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【中国経済レポ-ト】
【中国経済レポ-ト】
中国経済の真実―上海万博後の七つの不安―

多摩大学教授 沈 才彬

(アートディズ社2009年11月出版)

 拙著《中国経済の真実―上海万博後の七つの不安》は2009年11月20日に、アートディズ社によって上梓された。次は本書の「はじめに」の部分と目次をご案内する。

●はじめに なぜいま中国なのか?

二〇〇九年四月、私は中国の最大の商業都市上海を訪れた。丁度、上海国際モーターショーの開催の直前だった。

「百年に一度」と言われるほどの金融危機の影響で、世界経済は暗いトンネルに入り、出口が見えず悲観的な空気が充満している中、いったいどのぐらいの出展メーカーが集まるか全く予断を許さない。

主催側は心配していた。しかもその心配は根拠のないものではない。二〇〇九年に入って、アメリカ、日本での国際モーターショーの開催は相次いで失敗したからだ。

同年一月、アメリカのデトロイトで国際モーターショーが開かれたけれども、日本とヨーロッパの多くのメーカーが出展を見送った結果、惨憺たるモーターショーとなったのだ。

同年三月末、東京で開かれた東京国際モーターショーも、アメリカ、ドイツ、フランスのメジャーは揃って不参加を表明したため、もう「国際モーターショー」と言えなくなったのである。

上海国際モーターショーもアメリカと日本の二の舞になるのか。開催地の上海市は危機感と緊張感が高まった。

ところが、蓋を開けてみれば、結果は意外なものだった。出店メーカー数はなんと1500社。史上最多を記録した。来場者数も記録更新で、会場には熱気が溢れた。上海市はほっとした。

上海に続き、私は広東省へ視察に行った。広東省に隣接する海南省では同様の活気を見せていた。二〇〇九年四月、年に一度のアジアフォーラムは海南島の博鰲鎮(ボーアオ)という町で開催しているからだ。

世界各国の首脳、政府高官、経済界のリーダー、学者たち1600人が博鰲鎮に集まり、世界経済、アジア経済の現状と金融危機対策をめぐって熱い議論をたたかわせた。二〇〇九年の博鰲フォーラムは史上最多の出席者数を記録し、会場も超満員状態。世界同時不況の真っただ中、例年以上の大盛況を見せた。竜永図・フォーラム事務局長によれば、出席の申し込み殺到のため、10日間繰り上げて締め切りをしたという。中国の温家宝首相、パキスタン大統領、カザフスタン大統領、フィンランド首相、ベトナム首相、モンゴル首相、ミャンマー首相、イラン副大統領など現役の政府首脳が出席されたほか、アメリカからはブッシュ前大統領、日本からは福田元首相も出席した。

博鰲フォーラムはスイスのダボスで開かれる世界経済フォーラムのアジア版と言われる。日本の細川元首相、フィリピンのラモス元大統領、オーストラリアのホーク元首相ら三人がフォーラムの発起人となり、二〇〇一年四月に発足させたものだ。二〇〇九年は第8回目で、金融危機の発生によって世界経済の悲観論が充満している中、フォーラムの熱気と盛況ぶりが注目された。

対照的に、同年一月にスイスのダボスで開かれた世界経済フォーラムは、定員1000人だが、欠席者が続出し惨憺たる結果となったようだ。

大都会の上海と小さな町・博鰲。世界に注目される理由は実に単純。それはほかでもなく中国の巨大市場の存在だ。

これまで、世界経済を牽引するエンジンは二つあった。一つはアメリカ経済、もうひとつは中国経済。ところが、金融危機の発生によって、アメリカというエンジンが崩壊してしまった。そこで残るもうひとつのエンジン、中国経済、特に中国巨大市場の行方が世界に注目されるのは当然のことだろう。

日本企業も中国に対する関心が高まっている。これは私が肌で感じている。私は中国経済をテーマに日本全国のあちこちで講演しているが、聴講者の大半は日本企業の経営者たちである。彼らが私の講演に耳を傾け、メモを取る熱心かつ真剣な様子が印象的だ。

世界経済全体は景気後退が進んでいる中、中国経済はプラス成長を保っており、相対的に中国の台頭は一層加速している。その象徴的な出来事としては、二〇一〇年に起きるGDP(国内総生産)の日中逆転だろう。過去数十年間、日本はずっとアジア最大、世界第2位の経済大国の地位を保ってきた。しかし、この地位はいま中国に脅かされている。中国のGDPは日本を上回り、間もなく世界第2位の経済大国になる。経済規模の日中逆転のインパクトが甚だ大きいと思う。日本人にとって、身近な「中国の衝撃」だ。

さらに日本は外需依存の経済構造なので、自力では景気後退の局面から脱却することができないと一般的に見られる。そうすれば、やはり輸出頼りだ。輸出の増加に転じなければ景気低迷からの脱出が難しい。ところが、いまアメリカもヨーロッパ諸国も景気後退局面にあり、欧米への輸出増加は当面期待されない。むしろ、BRICsなど新興国に対する期待感が高まっている。特に経済規模が大きい中国の景気回復は日本の景気回復につながるため、中国市場への関心がますます高まるのは当然のことだ。

実際、中国は二〇〇四年から既にアメリカに代わって日本の最大の貿易相手国になった。輸出構造の面から見ても、中国(香港を含む)は二〇〇七年からアメリカに代わって日本の最大の輸出先に躍り出た。二〇〇九年一~六月、中国単独でもアメリカを逆転し、日本の最大の輸出先になった。中国の巨大市場を抜きにしては、日本の景気動向も産業発展も語れない。これは誰も直視せざるを得ない現実である。

この文脈で、日本企業は当然のこと、全世界の経済人も中国から目を離すことができないのは自明の理である。

二〇〇九年八月、私は再び上海を訪れた。猛暑にも関わらず、工事現場の工員たちは汗を流しながら建設作業を進める姿が目に入る。二〇一〇年五月上海万博開催のため、交通インフラ工事がいま急ピッチで進んでいる。上海市のみならず、周辺地域の関連工事も急いで行われている。万博の波及効果が期待される。

上海万博終了まで中国経済の高成長が続く。これは私の中国出張の時の直感である。この本の中の一連のデータも私の直感を裏付ける。

しかし、上海万博終了後、中国経済はどうなるのか。経済成長が続くのか、それとも挫折するのか? 不確定性が多いゆえ、さまざまな可能性がある。

本書は激動する中国経済、特に毎日のように豹変する中国市場に焦点を当て、いま中国に何が起こっているか、これから何が起ころうとするのかを偏りなく客観的かつ冷静に分析する。経済人のみならず、一般読者にも読みやすい中国経済の真実を分かりやすく語ろうと思う。

●目次

はじめに なぜいま中国なのか?

1章 金融危機で中国経済も大きなダメージ

2章 「政変」に弱く、外部危機に強い中国

3章 現地レポート――活気が戻る株式・車・不動産

4章 経済成長が永続しない10の実例―主要国の経済沈没はこうして起こった―

5章 上海万博後の中国経済、七つの不安

6章 迫られる日本企業の対中国戦略転換

終章 いまこそ日本に必要な「親米睦中」の外交戦略