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経済レポ−ト
中国経済の現状と今後

   
『企業経営』2004年4月号

     中国は世界経済のエンジンへ

日本では自動車の国内販売台数で最高を記録したのは、1990年(777万台)のことであり、1年間で52万台増えた。以降、減る一方で、昨年の販売台数は600万台を割り、582万台にとどまっている。

日本の退潮と対照的に、中国ではいま自動車ブームとなっている。2003年、中国の自動車販売台数は前年比34%増の439万台にのぼり、2年で2倍近く拡大した。そのうち、乗用車の販売台数は前年比75%増の197万台となり、2年で3倍近くとなった。自動車の販売台数が昨年1年間で114万台を増やしたことは、世界でもあまり前例がないことであり、中国の高度成長の熱狂ぶりを象徴的に示した出来事ともいえる。

爆発的な自動車消費ブームの背景には新たな経済拡張がある。アジア通貨危機後5年にわたる調整期を終え、経済成長率の停滞局面から抜け出し、力強い経済拡張に突入する勢いが鮮明になっている。02年の8%成長に続き、03年の経済成長率は9.1%に達し、今年も8%台の維持が可能と見られる。金融危機や台湾独立のような不測の事件がなければ、年平均8%の成長は08年北京五輪まで続くと思われる。

 一方、消費財と生産財の物価指数も12カ月連続でプラスを記録し、98年以降、長引いてきたデフレ傾向にピリオドが打たれた。

 新たな拡張期の牽引役は「3Mブ−ム」と言われるマイカー(自動車)、マイホーム(住宅)、モバイル・テレコム(携帯電話)の消費ブ−ムである。前述の空前の自動車消費ブ−ムは正にその象徴的なものである。

 高度成長の持続に伴い、中国の経済規模と市場規模の急速な拡大が期待される。筆者の予測によれば、03年に1兆4000億ドルにのぼる中国の国内総生産(GDP)規模は、06年までに1兆7000億ドル以上に拡大し、フランスとイギリスを追い越して世界第4位となる。さらに10年までにドイツ、20年までに日本、50年までに米国を凌ぐ世界最大の経済パワ−になる可能性も高い。また、03年に1000ドルの大台に乗せた中国の1人当たりGDPは今後、急速に拡大する可能性が大きく、国民の豊かさの実現が一層加速することは疑う余地がない。

   こうした高度成長の持続と国民生活水準の向上によって、中国に消費ショックと需要ショックが起き、日本を含む世界経済に大きなインパクトを与えかねない。現在、鉄鋼、工作機械、携帯電話、家電製品、ビールなど多くの分野で、中国の消費規模は既に日米を抜いて世界1位を占めているが、こうした分野は今後さらに増える。自動車を例にすれば、消費規模は01年の第7位から昨年は一躍、日米に次ぐ3位となり、06年に日本、20年に米国を凌ぐ可能性も高い。

 特に輸入で見た場合、中国市場の急拡大が明らかである。02年に2950億ドル(世界6位)だった輸入規模は、03年に前年比39.9%増の4128億ドルに膨らみ、フランス、日本、イギリスを一気に抜き、米独に次ぐ世界3位となった。06年にドイツを凌ぎ、世界2位へ躍進することも視野に入る。中国が世界経済のエンジンの一つとなっていることは明らかである。

日本の景気回復、陰の主役は中国

日本経済に目を向ける場合、中国という成長エンジンの役割が一層際立つ。現在、日本の景気は緩やかながら持ち直しの動きが続いているが、景気回復を支える陰の主役は実際、中国である。

マスコミは「日本の景気回復は外需牽引型であり、その牽引役は米国と中国経済だ」と喧伝しているが、米国については根拠がない話である。

財務省の貿易統計によれば、2003年日本の総輸出は前年に比べ円ベースで4.7%増えたが、米国向けはマイナス9.8%で、金額べースでは1兆4603億円減少した。対米純輸出(貿易黒字)も1兆1000億円減った。対米輸出と純輸出(貿易黒字)の大幅な減少により、日本経済への影響はマイナスであるはずなのに、「日本の景気回復を牽引した」という論調は当たらない。

