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【中国経済論談】
【中国経済論談】
減速する中国経済 加速する中国台頭
中国ビジネス研究所代表、多摩大学大学院客員教授 沈 才彬
《経済界》2013年1月22日号インタビュー記事
●減速する中国経済 加速する中国台頭
中国のGDP成長率は2012年が7・8%と見込まれている。11年は9・3%だったので大幅な減速、しかも12年第3四半期まで7四半期連続で減速が続いている。だが12年10月のIMFレポート「世界経済見通し」によると、インド4・9%、ロシア3・7%、日本と米国が2・2%、ドイツ0・9%、フランス0・1%、ユーロ圏全体ではマイナス0・4%などとなる中で、中国は依然として第1位の高い成長率を維持している。中国経済の成長率は減速するものの、中国の台頭は加速する。
経済成長を牽引する3つの要素(輸出、消費、投資)を見ると、中国は昨年の8月にいずれも底を打った。中国政府は昨年6、7月に連続して金利引き下げを行った。9月には55件ものインフラ投資を中心とする大型案件の許認可を行った。この効果が2、3カ月後には出て来る。しかも欧米のクリスマス需要が旺盛で、輸出が9月以降堅調に推移している。
加えてエコカー補助金、エコ家電の支給を復活させた。中国の財政黒字は1―10月で1兆元弱残っており、11、12月の財政収入は2兆元ある。中国の財政年度は1―12月だから、12月の年度末までに3兆元、日本円で36兆円を使わなければならず、この消費効果は大きい。
では13年の中国経済はどうなるか。キーワードは3つ。1つは安定的成長、2つ目は微調整、3つ目が内需拡大。中国政府はもう2ケタ成長は目指していない。政府目標は7・5%で、これは安定的な成長と言えよう。2つ目の微調整とは、国際情勢が先行き不安定だからだ。欧州の債務危機はまだ終息しておらず、米国の財政の崖の問題もある。その中では環境の変化に対応しなければならず、政策面では微調整しながら進むことが求められる。またこれまでの中国は輸出依存で来たが、今後は内需拡大を目指さなければいけない。新たな消費分野を育てる必要がある。
中国は内部に4つの課題を抱えている。1つは「政経乖離」だ。経済改革が先行し、政治改革が遅れている。民主化の遅れ、人権無視、役人の腐敗蔓延などの問題が起きており、その原因は政治改革の遅れに起因する。
2つ目は、「国進民退」(国有企業は躍進しているのに民間企業が後退している)の問題だ。例えば金融業は国有企業が独占状態。通信やインフラ、エネルギー分野も同様で、これでは中国経済の持続的成長はあり得ない。民間企業の躍進をもって中国経済を牽引する形に改めて行かなければいけない。
3番目は「外強内弱」(外需に強く依存し、内需が弱い)だ。それまで前年比2割増とか3割増といった中国の輸出額の伸びは、リーマンショック後の09年はマイナス16%となり、前述したように欧米各国がそれぞれ景気の先行きに不安を抱える中では、輸出依存型の成長は限界に来ている。
4番目は「官腐民怨」だ。官僚の腐敗や格差問題で国民の間に不平不満が募っている。沿海部と内陸部の地域格差、都市部と農村部の所得格差、富裕層と貧困層の収入格差が広がっている。これが反政府デモや農民暴動の形で表れている。
●GDP倍層、国民所得倍増で世界一の経済大国実現へ
日本と中国の関係はどうなるかだが、13年3月に開催される全国人民代表大会(全人代=国会)で、習近平国家主席、李克強首相体制への政権交代は完成する。日本も政権交代したばかりだから、双方で安定的な政局運営が行われる4月以降になれば、きちんとした外交交渉も行われるだろう。
だが尖閣諸島問題に端を発した日中の緊張関係は、しばらくは続くと見た方が良い。なぜなら、国家主権にかかわる問題では日中双方のどちらも一方的な譲歩ができないからである。習近平さんが来日した際、天皇陛下との会談に際し“1カ月ルール”を守らないと日本のマスコミは大騒ぎした。さらに中国側からすると、習近平体制への移行期に尖閣諸島国有化を決定し、日本政府が中国の政権交代をかく乱しようとしたと受け止めている。これらのことからしても当面は対日強硬姿勢が続く見通しが強い。
世界経済への影響はどうか。私が注目するのは、新体制が党の代表大会で2つの倍増計画を発表したこと。1つは2020年までにGDP倍増、もう1つは同時期に国民所得倍増するという“ダブル倍増計画”。これをもし実現できれば、10年後の22年時点での中国の名目GDPは20兆ドル。現在の米国のGDPが15兆ドルだから、20年に中国は米国を上回り、世界第1位の経済大国になっている可能性がある。そうなると中国は世界の工場ではなく世界の市場となり、世界経済へ与えるインパクトは計り知れない。日本はこの巨大化する中国市場のエネルギーをいかに吸収するかが重要課題となるだろう。