【中国経済レポ-ト】
【中国経済レポ-ト】
2010年まで、人民元20%切り上げへ
沈 才彬
『日刊工業新聞』2006年7月20日記事
切り上げから1年たった人民元相場の今後の見通しや注目すべき中国経済について、沈才彬三井物産戦略研究所中国経済センター長に聞いた。同センター長は今年後半以降、変動幅が拡大し「2010年までに累計で20%前後まで引き上がる」との見通しを示した。
―元切り上げから1年の動きをどう見ますか。
「切り上げ幅は1年に5%以内という私の予測通りだった。中国の公約は1日の変動幅を中心相場の上下0・3%以内とするものだったが、私が調べた昨年7月から2月までの変動幅で0・1%を超える日は1日もなかった。しかし、4月以降はようやく0・1%を超え、変動幅が拡大方向になっている」
―中国は米国の切り上げ圧力を巧みにかわしました。
「米中間には“金融恐怖バランス”が存在する。これは米クリントン政権時代のサマーズ財務長官の表現。米国は中国に対し、巨額な対中貿易赤字と対中直接投資の資金の流れがある。一方、中国から米国には、中国に進出した多くの米国企業からの膨大な利益環流と、さらに大きい流れとして中国が購入する米国債がある。米国が中国を制裁すれば、この資金の仕組みは崩壊。中国は米国に対し、必ず対抗措置をとり米国債を売る。両国の経済は計り知れないマイナス影響を被る」
「よって、米中は貿易や金融の“緊張”が高まっても“戦争”にはならないというのが共通認識。米国は、為替報告で中国を為替操作国としての認定を見送った。中国からの輸入品に一律27・5%の関税を課す制裁法案も先送りされた。米中関係は、一見、対立するように見えるが、水面下は緊密に連携している」
―そのバランスは今後も続きますか。
「長く続くとは考えにくい。米国の対中貿易赤字は05年に2015億ドル、中国1国だけで28%を占め、産業界から反発の声がある。11月に中間選挙を迎え、産業界の声を無視できない」
「一方、中国は米ドルを購入する形で市場介入している。マネーサプライを増やすことでインフレ、不動産バブルの懸念がある。(市場介入は)輸出企業にとっていいかもしれないが企業改革の妨げになる。しかも増え続ける外貨準備高の7割が米ドルに偏重。米ドルが暴落すると中国の損失は大きい。中国は輸出依存型経済から内需型経済へシフトしなければいけない。シフトするためには人民元切り上げを容認せざるをえない」
―今後の見通しは。
「5月の英字紙によると周小川中央銀行総裁は内部会議で『米国の圧力が弱まっているいま、人民元切り上げのチャンス』と発言した。人民元切り上げを容認する発言だ。後半から変動幅はさらに拡大する。特に07年から公約である1日の変動幅が0・3%に近づくだろう。2010年までに人民元は累計20%前後まで切り上がるだろう」
―人民元以外で企業が注目すべき中国経済は。
「生産過剰の動きだ。とくに粗鋼と自動車。2010年に粗鋼の生産能力は6億トンで実需よりも2億トン過剰に、自動車は1800万台の生産能力となり800万台が過剰となる。過剰分は輸出に向かう。日本企業は中国の生産過剰にどう対応するか、対策を考えておく必要がある。株式市場も要注意。過去5年間、株式市場は不健全だったことから経済成長と株価指数は乖離(かいり)していた。中国は株式改革を進めており、今後2年間に株価は倍増する」