しかし、日本の景気回復は対中輸出に牽引されたのは確かだ。統計によれば、昨年、日本の対中輸出は前年比33.3%増を記録し、日本の総輸出増加分2兆4533億円のうち、中国向け増加分は1兆6580億円にのぼり、全体の67.6%を占める。香港向け増加分(2802億円)を加算すれば、輸出増加分の約8割が中国の貢献である。 中国向け輸出の急増によって、日本の輸出構造には大きな変化が起きている。日本の総輸出に占める米国のシェアは、98年の30.5%から03年の24.6%へ低下したのに対し、中国(香港を含む)のシェアは98年の11.0%から03年の18.5%へと急速に拡大している。もし過去5年間の実績をベースに計算すれば、2010年前後に米中逆転が視野に入り、中国が日本の最大の輸出市場となる。

ちなみに、中国、香港、台湾を含む大中華圏で見た場合、米中逆転が既に実現し、昨年、日本の総輸出に占める大中華圏のシェア(25.1%)は米国より0.5ポイント高かった。日本が米国経済のみを注目すれば良かった時代は確実に終り、中国マーケットを抜きにしては景気動向も産業発展も語れない時代が訪れたのだ。

中国インパクトに促される日本の5つの転換

ますます巨大化する中国市場は、様々な面から日本経済に大きなインパクトを与えている。「日本にデフレを輸出」と言われたが、今はインフレの要因となっている。

昨年、旺盛な中国の国内需要に牽引され、産業素材をはじめ多くの商品市況は価格の上昇が目立った。過去1年間で、一部の鋼材価格は約20%、鉄鉱石18%、スクラップ30%以上、石炭25%、古紙30%以上、ニッケル約2倍も値上がりした。このほか、銅、石化製品の基礎原料ナフサ、大豆の価格及び海上輸送の運賃も大幅に上昇した。

 03年9月の日本大手企業の中間決算を調べれば、業績が良い業種の多くも実際、中国の経済拡張と大きく関わっていることがわかる。鉄鋼、工作機械、建設機械、石化製品、海運などの業種では、いずれも急速な経済成長を遂げる中国の旺盛な需要に支えられ、増収増益の結果となっている。これまで「脅威」と捉えられてきた中国の経済成長は、いま業績回復の「救い」となり、多くの日本企業は旺盛な中国需要で潤っている。景気低迷が長引いてきた業種(例えば鉄鋼、海運、建設機械など)も、中国特需で急速に復活している。

日本が受けた影響はそれだけではない。中国インパクトを背景に、日本国内では次の5つの構造的転換も促されている。まず、雇用構造の変化である。生産工場の中国など海外移転によって、製造業の雇用が減少しサ−ビス業へシフトするという雇用構造の変化が見られている。

2つ目は製造業内部の低付加価値分野から高付加価値分野への転換である。カラ−テレビを例にすれば、低付加価値のブラウン管テレビの生産はすべて中国など海外に移転し、国内では高付加価値の液晶テレビやプラズマテレビ生産に集中している。カメラと携帯電話は同様な傾向を示し、日本国内で高付加価値のデジタルカメラとカメラつき携帯電話の生産に集約し、一般カメラと携帯電話の生産の海外移転が加速している。

3つ目は終身雇用からリストラも容認する雇用制度への転換、4つ目は年功序列から能力主義や業績本位への人事制度の転換、5つ目は横並び主義から成果主義への賃金制度の転換である。いずれも丼勘定的な制度の是正である。

勿論、上記5つの転換は全て中国要素によるものとは言い切れない。しかし、その背景に中国インパクトがあったことは間違いない。ここ数年、日本の国際競争力は急ピッチで低下しており、その背景には丼勘定的な制度のような「社会主義構造」があると見られる。中国に対抗し、国際競争力をアップするには、「社会主義構造」を是正しなければならない。

