【中国経済レポ−ト】
「キーパーソンインタビュー 沈才彬氏に聞く」中国「爆食型成長」からの脱却−誰が巨大市場を牽引するか
沈 才彬
(財)環日本海経済研究所「ERINA REPORT」2006年5月号
今回は三井物産戦略研究所中国経済センター長の沈才彬氏にお話を聞きました。沈氏は中国経済の最新事情に精通するスペシャリストであり、その正確で明快な分析により注目を集めておられます。最近では素材・エネルギー分野の「爆食型成長」をキーワードに、中国経済の急激な成長に警鐘を鳴らし、その方式転換について多方面から示唆をなされています。
●−まず、第一のテーマとして、中国では今年から第11次5ヵ年計画(規劃)が始動し、中国経済の新しい舵取りとなるものが発表されているところです。先生は「爆食型成長」からの脱却を目指す中国という視点でお話をされておられますが、中国政府は狙いとしてどのような取組みを行おうとしているのかお聞かせ下さい。
(沈) 第11次5ヵ年計画の草案が現在開催中の全国人民代表大会(全人代)で採択される。第11次5ヵ年計画の注目点は3つある。1つは「新農村建設」、つまり農民、農村と農業問題の解決に向けて意欲を示したこと。この「新農村建設」が参考にしたのは韓国の新農村運動である。2つ目は成長方式を「爆食型成長」から「省エネ・節約型成長」に転換するとしたことである。これまでは量の拡大を追及してきた。例えば第10次5ヵ年計画(2000年〜2005年)の5年間のGDP成長率は年率平均で9.5%と、かなり高いスピードである。第11次5ヵ年計画の数字目標は年率で7.5%となっており、第10次5ヵ年計画の実績より2ポイント下げている。
また、2010年までの単位GDPのエネルギー消費(1万ドルのGDPを創出するために使われるエネルギー消費量)を20%削減とした。年率換算にすると毎年4%削減しなくてはならない。経済成長は目標を7.5%としても、実際は依然としてハイレベルで成長し続けるが、エネルギー消費量はこれから削減の方向に向かう。これまでは素材とエネルギーの「爆食型成長」が特徴だったが、このようなやり方はすでに限界に来ており、中国の資源ではこの成長を支えることはできないことは明らかである。
例えば、2004年の中国のGDPは世界全体の4%に過ぎなかったが、中国一ヵ国だけが消費したエネルギー・素材として、石油は世界全体の8.1%、鋼材は27%、石炭は31%、セメントは40%を超えている。また、爆食しているが効率がものすごく悪い。1万ドルのGDPを創出するために使われたエネルギー消費量では世界石油メジャーであるブリティッシュ・ペトロリアム(BP)の資料によると、中国はアメリカの3.5倍、ドイツの6倍、日本の6.5倍である。エネルギー効率では日本の1/6弱とものすごく効率が悪い、しかし爆食はしている。そこで問題が起きる。つまり、誰が中国の「爆食型成長」を支えるかということである。
中国の資源は実際は相当乏しい状況となっている。例えば中国の一人当たり石油資源占有量は世界平均水準の11%に過ぎない。天然ガスはわずか4.5%である。つまり中国の資源は今のままでは石油はあと14年で終わってしまう。天然ガスはあと32年で終わってしまう。「爆食型成長」の持続はもはや限界に来ており、今のままの持続は無理なのである。
世界のどの国も中国の「爆食型成長」を支えることはできない。中国の一人当たりエネルギー消費量はまだ低い水準にあり先進国に比べても1/5くらい、アメリカの1/8、日本の1/4である。仮に中国がアメリカ並みになれば世界のエネルギー資源全てを動員しても、中国一ヵ国のエネルギー需要をまかなうことはできない。そのため成長方式の転換は避けられない。中国自身もこれははっきり認識しているため、今回の第11次5ヵ年計画ではその成長方式の転換を唱えた。
中心的な内容は成長方式の転換であり、これは第11次5ヵ年計画の内容の目玉となっている。つまりこれからは資源と素材の節約型成長に転換する。これまでは量の拡大に注力してきたがこれからは質の追求に重点を置くということである。
