【中国経済論談】
【中国経済論談】
中国のBYDが世界第6位に躍進
中国ビジネス研究所代表、多摩大学大学院フェロー沈 才彬
2024年中国の新車販売台数が3100万台の大台を突破し、3,143万台にのぼり、史上最多の記録を更新した。その急成長をけん引したのは、電気自動車(EV)とプラグインハイブリッド車(PHV)など新エネ車(NEV)だ。
中国汽車工業協会の発表によれば、昨年のNEV新車販売台数は1,286万台、前年に比べ35.5%も増加した。市場シェアが4割を超え、今年は更に5割を突破すると予想される。
中国NEV車の大躍進は世界に注目される。その代表格はガソリン車の生産も販売もせず、NEVに専念する国産メーカーBYDだ。
●販売台数が4年で10倍増
BYDは現会長王伝福氏が1995年に創設し、本社を深せんに置く民間企業だ。今年は創業40周年を迎える。
同社の発表によれば、2024年の世界販売台数が前年比41%増の427万2145台。2020年の21万台、21年73万台、22年186万台、23年302万台に比べれば、4年で10倍増を成し遂げた。
内訳を見れば、EVが前年比12%増の176万台で、テスラの178万台より僅か2万台少ない。一方、PHVが前年比72%増の248万台まで伸びた。EVとPHVだけで400万台を超えるのは、各国自動車メーカーの中でBYDが唯一の存在と言える。
●一躍して世界6位へ
427万台の販売台数は、世界的に見れば一体どんな位置づけだろうか?
まず2023年世界自動車メーカー販売台数ランキング(表1)を見よう。1位はトヨタ1,109万台、2位のVWは924万台と3位の現代729万台で続く。ホンダが7位(410万台)、日産8位(344万台)、スズキ9位(316万台)、韓国のヒョンデが6位(421万台)、起亜が10位(308万台)、BYDは10位(302万台)だった。
表1 世界自動車メーカー販売台数ランキング2023
順位 会社名 販売台数(万台)
1 トヨタ (日) 1,109
2 VW (独) 924
3 ヒョンデ(起亜310万台を含む) (韓) 730
4 GM (米) 619
5 ステランティス(欧) 618
6 フォード (米) 441
7 ホンダ (日) 410
8 日産 (日) 344
9 スズキ (日) 316
10 BYD (中) 302
出所)OICA(国際自動車工業連合会)のデータにより筆者が作成。
2024年世界各社の販売台数は米国フォードを除き発表済だ。1位から5位までの順位は変わっていないが、販売台数はいずれも減少している。うち、トヨタ▼3.7%、VW▼、ヒョンデ▼1%、GM▼3%、ステランティス▼12%となっている。
昨年6位だったフォードは2024年米国販売が4.2%増の207.8万台と発表しているが、世界販売を発表していない。ただし。タイ(2024年販売台数が64万台、前年比で17.5%減)や欧州(24年1〜9月販売台数が前年同期比で17.9%増の32.7万台)での販売実績を考えると、フォードの2024年世界販売が400万台前後と予測され、BYD(427万台)に抜かれることが確実だ。
日本の大手メーカーは、ホンダ380万台(▼7.7%)、日産334万台(▼2.9%)、スズキ330万台(4.4%増)で、いずれもBYDに追い越された(表2を参照)。
表2 世界自動車メーカー販売台数ランキング2024
順位 会社名 販売台数(万台)
1 トヨタ (日) 1082 (▼3.7%)
2 VW(独) 902(▼2.4%)
3 ヒョンデ (韓) 723(▼1%)
4 GM (米) 600 (▼3%)
5 ステランティス(欧) 540 (▼12%)
6 BYD (中) 427 (41%)
7 フォード (米) 400(予測値)
8 ホンダ (日) 380 (▼7.7%)
9 日産 (日) 334 (▼2.9%)
10 スズキ (日) 330 (4.4%)
出所)各社の発表により筆者が作成
従って、2024年ランキングでは、BYDは一躍して世界第6位とランクすることになる。BYDの躍進は実に驚くものだ。
●輸出と現地生産を両輪とする海外戦略
国内の成功を収めたBYDは、さらなる躍進を実現するにはグローバル戦略が不可欠だ。そのため、BYDは2021年に欧州、ASEAN、中南米を重点攻略地域とし、輸出と現地生産を二輪とする海外戦略を策定した。経過から見ればこの戦略が成功している。
まず輸出を見よう。2021年BYDの輸出台数は僅か5万台強だったが、3年後の24年に43.3万台に増え、3年で8倍増を果たした。現在、BYDは世界88ヵ国・地域で販売され、輸出を拡大している。
BYDの車は主にどこの国・地域に輸出しているか?2024年1〜10月BYDの輸出統計によれば、ブラジル向け5.8万台、シェア18%でトップを走る。EU2.6万台、タイ2.4万台、オーストラリア1.7万台、イスラエル1.6万台、それぞれ8%、7%、5%、5%を占める。この輸出実績を見れば、BYDの重点地域攻略戦略に合致していることがわかる。
日本にも販売拠点を置き、攻勢を強めている。日本自動車販売会社の業界団体が1月9日、2024年の国内電気自動車(EV)販売台数を公表した。軽自動車「サクラ」などを持つ日産自動車が首位を維持したが、前年比44%減の3万749台に減った。中国のBYDが前年比54%増の2223台と、トヨタ自動車(30%減の2038台)を初めて上回った。24日、BYDは充電できるプラグインハイブリッド車(PHV)を日本市場に投入する方針を発表した。日本で3車種のEVを発売しているが、PHVは初めて。早ければ2025年末にも発売する。
また、貿易摩擦を回避するために、BYDは輸出の拡大に注力する一方、海外で生産拠点を設ける動きも加速している。
24年7月、BYDの最初の海外工場、タイ東部ラヨーン県にある完成車工場が完工し、年間生産能力は15万台。インドネシアでは、西ジャワ州スバンの工業団地に年間15万台の生産能力を持つ完成車工場が建設中。投資金額は10億ドルで、25年末までの竣工を目標としている。これまで「日本車の牙城」と言われるASEANでは、BYDは輸出と現地生産という2正面作戦を展開し、日本車に対し攻勢を強めている。日本勢は嘗てない苦戦を強いられ、市場シェアが大幅に減少している。
このほか、BYDはブラジル、ハンガリー、ウズベキスタンで自動車の生産工場が建設されている。
勿論、BYDのグローバル化の道は平坦なものではない。欧米の対中EV関税措置やトランプ新政権のパリ協定離脱など、国際環境が激変している。BYDに対する逆風が強まっている。
しかし、強者が逆境から生まれる。紆余曲折を乗り越えれば、BYDは更に強くなる。現在、BYDは世界6位というものの、販売台数が世界覇者トヨタの半分にも及ばないが、2030年までトヨタの背中が見えるかも知れない。(了)