3つのバブル懸念

中国の巨大市場への依存を強める日本企業は、バブル懸念、不良債権問題などビジネスリスクにも注意を払う必要があると思われる。 まずはバブル懸念である。現在、中国経済が新たな拡張期入りとデフレ終結に向かう一方、バブルの兆しも出ている。固定資産(インフラ、不動産・設備)投資、銀行貸出し、マネ−サプライの「3つの過熱」はその象徴的なものと言える。

統計によれば、03年固定資産投資は5兆5118億元と前年同期に比べ26.7%も増え、1993年以来の最高水準となった。そのうち、不動産投資は29.7%も増えた。設備投資も高い伸び率を見せており、鉄鋼96.6%増、電解アルミ92.9%増、セメント121.9%増、自動車87.2%増と過熱状態となっているのは明らかだ。

投資過熱は銀行貸出しの急増に支えられるものである。03年中国金融機関の新規貸出しは3兆元にのぼり、前年に比べれば76.5%も増えた。 投資と貸出しの急増は、マネ−サプライの急増をもたらしている。03年マネ−サプライは前年比19.6%増を記録し、グリ−ンスパン米連邦準備理事会(FRB)議長が指摘したインフレ圧力は強まっている。

投資、銀行貸し出し、マネ−サプライという三つの過熱により、不動産バブルの崩壊や生産過剰などによる経済の急変調が懸念され、経済運営のリスクは増大している。

3つの過熱のうち、金融機関の貸し出し急増が特に懸念される。その中身を調べれば、貸出先の大部分は国有企業であり、その貸し出し債権の多くは将来、不良債権になりかねないからである。

深刻な不良債権問題

現在、国有企業の業績不振に起因した中国の不良債権問題は改善があるが、依然深刻に状態にあることに変わりがない。中国金融当局の発表によれば、03年末時点、中国金融機関の不良債権比率は15.2%で、そのうち貸出債権全体の6割を占める四大国有商業銀行の比率は16.9%にのぼる。不良債権総額も2兆4000億元(31兆円相当)にのぼり、同年GDPの21%を占める。

中国のGDP規模は日本の3分の1弱に過ぎないが、不良債権総額は日本(2003年9月末時点、28.3兆円)の1.1倍、不良債権比率は日本(同、約6.6%)の2.3倍、GDPに占める不良債権の割合は日本(同、5.7%)の3.7倍に相当し、問題の深刻さが窺がえる。

最近、4大国有商業銀行は金融当局の指導を受け、不良債権比率を05年に15%以下に引き下げようとしている。問題は分母(債権全体)の拡大に注力することにある。債権規模の急速な拡大は経済過熱を招く恐れがあるのみならず、新たな不良債権の種にもなりかねず、金融リスクの解消に繋がらない。

 07年までに外国銀行の人民元取り扱い業務に対する規制は撤廃される。すでに、資金力のある外資系銀行の参入により、中国の金融機関はかつて経験したことがない、厳しい試練に直面している。中国の金融機関は抜本的な改革をしなければ不良債権問題は一層深刻化し、金融危機に発展するリスクが大きい。

情熱と冷静

現在、中国政府は景気過熱への警戒を強め、固定資産投資や金融機関の融資を抑制する姿勢を鮮明にしている。商業銀行の余剰資金を吸収する短期金融債の発行、預金準備率の引き上げ、開発区の統廃合、鉄鋼、セメント、電解アルミ、不動産分野向けの融資抑制など対策を相次いで打ち出し、四大国有商業銀行への大規模な公的資金再注入も行いはじめている。こうした一連の対策はどこまで効果があるかを見守りたい。

日本の景気動向や産業の発展が中国市場に益々大きく依存する現在、いかに中国の活力を取り込み、その成長から最大限に利益をとるかが日本企業の重要課題となっている。言うまでも無く、日本企業は情熱をもって中国の巨大市場を取り込むべきである。しかし一方、過熱気味の中国経済および深刻な不良債権問題に対し冷静な頭脳を持つことも極めて大切である。

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