応募したのは大学の副学長ポストである。
- 選抜は次の5つのステップに分けて行われる。
@ 公開募集(応募者数2055人)。
- A 筆記試験。合格者数は202人。
- B 面接。合格者121人、平均年齢30歳代。魯所長もこのうちの1人である。面接は広州市で行われるが、面接内容漏れ防止のため、参加者全員は順徳市で2週間にわたって缶詰状態に置かれ、家族への連絡も禁止。一人一人の面接過程をビデオテ−プに録画し、省政府トップの最終選定の参考にする。
- C 省人事部門の審査。
- D 省政府執行部による選定。
人事制度の競争メカニズム導入によって、広東省は有能な若者に本領発揮の場を提供し、産・官・学の活性化と効率化がもたらされた。ここ数年、広東省の経済的ダイナミズムが目立ち、改革遂行、経済成長率、貿易、外資導入などの分野においていずれも全国をリ−ドしている。その背景には、幹部公募制の導入に負うところが実に大きい。
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台頭する欧米留学経験者
面接合格者のうち、中国人の顔をして欧米人の意識をもつ「バナナ派」と呼ばれる欧米留学経験者が多い。面接に合格した魯副所長も、カナダ留学経験者である。
ここ数年、中国では「バナナ派」の台頭が目立っている。改革・開放策実行以降の20年間、中国から40万人を超える留学生が米日欧など先進諸国に流れ込み、約3分の1に相当する14万人が「頭脳回帰」となった。そのうちの多くは帰国後、政府や企業の要職に就き、大きな役割を果たしている。特に欧米留学経験者の活躍は際立つ。
例えば、パソコン最大手、聯想集団公司の楊総裁はイギリス留学経験者、北京大学のIT先端企業、「北大方正」の閔維方前会長(現北京大学党書記)とソフトウェア大手の東方軟件の劉積仁会長およびネット企業大手・捜狐(Sohu.com)の張朝陽CEOは、いずれも米国留学経験者である。彼らの欧米流の経営理念と経営手法は従来型と違い、全く斬新なもので欧米企業の経営者と大きな違いがない。
今年1月、中国国務院発展研究センタ−と米国ハ−バ−ド大学行政大学院(ケネディ・スク−ル)は、向こう5年間にわたり45歳以下、局長クラスの中国中央官庁と地方政府幹部300人を同大学に留学させることで合意した。
今後、若い欧米留学経験者は中国の産業界のみならず、産官学すべての分野のキーパーソンとなり、益々中国を変えていくだろう。日本も、そういう彼らと付き合っていく基盤を作らなければならない。
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