3つ目は天津の浜海開発区の設置である。これも大いに意味がある。80年代は珠江デルタの開発が中心で、ここでのシンボルは4経済特区の認可だった。90年代は長江デルタの開発、そのシンボルは浦東新区の開発認可だった。21世紀最初の10年間としては渤海湾地域の開発で、そのシンボルが天津浜海開発区の認可である。これが今後注目される。以上が第11次5ヵ年計画のチェックポイントである。
●−この中でお話の出た「新農村建設」の目玉はどのようなものでしょうか。
(沈) 現在、農村部から都市部への人口大移動が起きている。これは農民の生活が貧しいことが原因にある。この貧しさから脱却できなければ中国の内需拡大はできない。しかし、これにより問題も発生している。農村部から来た人間による強盗や殺人事件が多く発生している。農村の発展がなければ中国の近代化は実現できない。そのため「新農村建設」により農民の生活を安定させ、都市部への圧力も緩和させるという狙いがある。内需拡大と都市部の安定を両立させたいという中央政府の思惑である。
採られている措置としては農業税の撤廃、農民の医療保険の段階的なシステム構築などがある。現在農民は金がないために病気になっても医者に見てもらえない。このような医療保険、公共サービスの面で農民に対して優遇を与える。そして都市部、沿海部の力を借りて内陸部の振興活性化につなげ、農民の購買力を向上させたいという思惑がある。
農村人口は毎年1,000万人程度減っている。農村部から都市部への人口大移動があるためである。出稼ぎ労働者も1億人程度いる。大きな役割を果たしており、人口大移動がなければ中国の高度成長の持続もない。しかし治安悪化の問題や農村出身者に技術・知識がない故に3K労働ばかりやらされ不満も発生している。そのため都市部で出稼ぎ労働者の暴動が多発している。貧富格差、都市部と農村部の経済格差の是正をしたいという狙いがある。
●−日本でも高度成長期にはたくさんの出稼ぎ労働者が農村から都市に集中し、健康保険制度の整備も行ってきました。日本がやってきたことが中国の参考になるかもしれません。ところで何故そのように爆食型になっており効率が悪いのかと疑問が出てくるのですがどのようにお考えになりますか。
(沈) 爆食は素材とエネルギーに起こっている。中国では企業が乱立している。発展段階では避けられない現象だが、これまで農村の活性化のために郷鎮企業がたくさん作られた。郷鎮企業の発生は中国特有の現象である。これは中国の経済成長に大きく貢献したが、効率はものすごく悪い。技術力、人材があまりない。そのため素材、エネルギーは想像以上に浪費されている。一見中国では高度成長が続いているがそこには質の問題がある。中国では郷鎮企業に1億数千万人の従業員がおり、会社は数千万社あるがすべて小規模会社なので、効率がものすごく悪い。
私営企業も国有企業も乱立している。例えば鉄鋼業でのメーカーは数百社。自動車メーカーも数百社がある。こういうところが素材、エネルギー資源の大量消費を呼び非効率になっている。また中国はこれまでの軽工業中心から2002年になって重工業時代に突入している。鉄鋼、自動車、造船業、いずれも重化学工業分野である。以前の日本の重化学工業時代と同様にエネルギー、素材の大量消費なので爆食の一因となっている。
整理すれば爆食の原因としては基本的に3つ。重工業時代への突入、ものすごく悪い効率、企業の乱立と統合合併が完成していないこと。これからが課題である。
●−東北振興政策について。昨年秋から重工業地帯だから東北なのだという話を聞きますが、東北振興の成否やそのインパクトについてお伺いしたいと思います。
(沈) 何故東北振興政策が打ち出されたか、その背景として東北地域が他の地域に比べて大きく遅れているからである。50年代や60年代、東北地域は中国の国民経済に大きく貢献したのだが、70年代末から中国は改革開放政策を導入し、それ以降東北地域は他の地域に比べて大いに遅れを取った。ほかの沿海地域と比べても明らかに遅れている。
遅れた原因は国有企業が集中している地域であること。また、国有企業改革が一番遅れている地域である。雇用過剰、設備過剰の状態となっている。設備過剰は本当の意味での過剰ではなく、古い設備であること。失業率としては東北地域は一番高い。もう1つは90年代から市場経済に移行したこと。国民の市場経済に対するマインドは南方において浸透している。上海あたりも浸透しているが北に行くと薄くなり、東北地域が一番薄くなっている。
