《次のレポ−ト 中国経済論談リストへ戻る 前回のレポート≫

【中国経済論談】
【中国経済論談】
米国に制裁されても反米しない華為

中国ビジネス研究所代表、多摩大学大学院フェロー沈 才彬

今年3月29日、華為技術(ファーウェイ)は2023年の通期決算を発表した。それによると、23年度の売上は前年比で9.6%増の7042億元(約14兆7405億円)、純利益は前年の2.4倍の870億元(1兆8211億円)を記録し、3年ぶりの増収増益を達成した。純利益は米国制裁発動前の18年(593億元)より46.7%も増えている。

ここ数年、米政府は国を挙げて中国の一民間企業である華為に対し、かつてない厳しい制裁を実施してきた。しかし、華為は死ぬどころか躍進を果たした。

華為の生き残る力が強い。その強みの1つは米政府に制裁されても「反米」をしない冷静さにある。

●米制裁下でも業績回復が鮮明に

2019年5月、米トランプ政権は「安全保障上の懸念」を理由に、中国通信機器最大手華為技術に対する制裁を正式に発動した。その後、制裁強化措置を次々と発動し、米国から華為への高性能半導体輸出が途絶えた。米国のみならず、米国の技術やソフトフェアを使うほかの国々も米国の許可がなければ、高性能半導体及び製造装置の華為への輸出が事実上禁止された。米国による「華為排除」は世界に広がり、米中技術覇権争奪の熾烈さが伺える。

米国が自国のみならず同盟国まで総動員して一外国企業を制裁するのは、前代未聞の出来事だ。

厳しい制裁の下で、華為は死活にかかわる試練を余儀なく強いられた。制裁の影響で、2021年の売上は前年比で29%減、純利益は格安スマホ部門「Honor(オナー)」の売却益1000億元(約150億ドル)を除くと、前年の約5分の1まで減少した。

だが、華為は手をこまぬいて死を待つのではなく、積極的に自助努力を続けてきた。その結果、華為は3年ぶりの増収増益を実現し、全面的な復活を世界に示した。

●華為5Gスマホ新機種発売

2023年、華為は通信機器分野では世界最大の市場シェアを維持する一方、クラウドコンピューティング、PC(パソコン)、OS(基本ソフト)システム、デジタルエネルギー、高性能半導体、スマート自動車などの分野でも躍進を遂げている。

その内、華為クラウドコンピューティングは19%の中国市場シェアで、アリババに次ぐ国内2位を占める。パソコン分野では、華為製ノートパソコンが389万台の出荷台数でレノボ―、HPに次ぐ国内市場3位、ipadは華為がアップルに次ぐ2位を確保。華為が独自に開発したOSの「鴻蒙」(英文名ハーモニーOS)は国内市場開拓に大きな進展があり、グーグルのアンドロイドOSと「決別」する自信を示している。華為半導体部門のハイシリコンは23年第4四半期の売上が前年比で240倍増の70億ドルに上り、世界4位を誇る。スマート自動車部門の収入も前年の2.3倍に相当する。

23年一番注目される華為の業績と言えば、やはり5Gスマホの新発売である。これは米政府による厳しい制裁を打破する画期的な出来事だ。

昨年8月、華為は予告なしに5Gスマホの新機種Mate 60 Proを発売した。Mate 60 Proは中国通信機器分野の最新技術を集約し、米国による華為制裁と封鎖を打ち破り、通信業界を驚かせた。発売すると、中国で絶大の人気を集め、華為ファンの人たちを熱狂させた。

新発売のMate 60 Proを分解・分析すれば、部品(件数)の約9割が中国製であることが分かる。「日本経済新聞」2023年11月14日朝刊記事によれば、3年前のMate40Proと比べれば、Mate 60 Proのサプライヤーの主な変化は次の4つである。

@ メイン半導体 設計は華為の子会社・海思半導体(ハイシリコン)で前と変わらないが、委託製造先は台湾積体電路(TSMC)から中国の中芯国際集成電路(SMIC)に変わった。

A 有機ELディスプレイ サプライヤーは韓国のLGから中国の京東方科技集団(BOE)に変更した。

B タッチパネル関連 米国製から中国製に変わった。

C カメラのメインセンサー サプライヤーは日本のソニーから韓国のサムスンに変わった。

上記4項目のうち、高速通信規格「5G」に対応できるMate 60 Pro発売の決め手は、やはりメイン半導体サプライヤーの変更だ。

周知の通り、2020年発売Mate40Proのメイン半導体に使われた5ナノ世代チップはファーウェイ子会社の海思半導体(ハイシリコン)が設計したものの、生産は台湾のTSMCに委託した。しかし、米国の華為制裁強化によって、TSMCは華為に対し高速通信規格5Gに対応できる半導体の輸出が出来なくなった。そのため、華為は5Gスマホが製造できず、その悪影響が絶大だ。

