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【中国経済レポ−ト】
【中国経済レポ−ト】
拡大する中国市場は各国自動車メーカーの「救世主」?

多摩大学教授 沈 才彬

(《新華社ネット》コラム「沈才彬の中国論談」シリーズ第4回)

前回のコラムですでに述べたように、諸外国のうち、中国政府の減税対策から一番大きな恩恵を受けているのは、日本の自動車メーカーである。とはいえ、実際、恩恵をうけているのは、日本メーカーだけではない。欧米メーカーも同じだ。例えば、米ゼネラル・モーターズ(GM)と独フォルクスワーゲン(VW)である。

2009年6月、アメリカ自動車最大手のGMはクライスラに続いて、経営破綻に陥り、日本の民事再生法に相当する米連邦破産法11条を適用して会社破産を申請した。いまは経営再建中である。

一方、GMの2009年1〜6月期の中国での販売台数は過去最高の81万4400大を記録し、前年に比べ38%も増えた。販売増に貢献したのは、GMの中国現地法人・上海通用(通称上海GM)である。その主力のブランド車種「ビュイック」が34%増と販売拡大に成功した。さらに上海GM五菱汽車(広西チワン族自治区)は2009年上半期の販売台数は同49・9%増の52万4600万台と急増。同社は小型商用車が主力。小型車の購入にかかる税金を半額にし、農村部で販売する小型車に補助金を出すといった政府の景気対策の追い風を受けた形となっている。経営破綻したGM本体、史上最高を更新した上海GM。親会社と現地子会社はこうして明暗を分けている。

欧州自動車最大手のドイツVWは2009年上半期の販売台数は前年同期比で4・4%と減っている中、中国での販売は22・7%増の65万2000台にのぼる。ドイツでの販売台数は63万3000台なので、中国での販売台数は初めてドイツ本土を追い抜いた。

拡大する中国市場は、まさに各国の自動車メーカーの「救世主」となっているのだ。

中国の新車販売の急増は、減税措置が追い風となることは確かだが、その底流には国民の豊かさの向上がある。

各国の経験則によれば、一国の一人当たりGDPが3000ドルを超えれば、モータリゼーションの時代は幕を開ける。例えば日本と韓国である。

日本は1973年、韓国は1983年に、それぞれ一人当たりGDPが3000ドルを突破した。以降、マイカーは中間層を中心に急速に普及し始め、モータリゼーションの時代に突入した。

中国は08年、一人当たりGDPが3000ドルを超えて3495ドルに達した。ちょうどモータリゼーションの入り口に入った段階だ。今年、自動車販売台数はアメリカを凌ぎ世界一になる確率が高いが、保有率がまだ極めて低い。普及率でいえば、アメリカではすでに80%。つまり100人に80人が車を持っている。日本では100人に60人が車を持っている。中国では、100人にわずか5人しか車を持っていない。潜在力が非常に大きいので、マーケットとしての魅力も格段に大きい。

そのため、日本をはじめ各国の自動車メーカーは今、中国で熾烈な市場争奪戦を行っている。「勝ち組」になるか、それとも「負け組」になるか、その中国戦略がメジャーたちの勝敗のカギを握っている。

 (2009年10月1日)