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【中国経済レポ−ト】
【中国経済レポ−ト】
米中関係は内が深く、外は広い
多摩大学教授 沈 才彬
(《日本経済新聞》2010年3月8日付インタビュー記事完全版)
2010年に入ってから、米国による中国タイヤ製品に対する制裁措置の発動、中国の情報統制に反発する米グーグル社の中国非難声明、米国による台湾への先端武器の輸出、オバマ大統領のダライ・ラマとの会談など米中間の対立が際立つ。米中関係は大きく揺れており、その行方を懸念する声が強まっている。
いったい今の米中関係をどう読むべきだろうか。私は米中関係のキーワードは2つあると思う。「対立」と「連携」である。表向きは激しく対立しても、水面下では手を握っており、最後には連携する。これは米中関係の特徴ともいえる。しばらくはこういう関係が続く。2005年7月21日人民元切り上げの際には、中国政府は発表の1時間前に米国と香港にだけ伝えた。日本には何も連絡がなかった。
米中関係は内が深く、外が広い。中国の指導者の多くは清華大学出身だ。朱鎔基前首相、胡錦濤国家主席、呉邦国全国人民代表大会委員長、そして次期国家主席候補の習近平副主席はいずれも清華大学出身。この清華大学の前身は、米国が義和団事件の中国の戦争賠償金を使って設立したアメリカ留学予備校である。イリノイ大学の学長が当時のセオドア・ルーズベルト大統領に対して「将来のリーダーを育てることは米国の国益にかなう」と提案したものである。米国の対中戦略はまさに100年の計だ。
米中の連携を支える人脈は育っています。米大学博士号取得者出身校調査レポートによれば、2008年米国で最も博士号を獲得したのは清華大学出身者(571人)。2位が北京大学(507人)で、3位にようやくカリフォルニア大学(427人)となる。
日本はいま米中二大国に挟まれ、米国か中国かという悩みが尽きない。しかし、米国一辺倒では行き詰まる。これが時代の流れなのだ。いま日本の港湾を見てほしい。これまでは米国への輸出に頼り切っていたから、港湾も太平洋側ばかりが発達していた。しかし、日本の輸出先は米中が逆転した。今は日本海側の港湾の伸び率がはるかに高い。それが世界の物流の流れだ。
将来、中国経済は米経済を上回るかもしれない。そのときに舵(かじ)を切っても遅い。日本は隣国と連携した経験があまりないが、意識の変革が必要だ。今年にも日本と中国のGDPが逆転すると言われる。2020年には日本のGDPは中国の半分かもしれない。いま日本に必要なのはまさに著者が唱え続けている「親米睦中」だ。