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【中国経済レポ−ト】
【中国経済レポ−ト】
コピ−横行のなか海爾の"攻め"と"守り"
沈 才彬
エコノミスト誌2002年4月16日号
  • 周到な知財保護対策
  • 常に付加価値更新
  • 米ビルを買い取る
  •   6年前、アメリカ企業の知的財産被害(中国のCD海賊版事件)をめぐって米中両国は一時的に「制裁合戦」状態下にあったことが記憶に新しい。その後、米中双方は相互妥協し、互いに制裁の本格発動を回避し、中国政府はコピ−製品の一掃など知的財産の保護に動き出した。

      6年経った現在、中国の知的財産保護についてある程度進展があったが、全国について言えば依然として不十分な状態が続いている。朱鎔基首相が3月5日に日本の国会に相当する「全人代」で行われた「政府活動報告」によれば、2001年1年間で模倣品・粗悪製品の製造・販売など違法行為の立件・取締だけで120万余件にのぼるという。

      中国における模倣品の横行のため、知的財産侵害による日本企業の被害が大きい。日本貿易振興会(ジェトロ)は2001年11月、在中国日系企業672社に対し知的財産侵害の実態に関するアンケ−ト調査を実施した。その調査結果によれば、模倣品被害を受けた企業は全体の54%を占め、そのうちの11%は2000年の年間被害額が10億円を超えている。模倣品の一部はベトナムやインドネシアなどにも輸出されているという。また、日本経済新聞によれば、アジア諸国のコピ−製品などによる日本企業の知的財産被害額は年間1兆円を超え、模倣品の横行に悲鳴をあげている。

      ところが、模倣品横行の中国において、家電メ−カ−最大手の海爾(ハイア−ル)は意外に模倣品被害が少ない。海爾には一体どんな知財保護秘策があるか。日本企業の参考になる経験は何か。3月上旬、王穎民・海爾集団公司秘書室長兼人材開発部長に取材し、このレポ−トは現地調査の結果を踏まえて報告する。

    周到な知財保護対策

      山東省青島市に本社を置く海爾集団公司は中国家電メ−カ−の最大手である。2001年、海爾の売上は前年比50%増の602億元(約72.7億j)、経常利益42億元、輸出額同50%増の4.2億ドル、家電製品の国内市場シェアはダントツの30%に達し、そのうち冷蔵庫31.2%、エアコン25.8%、洗濯機30.5%をそれぞれ占め、いずれも首位を走っている。現在、同社は中国国内を含む全世界に貿易センタ−56、デザインセンタ−15、工業パ−ク19、生産拠点50、販売網5万8000カ所を持っており、総合競争力評価で米「Appliance Manufacturer」(家電)誌に世界家電メ−カ−第9位にランクされている。ちなみに、日本の家電メ−カ−は松下4位、シャ−プ7位、東芝8位、日立10位とされている。

      こうした実力に加えて、2001年に海爾ブランド評価額は436億元に達し、家電業界では1位、全国総合ではタバコブランドの「紅塔山」に次ぐ2位となっている。海爾ブランドは高い価値を持つため、模倣の対象となりがちで、油断すれば知的財産の被害を蒙ることになる。一体どのように自社ブランドを守り、知的財産権を保護するか。

      王部長の説明によれば、海爾は中国で最も早く知財保護対策専門機構を設置した中国企業の1つである。1985年ブランド商標を登録し、1991年国家商標局に全国13の有名ブランドの1つとして認定された。その時から海爾はずっと自社ブランドを貴重な財産として守り、具体策として次のものを打ち出している。
     @新製品・新技術を開発したら、直ちにその特許登録を行う。
     A海爾のすべての製品カテゴリ、サ−ビスカテゴリにおいて「Haier」、「海爾」及びマ−クという3つの企業全体像を示す商標を登録する。
     B侵害予防のため、「海爾」ブランドの発音、意味、字形の拡大・変化による大量の類似商標の登録を行い、知的財産の保護範囲を拡大する。これまで海爾は国内で623件の自社ブランド関連の商標を登録し、海外では128カ国・地域で海爾ブランド関連の576本の商標を登録した。
     C自社ブランド侵害モニタ−システムを設置する。一旦、侵害行為を発見すれば、直ちに法律的手段を含む断固たる対応を取る。これまで海爾は国家商標局に5件の商標登録に「異議あり」という申し出を訴え、そのうちの3件は政府工商局経由で処理済となり、1件は法律手段をとり、裁判所に訴えた