もうひとつは大連を別として外資があまり入っていないこと。中国の高度成長は多くの部分は外資が牽引力となっている。外資は広東省、上海市、山東省、北京市などに集まり、東北は大きく遅れ、国にとってもお荷物となって取り残された。そのために東北振興政策が打ち出された。東北の発展は中国全体の近代化実現に不可欠である。
具体的には、国からの財政移転などの財政面の支援と政策面の支援としての具体的な政策であるが、これは一朝一夕で達成できるものではない。時間が結構かかる。東北振興と第11次5ヵ年計画の3つ目のポイントである天津浜海開発区の認可が大きなポイントとなる。これから渤海湾地域の開発と東北地域の開発がシナジー効果として期待できる。渤海湾地域は東北地域から一番近いので渤海湾の発展が波及効果として期待できる。
この意味から見て、日本企業にとってはビジネス拡大のチャンスがある。特にトヨタはすでに自動車生産工場を天津、長春に置き、関連会社や系列会社もこの2地域にシフトしている。日本企業の役割も期待されており、特に東北地域は日本との縁が深い地域であり、日本企業にとっても渤海湾の開発と東北地域の振興によってマーケットが拡大することは間違いなく、ビジネスチャンスの拡大になる。日本企業は積極的にその地域の開発に飛び込み、ビジネスチャンスとして捉えるべきである。
●−吉林省に行くとトヨタ、ダイハツの進出がありますが、黒龍江省はまだまだで、瀋陽はドイツとの結びつきが強いとの話もあり、日本は今ひとつの状態です。先生は日本の地域経済についてもよくご存知で新潟と中国との交流にも様々な提言をされてきましたが、日本の地域経済活性化に向けて中国と何らかの形で協同できないものでしょうか。
(沈) 新潟地域だけでなく日本全国が直面している問題は少子高齢化である。人口はすでに昨年から純減、人口増加はマイナスとなっており、日本企業、日本の各地域にとって厳しい局面に入りつつある。人口の減少は市場の縮小である。これは大体予測できる。そして人材も不足する。これらは非常に大きな問題。この2つの問題を解決するために日本の各地域はどう生き残りを図るかが課題である。
個人的な考え方だが、日本の各地域、企業にとって3つの視点が必要。国内市場が縮むため国内だけでやることは無理である。すでに日本のほとんどの産業分野は国内市場が縮小傾向に入っている新興分野の創出と海外市場の開拓が命題だが、欧米市場は同じようにほとんどの産業の国内市場が飽和状態となりつつある。したがって、日本企業は「国内だけでは飯が食えない」視点が必要である。
2つ目の視点は、現在発展が著しいBRICs(ブリックス:ブラジル、ロシア、インド、中国)への視点である。これら4ヵ国は新興市場のシンボル的存在ではあるが、ここでの市場の開拓といった視点が必要である。BRICsといっても日本企業や日本の地方にとって現実的に巨大市場といえるのはまだ中国だけ。具体的に、昨年の日本の貿易輸出で見ると4ヵ国向けの合計金額が14兆円弱である。そのうちの13兆円弱は中国一ヵ国だけの輸出である。残る1兆円強は3ヵ国の合計である。3ヵ国合計でやっと中国の1/13に過ぎない。日本企業は引き続き中国市場の開拓が必要である。
3つ目は中国ダイナミズムの視点。人流、物流、金流である。金流は資本の流れ。実際ダイナミックに構造的な変化が起きている。人流において昨年中国から海外に旅行・ビジネスのために出国した人数は3,100万人、日本の出国者は昨年時点で1,740万人である。中国は日本より1,300万人多くなっている。
中国は日本を上回りアジア最大の観光客輸出国となった。国民はますます豊かになっているという実感がある。日本の地域にとっては、ますます豊かになってくる中国からいかに観光客をたくさん誘致するかが大きな課題である。
物流も大きな変化が起きている。環日本海の視点も必要。日本の物流構造の中心は太平洋側の表日本、つまりアメリカ中心であったが、新潟がある環日本海地域は裏日本、今では裏日本の復権が明らかになっている。今の日本の物流構造はアメリカ中心から中国中心に変わっている。昨年の日本の貿易の中に占めるアメリカ向け物流はわずか17.9%、中国向けの物流は香港を入れると20%を超えている。韓国、アセアンなどの国を入れるとアジア全体では大体5割弱である。今はアジア中心、中国中心に変わっている。