ところが、昨年8月に発売された5G対応のMate 60 Proのメイン半導体には中国メーカー中芯国際(SMIC)の7ナノ世代品が使われている。言い換えれば、台湾や韓国、米国の大手にしか作れないメイン半導体は、中国勢によって作られた。これは米国にとってショックであり、華為制裁の失敗を意味する。

●華為は再びアップルの脅威になる

ここ数年、米制裁によって華為は5Gスマホが製造できなくなったため、アップルは最大の受益者となってきた。しかし、華為の復活により、アップルの中国市場シェアが奪われ、華為は再びアップルの脅威となっている。

市場調査会社IDCが今年1月25日に発表したデータによると、23年第4四半期の中国のスマートフォン出荷台数は、米アップルが2.1%減。反対に華為は36.2%増、市場シェアが前年同期の10.3%から13.9%へと3.6ポイント増えた。

今年に入ってからは、アップルの地盤沈下と華為の台頭が一層加速している。Counterpoint Researchのレポートによれば、今年1〜2月の6週間、中国国内でのスマホ販売台数全体は7%減少した中で、華為が64%増と販売台数を伸ばした。市場シェアも華為が昨年の6位から2位に浮上した。一方、アップルの販売台数が24%減、市場シェアも昨年の2位(19%)から4位(15.7%)に後退した。

さらに4月18日、華為はハイエンドスマホ「Pura70」シリーズの販売を開始した。昨年8月に発売した「Mate60」シリーズと同様、国産の先進半導体が搭載されていると見られる。「Pura70」は高機能カメラを搭載し、洗練されたデザインが特徴となっている。「Mate60」と同じように、「Pura70」が発売すると人気殺到で売り切れの店舗が続出している。

また、同社の徐直軍会長代理は17日、深?で開かれたフォーラムで、年内に新機種「Mate70」を発売する計画も明らかにした。アナリストの予測によれば、24年華為の世界全体の出荷台数が6400万台前後と、23年の3500万台から大幅に増加すると予想される。

言うまでもなく、シリーズ「Mate60」と「Pura70」及び「Mate70」の発売が米国の制裁下にある華為の勝利にほかならない。同時にアップルの新たな脅威ともなっている。実際、年初来のアップル株価は4月19日時点で11%超も下落している。

●米国に制裁されても反米はしない

筆者は華為の自助努力による全面的復活に脱帽する。でも最も筆者を敬服させるのは、米国に制裁されても反米しない華為の冷静さと度量の大きさである。

2019年5月米制裁直後に、華為の創業者でCEOを務める任正非氏は米CNN記者のインタビューを受けた際、「華為の哲学はオープンだ」と説明し、米国に制裁されたからと言って「オープン反対、米国反対の思考回路を形成するわけにはいかない」と強調した。なぜなら「米国は過去数十年、先端技術分野で最先頭を走り続け、未来数十年も引き続き世界をリードする」からである。従って、華為は米国に制裁されても、「米国に学ぶ決意が変わらない」と述べた。創業者の発言から華為の強さと懐の深さは尋常ではないものがわかる。

ここ数年、米国による華為制裁が極端まで強化されたにもかかわらず、華為は「米国に学び」、「反米思考をしない」立場を変わらずに貫いてきた。

昨年8月、任氏はICPC(国際大学生プログラム設計コンテスト)基金会及び監督・金メダリストの学生との対話の中で、任氏は米国制裁について「プレッシャーであり、原動力でもある」と強調する一方、次のように述べた。「我々は排外をしない。我々は常にアップルの製品がなぜ立派かを研究し、アップルとのギャップを見つける。先生がいるのは幸せのことであり、学ぶ機会があり比べる機会もあるからだ。この意味では私はアップルファンと言われても言い過ぎではない」と。

愛国主義及び偏るナショナリズムの風潮が高まる環境の中で、並ならぬ自助努力及び冷静かつ理性的な対応は、結果として華為の現在の全面的復活に繋がる。この華為は強い。米国にとって、いまの華為は制裁発動前の華為よりさらに怖い存在となっている。(了)