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【中国経済レポ−ト】
【中国経済レポ−ト】
3つの経済論争が過熱へ

沈 才彬
2003年9月1日《毎日新聞》電子版

  8月上旬、5カ月ぶりに中国出張へ行って来た。新型肺炎(SARS)後の中国経済と日系企業の実態把握が主な目的であった。

過熱している「北京−上海高速鉄道」論争
過熱している
「北京−上海高速鉄道」
論争
  現在、中国ではSARSがすっかり終息し、町の表情に明  るさが戻ってきた。北京、上海、杭州3都市のレストランでは利用客の賑わいが目に入り、人々はSARSで失われた時間をグルメで取り戻そうとしている模様が印象的であった。

  経済も元気に回復している。第2四半期にSARSの影響で、6.7%という6年ぶりの低水準に落ちたGDP成長率は、7月から戻り始めている。1〜7月期の経済指数では固定資産投資31.2%増、鉱工業生産16.4%増、輸出33.4%増、外国直接投資26.6%増、自動車販売80%増など好調な分野が多い。通年では8%の成長率をキ−プすることが可能と一般的にみられている。

  もちろん、懸念材料も数少なくない。例えば、中国では設備・不動産投資急増(今年上半期31%増)、銀行貸出急増(同23%増、特に不動産関連の融資は5年前に比べ5倍増)、マネ−サプライ急増(同20%増)という三つの急増によって、経済の過熱がいま懸念されている。  

  一方、中国通貨・元は切り上げられるか切り下げられるか、今中国経済が直面している圧力はデフレなのかインフレなのか、北京−上海高速鉄道はリニア方式か新幹線方式かをめぐる三つの経済論争も過熱状態となっている。

  政府高官、経済学者、エコノミスト、アナリスト、企業幹部を巻き込む「中国元論争」は、全国的な関心を集めている。中国誌「商務週刊」は最近、北京、上海、広州、深セン(土へんに川)の4都市の部長職以上の企業幹部300人に対し、アンケ−ト調査を実施した。その結果、中国経済界の最大の関心事は、元は切り上げられるか切り下げられるか、だった。元相場の行方は企業の収益に直接に関わるからである。

  デフレかインフレかの論争も熱い。前に述べた投資、貸し出しやマネーサプライという「三つの急増」からみれば、インフレ圧力が確かに強まっている。グリーンスパン・米FRB議長も7月16日、強まっている中国のインフレ圧力に言及した。しかし一方、デフレ圧力論者は生産過剰、消費低迷、雇用悪化などのデフレ材料を列挙し、反論を行っている。この論争の行方は、中国政府が取ってきた「積極財政」の継続か中止かを左右することになる。

  北京−上海高速鉄道方式をめぐる論争はもっと熱い。日本新幹線導入反対論者はインターネットで新幹線反対署名活動を展開し、十数万人の署名を集めたという。論争は既に学術論争の領域を超え、一般国民も巻き込まれる展開となっている。

  3大経済論争の行方は、いずれも中国の経済成長に大きな影響を及ぼしかねず、我々は注意深く見守る必要がある。

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