これからいかに中国向け輸出を増やすかが地域活性化の課題となる。環日本海、裏日本にとっては弱点だった物流が今は強みとなっているのでこれをいかに活用するかが、新潟を含む環日本海地域の課題である。
また、資本の流れについて、中国企業による海外進出が活発化している。レノボ(聯想集団)という中国のパソコンメーカーがアメリカのIBMのパソコン事業を丸ごと買収した。また、中国の石油企業がカナダに本社を置くアフガニスタンの石油会社を買収した。中国の上海電気集団は日本の工作機メーカーである池貝、アキヤマ印刷機械を買収した。これらは資本の流れである。中国の資本、中国の企業を誘致できるかが日本の地域の課題である。要するにどういう風に中国ダイナミズムを活用するかが日本の各地域の将来に係る課題である。
●−日本の地域で中国の力をダイナミックに発揮させているところはありますか。また、新潟の場合、どのような産業に中国ビジネス拡大の可能性があるでしょうか。
(沈) 福岡や神戸、大阪はかなり力を入れている。東北や北陸はまだである。感覚としては遅れている。魯迅の留学先である仙台はかなり力を入れているが実績はそれほど多くはない。
新潟は米、酒や水産加工物などが強いが問題は米。日本とアセアン、東アジアとのFTA交渉が難航している。中でも農産物保護の問題がある。実際農業は日本のGDPにおいて1%しか占めていないが農業保護は日本の方針なのでなかなか進んでいない。シンガポールは都市国家なので農業抜きでも締結できるが他の地域であるASEAN、韓国、中国との間では農業問題が大きいので交渉は難しい。
もし、本当にFTAを締結すれば美味しい新潟の米は間違いなく競争力がある。今の中国米の価格の2倍になっても売れる。富裕層が出てきていい品物、特にブランド物の購買意欲が高い。現在では新潟の米は10倍くらいするであろう。これでは高すぎる。
これらは国全体の問題で一地域の問題ではないが、日本酒についてはたくさんの日本企業が中国に進出しているので日本企業向けに新潟銘酒を目玉商品とし、在中国日本人を相手に商売をスタートさせ、それから中国人消費者を相手にすることが可能である。
日本の地域間競争はまだまだ緊張感が足りない。中国に出張に行くと地域と地域の競争はものすごい。特に外資誘致は命がけであると思う。ライバル関係、緊張感を持つことも大切である。
●−日中となると経済はまだしも、政治の問題がぎくしゃくしていると言われます。「政冷経熱」を通り越して「政冷経涼」という声も聞かれる中で、日中関係をもっとしっかりしたよいものにするにはどうするべきでしょうか。
(沈) よく言われている「政冷経熱」であるが、その「政冷」も「経熱」もきっかけは小泉さんと切っても切り離せない関係にある。「政冷」はもちろん靖国神社参拝である。「経熱」も小泉さんが役割を果たした。これは2002年、日本では産業空洞化の懸念から中国脅威論がものすごく広がっていた時で、4月12日に小泉首相が中国の海南島で開かれた博鰲(ボアオ)アジアフォーラムに出席のため、中国を訪問した。
その日の朝、小泉首相の訪中に同行した竹中平蔵大臣に約30分間、中国への3つの視点、中国への対策について進講した。中心的内容として、日本は中国脅威論を取らずに、中国を市場として、また工場として活用すべきであると言った。中国脅威論は建設的な発想ではなく、日本にとって国益とならない。中国を積極的に活用することが日本にとって利益となると述べた。竹中大臣は飛行機の中でどのように小泉さんに伝えたのかは全く分らないが、結果的にはその日のアジアフォーラムの演説の中で日本の総理大臣としては初めて、国際会議の場において、中国の経済成長は日本にとって脅威ではなくチャンスとチャレンジだということをおっしゃった。
これは中国の朱鎔基首相も高く評価した。これは一国の総理大臣が中国脅威論を否定した形となり、日本国内の中国脅威論に歯止めをかける役割を果たした。それ以降の日中経済交流を見ると、急増している。小泉さんは実際に「経熱」のきっかけを作るという役割を果たした。ところが帰国して1週間後の4月20日に靖国神社に参拝したため中国の指導者が小泉さんに裏切られたと怒ったのである。その時以来日中間で首脳の相互訪問は途絶えた。「政冷」、「経熱」ともに小泉さんと関係がある。
