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【中国経済レポ−ト】
【中国経済レポ−ト】
講演抄録:中国経済の現状と見通し(中)
多摩大学教授 沈 才彬
(「エネルギー総合推進委員会会報」2010年3月月例会記録)
●2010年中国経済の見通しと巨大市場の行方
次の問題に入りたいと思います。「今年の中国経済はどうなるか」ということです。結論からいいますと、昨年の経済成長率は8.7%ですが、今年は多分9%台、ひょっとすると10%を超える可能性も十分あると思っております。今年の成長の牽引役は、投資と消費です。
今年の動きについてですが、ビジネスの観点から見れば、やはり要注目の動きといいますと次の五つだと思います。
●@株式市場
まず一つ目は、株式市場です。今年の高値圏についてですが、私の個人的な見方ですが、上海総合株価指数の4000ポイント突破も視野に入ると思います。現時点では3000ポイント弱ですので、高値圏までは未だ1000ポイントあるということになります。但し、中国の株式市場は未熟な部分が沢山あるので、上昇しやすい半面、下落もしやすいという特徴があり、これは要注意です。
●A自動車市場
それから二つ目の動きが自動車市場です。
中国の自動車市場は、今年は更に拡大する見通しです。新車販売台数は、昨年アメリカを抜いて世界最大規模、1364万台となりましたが、今年も多分10%以上の伸び率がキープされるのではないかと私は見ています。従って、今年の新車販売台数は約1500万台に達するものと思われます。昨年は自動車減税という対策が採られました。その効果が大きかったのですが、今年は基本的には国民の豊かさの実現が推進力となります。
自動車市場を占う上で、ビジネスの観点から見れば非常に意味が大きいデータが2つございます。
一つ目のデータですが、一人当たりGDPです。「一人当たりGDPが3000ドルを突破すると、その国はモータリゼーションの時代に突入する」と言われております。これは日本、韓国を含む世界各国における経験則です。日本では一人当たりGDPが3000ドルを突破したのは1973年のことです。その後、日本はモータリゼーションの時代に突入しました。韓国では1983年に3000ドルを突破し、80年代半ばごろから韓国もモータリゼーションの時代に突入したのです。
中国の場合、一人当たりGDPが3000ドルを突破したのはいつだろうかというと2008年のことなのです。そして昨年2009年には、自動車販売が爆発的に拡大、前年比46%の急増を示したのです。中国では多分2015年には一人当たりGDPは5000ドルを突破し、2020年には恐らく1万ドルを突破する見通しです。ですから中国の自動車新車販売は、拡大の余地は未だ十分あると思われます。これが一つ目です。
もう一つのデータ、これは更に重要な指標ですが、クルマの普及率です。アメリカには現在、100人あたり約80台のクルマがございます。即ち、普及率で申しますと80%です。日本の場合は、100人あたり約60台で、普及率でいえば60%です。一方、中国では、昨年末時点のデータですが、100人あたり6台しかございません。普及率でいえば僅か6%です。しかも、これはトラック、バスを含むすべてのクルマの普及率です。もし乗用車に限っていいますと、2.6%となってしまいます。ですから中国はクルマの普及はまだまだの状況であり、これから市場としては大いに拡大する余地があるのです。
●B不動産市場
三つ目は、不動産市場の動きです。不動産価格は、暫くは多分上昇すると思われます。但し、住宅バブルが弾けることは要注意です。昨年12月において、住宅価格の上昇率は、5.9%でしたが、今年の1月には、それが9.5%となりました。そして、2月には何と10.7%となっております。
これは明らかにバブル状態だと思いますので、気を付けなければならないと思います。ただ、長期的に見ますと、不動産、特に住宅に対するニーズは未だ高いと思います。中国では毎年、農村部から都市部への人口移動が大体2000万人ありますので、都市部では少なくとも毎年2000万人分の住宅を新築する必要があります。ですから長期的な流れとしては、住宅価格は上昇するのです。
但し、その過程でやはりバブルが何回も弾けることもあるのです。つまり調整局面は何回もあるのです。中国に限らず、世界各国でも同じですが、個人消費の中で一番大きな品目は住宅であり、その次はクルマです。ですから、中国では、この二大分野については、伸びる余地が未だ十分にあります。
この二大分野における成長が経済へ与える波及効果は絶大です。1台のクルマは、部品だけで1万点から構成されておりますように、様々な分野への波及効果は絶大です。住宅も同様です。ですから、この二大分野が成長する限り、中国の経済成長がとどまることはなさそうです。これが三つ目の動きです。
●C中国の資源需要と国際価格の動き
四つ目の動きは、資源需要とその国際価格です。昨年、中国の資源類輸入量が驚くほど増えました。
例えば原油ですが、数量ベースで13.4%増となりました。鉄鉱石は41.6%増、アルミニウムに至っては164%増となりました。また、銅は62%増となり、石炭は何と211%増となりました。これを見てもお分かりの通り、中国では資源需要が物凄い勢いで増加しており、それにつれて輸入も急増しております。
これまでの経験則上、中国の資源類輸入が急増すれば、その国際価格は急騰しました。ところが昨年は資源価格は下落し、常識が覆される結果でした。
何故かと言いますと、昨年、粗鋼生産が伸びましたのは中国とインドだけだったのです。即ち、日米欧、ほかの主要国はすべて大幅な減少を記録、世界全体でも減少しました。粗鋼生産が減少すればその原材料である鉄鉱石の需要もやはり減るわけです。世界の市場において、その他の資源類についても、だいたい需要が減っており、その結果、価格も安くなっているのです。
例えば鉄鉱石ですが、昨年は37%安くなりました。今年はどうなるのでしょうか。今年の中国の経済成長率は9%台です。それから、日本、アメリカ、ヨーロッパでも、景気はある程度回復する見通しです。
そうすれば、今年は資源類の需要は増加するでしょう。増加すれば資源価格はどうなるか、これは私が言わなくても皆さんお分かりになると思います。ですから今年、資源分野の国際価格は特に要注目です。これが四つ目の動きです。
●D人民元の動向
五つ目の動き、それは人民元の話です。今年は恐らく5%前後の人民元の切上げがあると思われます。実際、2007年における人民元の切上げ幅は7.1%であり、2008年は6.9%でした。ところが昨年はゼロ%でした。
何故、昨年はゼロ%だったのでしょうか。それは中国が金融危機の影響を最小限に抑えるため通貨安定を保持したいと考えたからだと思われます。そうした思惑で、人民元が切上がらぬように市場介入を繰り返しているのです。
しかし、オバマ政権は、今年に入ってから既に2回も人民元の切上げに言及、アメリカからの圧力が強まってきているのです。ですから今年は人民元が、切上げられる可能性が高いと思います。
但し、アメリカの圧力によって、中国が受身的に人民元の切上げを断行することは多分無いと思います。中国がやるとすれば、「自ら進んでやる」ということかと思います。特に、中国では現在、インフレ懸念といった国内事情が重要になりつつありますので、インフレ抑制の観点から人民元切上げがあり得ると思われます。(つづく)