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【中国経済レポ−ト】
【中国経済レポ−ト】
中国の景気回復は本物か―多摩大学教授・沈才彬氏に聞く(3)―雇用問題は最大の懸念材料に―

2009年5月11日《世界日報》

−−中国経済のマイナス要素は何か。

 全体を総括すれば、輸出企業がまだ厳しい段階にある。さらに上海の落ち込みは、広東省より大きい。上海では付加価値の高い製品を作っており、金融危機の波をもろにかぶる格好になった。経済が落ち込む時には、人々はぜいたく品の消費を控えるものだ。ところが生活必需品は、それほど落ちこまない。アパレルとか靴といった労働集約型の産業が多い広東省と比べれば、上海の方が金額的落ち込みは激しい。

 一方で、雇用の方は上海より広東の方がはるかに厳しい。なぜかというと労働集約型だから同じ5%下げても、広東の失業者数は上海の比ではない。東莞市一つの市だけで失業者は200万人から300万人とされる。

 なお農民工(都市部で働く農村からの出稼ぎ労働者)は、失業者としてカウントされない。戸籍は農村部だからだ。金融危機の影響で仕事を失い、農村に帰った。これは失業率統計には入らない。

 中国の統計を読むには、こうした点を抑えておくことが重要だ、公式統計には、こういった数が出てこないからだ。現在、農民工約二千万人が失業状態にある。

ーー統計には出てこない実態が判明した訳は。

 携帯電話会社からのデータだ。つまり中国最大の携帯会社モバイル・チャイナでは、東莞市だけで今年2月末時点で二百万人ほどの人々が解約した。解約というのは戻らないことを、前提にしたものだ。つまりこれらの携帯解約者のほとんどは、東莞市にはいないということを意味する。

−−この雇用問題こそは、共産党政権を揺さぶる社会問題になっているのでは。

 中国にとって最大の懸念材料は何かというと、ずばり雇用問題に尽きる。雇用問題には二つの大きな問題がある。一つは新卒者である大学卒業生だ。七月末に予定されている大学卒業生は今年、六百十万人だが三月段階で、内定は三割未満でしかない。さらに昨年、卒業したがまだ就職していない百万人がいる。大学生だけで七百十万人の雇用を創出しなければならない。

それから農民工が二千万人。大学生と農民工合わせ、二千七百万人の就職先を確保する必要がある。しかし今年、新たに就職できるのはせいぜい千万人だ。雇用不安は社会不安をもたらす。雇用問題こそが、共産党政権最大の懸念材料となっているゆえんだ。そのためにも8パーセント成長をなり遂げる必要がある。

 ただし明るい材料もある。金融機関がしっかりしているからだ。金融危機で倒れた金融機関は、中国では一つもない。昨年二〇〇八年度、世界最大の利益を得たのは中国の銀行だった。中国にある全銀行のトータル純利益は五千八百三十四億元(約八兆五千億円)、前年比で30・6%の増益だ。