「政冷経涼」は当面ないと思う。何故ないかというと今、日中経済はお互いに深くビルドインされているからだ。日本にとって中国は最大の貿易相手国、2番目の輸出先である。中国マーケット抜きにしては日本の産業発展、景気回復も図れない。逆に中国にとって日本も貴重な存在。3番目の投資国、3番目の貿易相手国である。現在日本企業は3万社中国に進出しており、直接の現地雇用は200万人以上、間接雇用を入れると900万人である。中国の高度成長に日本企業も大きく貢献している。
先日、広州に行ってきたが、日本自動車メーカービッグスリーがすべて広州に進出している。広州の自動車産業は日系企業が支えている状態にある。相互依存、相互補完の関係にありお互いに離れることはなく、簡単には「経涼」にはならない。たとえ今年の8月15日に小泉さんがまた靖国神社に行っても、日中経済は揺るぐことはないだろう。
ただし、「政冷」の関係が長引けば「経涼」になることもあり得る。当面、日中は「付かず離れず」の関係が続く。
小泉内閣の下でさらに悪化するシナリオの可能性は極めて低い。今、日中間で衝突が最も起こりやすいところは2ヵ所ある。東シナ海のガス田と尖閣諸島であり、これを管轄する日本の官庁は、1つは防衛庁、もう1つは経済産業省である小泉改造内閣においてこれら官庁のトップは親中派と呼ばれる額賀防衛庁長官と二階経済産業大臣である。二階大臣は先般中国を訪問し、温家宝首相にも会談できた。二階大臣の基本方針は東シナ海ガス田の試掘権を民間企業に与えず、交渉で問題を解決することと思われる。まず中国を刺激する言動は控えるべきであるというのが基本的なステータスである。中国も歩み寄りの姿勢を見せており、計画通りであればガス田の生産は昨年10月には正式にスタートする予定が、今年3月になっても生産は開始されていない。さらに悪化するシナリオは小泉内閣の下ではないと思う。
歴史問題で戦争が起きることはまずない。衝突が起きるのは現実問題として、尖閣諸島やガス田といったところである。靖国問題で中国が譲歩することは考えにくいので「政冷経熱」を打開するにはまず靖国問題を解決することが必要である。これは実際アメリカも頭を痛めている。靖国神社に祭られているA級戦犯はまさに真珠湾攻撃の戦争責任者なのである。アメリカとしては靖国参拝は心穏やかでなく、警戒している。ポスト小泉は誰が首相になってもこの問題は解決できなければならない。靖国問題の決着には、例えば国民投票で民意を問うこと。日本国民にとって侵略戦争の責任者であるA級戦犯と一般の戦死者であり昔の侵略戦争の犠牲者たちが一緒に祀られることが本当によいかどうかを投票で決める。つまり分祀の問題である。もし国民の大多数が反対であれば分祀の方向で決着をつけることとするなど、民意を問うという意味で国民投票を行うことは一つの解決方法であろう。
●― 本日はどうもありがとうございました。
(2006年3月13日 三井物産戦略研究所会議室にて)
聞き手:ERINA調査研究部主任研究員 辻久子
記 録:ERINA調査研究部研究主任 筑波昌之
●プロフィール
沈才彬(しん・さいひん)
1944年 中国江蘇省海門市生まれ
1981年 中国社会科学院大学院修士課程終了後、同大学院専任講師に就任
1984年 東京大学客員研究員、早稲田大学客員研究員
1987年 中国社会科学院大学院助教授
1989年 お茶の水女子大学客員研究員
1990年 一橋大学客員研究員
1993年 三井物産戦略研究所主任研究員
2001年〜現在 三井物産戦略研究所中国経済センター長
主な著書等
「検証 中国爆食経済」(時事通信社)、「チャイナショック」(日本能率協会)、「動き出した中国巨大IT市場」(編書、日本能率協会)、「中国経済読本」(亜紀書房)、「喜憂並存の中国」(亜紀書房)など多数
テレビ、ラジオ、新聞、雑誌等各メディアでの番組出演、講演活動等で活躍中。
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