国谷キャスタ:
こんばんは。クローズアップ現代です。
自分の会社が得意とする技術を使って製品を中国で製造したい。消費市場が急成長している中国で販路を開拓したい。日本企業によります中国への進出ラッシュは新たな段階を迎えまして、今、進出の主役は中小企業です。
しかし中小企業は資金や人材、ノウハウが無く進出は難しいと言われてきました。そうした中で多くの中小企業は成長が望みにくい日本から踏み出して、リスクがあっても中国で高く評価される技術やサービスをもって中国に打って出ようとしているのです。変化の激しい中国市場を進出する中小企業にとっても、スピードが重要な要素となっているようです。
今夜は三井物産戦略研究所の中国経済センター長、沈才彬さんにお越しいただいています。本当に多くの中小企業が、いま中国進出に関心を持っているということですけれども、ビジネス・チャンスをどのように見ていらっしゃいますか。
沈:
昨年中国の1人あたりGDPは、1,000ドル近くになりました。1,000ドルを超えると何が起きますか。結論から言いますと、3Mブームが起きるのです。
国谷:
3Mとは何ですか。
沈:
3Mとはマイ・カー(My car)、マイ・ホーム(My home)、モバイル(Mobile、携帯電話)のことです。それからレジャーも、国民が求めるのです。女性は綺麗になりたいという気持ちが強いですから、エステ・ブームも起きています。これらのブームは全て、中小企業のビジネス・チャンスに繋がるわけです。
国谷:
なるほど、個人消費が非常に伸びているということですね。一方で面白かったのは現金問屋が競争力を持っているということですけれども、これはどういうことですか。
沈:
中国の物流は非常に弱いです。ところが物流は日本企業の得意分野です。そこで日本の技術と中国のマーケットが結合することは、実際日中の接点ともなっております。
国谷:
弱いところに日本の技術を持っていけば成功するということですが、日本の技術全体として、中小企業を日本ではなかなか生かすことができなくて、自信を失いかけているところもあると思うのですけれども、中国では高く評価されるケースは多いでしょうか。
沈:
日本は成熟した技術大国ですね。ところが中国は、技術はまだまだなんです。日本に比べ、技術の面ではまだ足りない部分がいっぱいあります。従いまして、日本では評価されない技術が必ずしも中国でも評価されないとは限りません。中国で評価される可能性が十分あります。日本の技術と中国のマーケット、これは今、実際日中企業の接点になっているわけです。
国谷:
どうなのでしょうか。中小企業が行って巨大市場で成功すれば、一躍大企業になるというような可能性もあるということですか。
沈:
その通りです。中小企業にとって中国マーケットは夢があるところです。1つの例を挙げます。「頂益」という台湾の即席麺メーカーがあります。この会社はもともと台湾ではあまり名前を知られなかったメーカーでした。ところが10年前に中国市場に進出し成功して、いま一躍業界大手になりました。しかも中国市場では即席麺のトップシェアを持っているのです。これは成功例ですね。中国マーケットには夢があることが裏づけられているわけですね。
国谷:
中国では既に世界で1番の携帯電話市場になっているということですけれども、次は自動車産業。去年は110万台で5割生産量が増えたということですが、これから普及が始まっていくのですよね。
沈:
そうです。乗用車は、昨年確かにおっしゃる通り110万台突破したのです。ところが普及率で見れば僅か2%以下です。ですからこれからどんどん乗用車が普及するわけです。自動車産業は裾野が広いから、実際中小企業にとってもビジネス・チャンスにつながる分野です。例えば鋼材、コイル、プラスチック、化学品、金型など、これらの分野では、中小企業の役割も期待されるわけです。
国谷:
そうした夢もある一方で、リスクも大きいのではないかと思うのですけれども。リスクは、どう見たらいいのでしょうか。
沈:
リスクも大きいですね。リスクには2つあります。1つは競争激化によるリスクです。いま日本企業は中国に進出しており、欧米企業も進出しています。日本企業と中国企業との間の競争、それから欧米企業、台湾・香港企業との競争が一層激しくなるわけです。
それからもう1つのリスクは、ダブル・スタンダードの並存にあります。つまりチャイニ−ズスタンダ−ドとグロ−バルスタンダ−ドが一時的に並存することによって、ビジネス・リスクが生じることです。
例えば、上海地域では、2000年に撤退、または倒産に追い込まれた外資系企業は実際1,000社を超えているのです。そのうち213社は日系企業。しかも大部分は中小企業です。ですからリスクの面にも、気をつけなければならないのです。
国谷:
中国的なビジネスのやり方と、グローバル的なビジネスのやり方が並存している中国。さまざまな問題を解決して、そして中小企業をきめ細かく支援することにより収益を上げようと、日本の銀行も中国でのとり組みを強化し始めています。
(VTR 約6分20秒)
国谷:
銀行によるきめ細かなサポートというのは、中小企業にとって心強いでしょうね。
沈:
そうですね。中小企業には情報がなく、人脈もない。販売網もあまりない。この意味では総合商社および銀行は、感情を込めて中小企業をしっかりサポートしていかなければなりませんね。
国谷:
中には撤退を余儀なくされる中小企業もあるということなのですけれども、とりわけ何に気をつけたらいいと思いますか。
沈:
日本企業に比べると、中国企業の信用度がまた低いですね。言い換えれば、信用を守れない企業があるのです。ですから中小企業が中国に進出する際、信用のある協力パートナーを選ばなければならない。この点は、気をつけなければなりません。
国谷:
いまや日本に来る中国製品の輸入はどんどんふえていますし、また日本が中国に輸出する量もどんどんふえているということで、非常に結びつきが深くなってきたと。日本と中国の企業間の関係は、今後どうなっていくと思いますか。
沈:
日中企業間のこれからの関係のキーワードは「競存」です。
国谷:
「競存」?
沈:
つまり、競争しながら共に生きる、ということです。競争がなければ、やはり共に生きることも難しいですから。これからは日本企業も競争に力を入れなければなりませんね。
国谷:
そうするとかなり切磋琢磨しながらの関係、それにやはり勝ち抜いていかないということですね。
沈:
そうです。「競争しながら、また相互補完して共に生きていく」と。これが、キーポイントですね。
国谷:
どうもありがとうございました。
進出をする中小企業の動きについてお伝えしてまいりました。二夜にわたって日本と中国の、企業の新たな挑戦をお伝えしました。今週の「クローズアップ現代」、これでお別れです。