《次のレポ−ト レポートリストへ戻る 前回のレポート≫

【中国経済レポ−ト】
【中国経済レポ−ト】
なぜ日本の景気後退はアメリカより深刻なのか?

多摩大学教授 沈 才彬

(《新華社ネット》コラム「沈才彬の中国論談」シリーズ第5回)

今回の金融危機、深刻な世界的な不況に対して、多くの人が次のような疑問を持っている。つまり、「アメリカ発の金融危機」と言われるのに、なぜ日本の株価下落のほうも、経済成長率の下げ幅のほうも、震源地のアメリカより激しいのか?日本の経済構造および企業の海外戦略には何が問題なのか?

まず株価のほうを見ておこう。二〇〇八年一年間の株価下落率は、世界主要国のうち、日本が42・1%で、ロシア71・9%、中国65・2%、インド52・1%ほどではないが、アメリカの36%よりは6ポイント大きい。

次に実体経済への影響を見てみよう。二〇〇八年十〜十二月期の実質GDP成長率は、アメリカのマイナス5・4%に対し、日本はマイナス12.8%でアメリカの2倍強の下げ幅である。G8先進8カ国のうち、最大の下げ幅を記録したのは、ほかでもなく日本だ。二〇〇八年通年の経済成長率もアメリカの0.4%に対し、日本はマイナス0・7%と、世界主要国の中で、イタリアに次ぐマイナス成長に転落した国となる。

二〇〇九年一〜三月期の経済成長率も良くない。アメリカのマイナス6・4%に対し、日本はマイナス12・4%。戦後最悪ともいわれる二期連続の2桁マイナス成長を記録している。

日本の実体経済への影響の深刻さは、GDP統計のみならず企業業績にも現れている。その象徴的な出来事は正に「トヨタ・ショック」である。

今年五月八日、トヨタは09年3月期の決算発表を行った。営業利益はなんと4610億円の大赤字だった。経常利益は前期の2兆4372億円から一転して5603億円の大赤字になった。当期利益も前期の1兆7178億円から4369億円の赤字に転落した。まさに天国から地獄に墜落したような落ち方だった。

トヨタ・ショックがトヨタにとどまらず、激震が自動車全業種に広がる。完成車メーカー10社のうち、ホンダ、スズキ、ダイハツはかろうじて黒字を維持しているが、ほかの7社はいずれも赤字転落。二〇〇九年三月期の当期利益の赤字額を見ると、トヨタの4369億円を筆頭に、日産2337億円、マツダ714億円、富士重工699億円、日野618億円、三菱自動車548億円、いすゞ268億円と、7社合計の赤字額で9553億円にのぼる。

電気機器業界はもっとひどい。大手7社のうち、二〇〇九年三月期の連結決算で当期利益が黒字になるのは三菱電機のみ。ほかの6社は全部、みじめな赤字転落。日立7873億円を筆頭に、パナソニック3789億円、東芝3435億円、NEC2966億円、富士通1123億円、ソニー989億円と、6社合計の赤字額はなんと2兆円を超えて2兆175億円にのぼる。

ちなみに、日本のメガバンク3社の赤字額はみずほフィナンシャルグループ5888億円、三井住友フィナンシャルグループ3734億円、三菱UFJフィナンシャルグループ2569億円となり、3社合計で1兆2191億円に達する。証券会社の大手3社の赤字額も野村ホールホールディングス7081億円、大和証券グループ850億円、みずほ証券134億円と、合計で8065億円となる。

「トヨタ・ショック」はこのように「ジャパン・ショック」に広がっている。

アメリカ発の金融危機の大きな打撃を受ける欧米諸国に比べ、日本の金融機関の傷が比較的に浅いと言われる。なのに、なぜ実体経済の影響は日本のほうがアメリカより深刻なのか?

実は、アメリカ発の金融危機をきっかけに起きているのは、金融危機の影響だけの問題ではなく、経済構造と企業の海外戦略という日本経済の本質にかかわる問題だ。さらに明白に言うと、日本の経済構造も、日本企業の海外戦略も、いずれも大きな欠陥を抱えている。いまこそ、経済構造の改革および企業の戦略転換が必要である。

                             (2009年10月13日)