《次のレポ−ト レポートリストへ戻る 前回のレポート≫

【中国経済レポ−ト】
【中国経済レポ−ト】
「世界の工場」活用より「巨大市場」を狙え!

多摩大学教授 沈 才彬

(《新華社ネット》コラム「沈才彬の中国論談」シリーズ第8回)

日本企業の戦略転換と言えば、1つは前回に述べた、アメリカ中心から新興国中心への転換だ。もう1つは「世界の工場」活用より「巨大市場」を狙うという中国ビジネス戦略の転換である。

これまで、中国に進出してきた日本企業は、大雑把に分ければ、2つの進出パターンがある。1つ目は中国を「世界の工場」と見なし、生産拠点として活用し製品をつくって日本もしくは第3国に輸出する。いわゆる「輸出志向型」パターンである。いままで中国進出の日本企業の主流は、このパターンである。

2つ目は、益々豊かになっている中国人の消費動向に着眼し、巨大市場を狙って、中国で作った商品を中国国内で販売する。いわゆる「内需志向型」パターンである。数からいえば、まだ少数派だが、着実に伸びている。

今年4月と8月、筆者は2回にわたって中国の現地調査を行ってきた。上海や広東省、浙江省の輸出企業、特に中小企業のほとんどは厳しい経営を強いられており、昔の隆盛の面影がない。金融危機を境目に、輸出は以前の2割増から現在の2割減へと大幅に減少しているからだ。同様、「輸出志向型」の日系企業も大きな打撃を受け、景気は良くない。

しかし、苦しい状態が続いている輸出志向型企業に比べ、内需志向型の日系企業は景気がいい。中国の投資も個人消費も堅調に伸びているため、このパターンの日系企業は恩恵を受けている。日本貿易振興機構(ジェトロ)の調査では、「特に影響はない」と答えた日本企業のほとんどは、こうした「内需志向型」企業である。

現在、中国国内では、労働者賃金のアップ、土地価格と原材料価格の上昇、続く元高傾向など、いずれも輸出コストの上昇に繋がる。同時に、貿易摩擦の多発、「メードインチャイナ」包囲網の広がりなど、輸出の外部環境も厳しさを増している。「世界の工場」はすでに限界にきていることは明白な事実だ。

一方、巨大市場への変身も急ピッチで進んでいる。2008年、中国の1人当たりGDPは既に3000ドルを突破し、13年に5000ドル、20年には1万ドルに迫る見通しである。国民所得の急増は、確実に市場規模の拡大に繋がる。鉄鋼、家電、携帯電話、ビール、自動車新車販売など多くの消費分野では、中国は既に世界最大規模となっている。13億の中国人は今、世界の工場の「作り手」から巨大市場の「担い手」へ変身しつつある。日本企業はこの動きをキャッチし、迅速に中国ビジネス戦略の転換を行わなければならない。つまり、中国での生産活動の輸出志向型から内需志向型への転換である。

                      (2009年11月13日)