      これらの効果ある対応策によって、海爾は自社ブランドを守り、知的財産の被害を最小限に食い止めることに成功している。

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    常に付加価値更新

      取材の時、海爾の王部長は1つの知財保護秘策を教えてくれた。それは新製品を市場に投入した際の「逆ピラミッド方式」である。つまり、最初は大量発売(と同時に次世代製品を開発)、その後逐次縮小、最後は新たな製品を市場に投入する。要は常に付加価値を更新し、模倣品メ−カ−が真似しようとしても真似できないようにしているのである。
      「守りだけでは知財を守れない」。王部長がこう強調している。実際、過去17年間、海爾の売上伸び率は年平均78%に達しており、その躍進の原動力は、"攻め"の創意と工夫(新技術・新製品の創出)および顧客二−ズへのスピ−ディ−な対応にある。言い換えれば、模倣品の出現にチャンスを与えないことが知財保護のキ−ポイントである。
      海爾は近年、研究・開発に注力し、新製品・新技術の開発に巨額の資金を投入してきた。その研究・開発費の会社売上に占める比率は1997年に4%(総額4.3億元)、98年に4.6%(同7.4億元)にのぼり、中国企業の中で比率が最も高い企業の1つとなっている。海爾は先進国の大手企業並みの水準(8−10%)を目指し、さらに03年に6%、06年までに8%にアップしょうと計画している。
      組織面でも海爾は研究・開発の体制を整えている。98年に海爾はアメリカ、日本、ドイツなどのトップクラス企業28社の協力を得て海爾中央研究院を発足させた一方、国内と海外を含む48研究・開発拠点を設けた。同年、海爾中央研究院だけで91の新製品・新技術を開発し、特許申請が187件にのぼった。
      海爾の研究・開発への注力は製品・技術のグレ−ドアップを加速した。新製品開発について、アイディアから発売まで中国企業は一般的に8−12カ月かかり、外国企業も6−8カ月かかるというが、海爾は僅か3−4カ月。海爾の研究・開発は企業の発展に大きく貢献しており、近年、その売上の70%以上は実際、新製品・新技術の開発によるものである。
      急成長の秘密とも言える顧客二−ズへのスピ−ディ−な対応は、欧州、中東地域のビジネスマンにも評価されている。2年前のことだが、欧州のあるビジネスマンは海爾を訪れ、ある商品の5種類サンプルデザインを注文したが、それに対して海爾は56種類を提出した。このビジネスマンはもともと5種類サンプルをドイツに提供する予定で、56種類サンプルを見ると、そのうちの多くはその他の欧州国家にも受け入れられそうに感じた。そこで彼は、海爾に「そのうちの一部を改善したものを2カ月後にまた取りに来る」と約束した。ところが、翌日彼が青島を後にした時、海爾は改善されたサンプルを全部用意していた。この欧州ビジネスマンは海爾のスピ−ティ−な対応に感動していた。

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    米ビルを買い取る

      海爾の"攻め"には特筆すべきことがある。同社のアメリカ進出である。
      筆者が海爾本社を訪問した日の3月4日、張瑞敏・同社CEOはニュ−ヨ−クのマンハッタンにある海爾ビルディング(The Haier Building)開業式典のテ−プカットを行っていた。77年間の歴史を持つ、この古代ロ−マ風の6階建てビルディングは、もともと米グリニッジ貯蓄銀行の本社ビルだったが、2002年初頭、海爾はこれを買い取り「海爾ビル」と改名し、米国本部のオフィスビルとした。中国企業のアメリカ進出の象徴的な出来事であった。
      実は海爾の世界戦略には、製品の国内販売が3分の1、輸出が3分の1、海外生産・海外販売が3分の1を占めるという「3つの3分の1」がある。海爾の海外進出において画期的な出来事は言うまでもなく、アメリカへの進出である。99年4月、海爾は3000万ドルを投資し、米国サウスキャロライナ州のハンプトン(Hamptom)市で家電生産拠点を設けている。 中国より生産コストが遥かに高いアメリカに生産拠点を設立するのは一体何のためか、またどんなメリットがあるか。外国企業にとって、海爾の米国進出は正に不可解な謎のような行動であり、注目を集めている。
      王部長の説明によれば、海爾の狙いは4つあるという。1つは対米輸出から現地生産への切り替えによって、輸送コストを大幅に削減する。これまで海爾家電製品の最大の輸出先はアメリカであり、部品の一部はアメリカから輸入したもので、付加価値をつけて再輸出するため、輸送コストが高かった。現地生産の切り替えによって、輸送コスト削減ができた。勿論、アメリカの人件費は中国より遥かに高いが、米国でのオ−トメ−ション水準も高い。総合的に判断すれば、やはり現地生産はメリットが多く、採算も取れる。
      2つ目は現地生産による米国の対中輸入障壁と非関税障壁の回避である。3つ目はグロ−バル企業になるための経験やノウハウを蓄積することである。4つ目は研究・開発のレベルアップである。現在、アメリカにおいて、サウスキャロライナ州に生産拠点、ロサンゼルスにR&Dセンタ−、ニュ−ヨ−クに米国本部と貿易会社があり、海爾製品の設計・生産・販売の現地化が進んでいる。
      同社の人材面の現地化も進んでいる。在米生産拠点の中国人スタッフが設立当初の20人から現在の2人へ減少し、近い内に2人も帰国する予定で、現地人材の登用を徹底する方針が打ち出されている。
      現在、米ス−パ−業界の上位10社のうち、8社は海爾の家電製品を販売している。海爾の小型冷蔵庫は米市場の26%、ワイン・セラ−は60%を占めている。2001年、海爾の米国での売上は1.4億jに達し、3年以内に10億jを突破する計画も立てられている。海爾の進出による「メイドインチャイナ」ショックはいまアメリカで起きている。

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      "攻め"と"守り"両方から知的財産を保護し、競争力を絶えず強化する海爾の経験は実に示唆に富む。中国では知財保護の意識が国民レベルに未だに普及されておらず、模倣品急増など知財侵害事件は後を絶たない現在、日本企業は海爾の経験を参考に、周到な知財保護対策を取る一方、新製品・新技術の研究・開発を加速し、常に付加価値の更新を行うべきである。

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