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【中国経済論談】
【中国経済論談】
米中首脳会談の舞台裏(中)

中国ビジネス研究所代表、多摩大学大学院フェロー 沈 才彬

(日本経営合理化協会「社長のための中国経済コラム」第92話(2017年4月26日配信)

先日、筆者は中国ビジネスフォーラム4月例会にて、「中国から見たトランプ政権と米中貿易戦争の行方」を演題に講演した。講演の中で、今月6〜7月に米フロリダ州にあるトランプ大統領自身の別荘マール・ア・ラーゴで行われた米中首脳会談の背景、成果及び米中関係の行方について詳しく解説した。本コラムでは、「米中首脳会談の舞台裏」という連載シリーズの形で、3回に分けて講演内容を中心にレポートをまとめた。今回は第2弾で、米中首脳会談を実現させた立役者たちの顔ぶれを紹介する。

●米中首脳会談を実現させた立役者たちの顔ぶれ

 前回で述べたように、習近平国家主席の訪米及びトランプ大統領との首脳会談によって、米中関係は大きく改善された。それでは今回の米中首脳会談を実現させた立役者たちは一体どんな顔ぶれだろうか。

実際、トランプ政権発足後、米中間では@クシュナー大統領上級顧問夫婦〜崔天凱中国駐米大使ライン、Aキッシンジャー元国務長官〜楊潔?国務委員ライン、Bティラーソン米国務長官〜楊潔?国務委員・王毅外相ラインという3本のホットラインが旨く機能している。そのうち、最も大きな役割を果たしたのは、実はクシュナー大統領上級顧問夫婦〜崔天凱大使ラインである。

周知の通り、トランプ政権誕生前後、米中間では険悪な雰囲気が漂っていた。それはトランプ氏が大統領就任前の不規則な言動に起因するものだった。

選挙期間中、トランプ氏は中国が人民元を対ドルで低く抑えて輸出を促進し、米製造業の雇用を「盗んでいる」や「中国が米国をレイプした」という強烈な中国批判を展開し、「大統領就任初日に中国を為替操作国に認定する。中国製品に45%関税をかける」と公約した。

米中関係をさらに悪化させたのはトランプ氏による大統領当選後の言動だった。2016年12月2日、トランプ氏は外交上の慣例を破り、外交関係のない台湾の蔡英文「総統」と電話会談を行った。これに続き、今年1月13日、トランプ氏は米「ウォールストリート・ジャーナル」紙の取材で、「1つの中国も含めてすべてが交渉の対象になる」と発言していた。中国側は台湾問題でのトランプ氏の言動が「1つの中国」原則への挑戦であり、米中関係のレッドラインを超えたと受け止め、トランプ氏サイトに厳重抗議した。

大統領就任後もトランプ氏の冷たい対中姿勢が目立つ。ロシアのプーチン大統領を含む主要国首脳と相次いで電話会談をしたが、習近平主席との電話会談はなかった。こうした険悪な雰囲気が漂うなか、1月28日、中国は旧正月(春節)を迎えた。トランプ大統領はこれまでの慣例を破り、中国春節の祝辞がなかった。米中関係は国交樹立以来、かつてないほど深刻な状態に陥っていた。

だが、2月2日、状況が一変し米中関係は大きな転機を迎えた。この日、トランプ氏の長女イバンカさんは娘を連れてワシントンにある中国大使館を訪れ、崔天凱中国大使のご案内で大使館主催の旧正月を祝うレセプションに出席した。同日、彼女の夫であるクシュナー米大統領上級顧問が崔大使と密かに会談した。これをきっかけに、米中関係は人々の予想を超える急転直下の展開を遂げる。

2月8日、トランプ大統領の顧問がトランプ氏本人から習近平国家主席宛の中国の元宵節(小正月)を祝う書簡を崔大使に手渡した。2月9日、安倍首相訪米の直前、トランプ大統領は習近平国家主席と電話会談し、「1つの中国」という原則を堅持すると表明した。180度の立場転換と言わざるを得ない。

2月27日、中国の楊潔?国務委員がホワイトハウスでトランプ大統領と会談し、ペンス副大統領、クシュナー大統領上級顧問も同席した。3月19日、ティラーソン米国務長官が北京で習近平国家主席と会談、「衝突せず、対抗せず、互いに尊重し、ウィンウィンの協力」関係を提案した。実はこれは習近平国家主席が4年前訪米時に当時のオバマ大統領に提案したものである。

4月6〜7日、習近平国家主席が米国を訪問し、フロリダ州の別荘でトランプ大統領と初の首脳会談を行った。トランプ大統領親子3代で習主席夫婦を款待した。トランプ氏は今月13日、「私は本当に好きになって尊敬するようになったのだ。習主席だよ。彼はスゴイ人物だ」と習近平氏を絶賛した。

言うまでもなく、トランプ氏の長女イバンカさん夫婦と崔天凱大使は米中関係改善の流れを作った最大の功労者である。

しかし、イバンカさん夫婦と崔天凱大使の間に、もともと接点がなかったようである。それでは一体誰がパイプ役を演じたのか? 実は、両者の接点を作ったのは、「米メディア王」マードック氏の元妻で、中国人女性ウェンディ・デンさん(写真を参照)である。

このウェンディ・デンさんはイバンカさん夫婦の仲人であり親友でもある。実際、結婚前のイバンカさんとクシュナーさんは宗教信仰の違いで一度破談したことがあった。クシュナーさんはユダヤ教信者で、イバンカさんはキリスト教信者であったため、クシュナーさんの父親は2人の結婚に強く反対したためだ。失恋に悩んでいたイバンカさんを助けたのはウェンディ・デンさんだ。彼女はイバンカさんとクシュナーさんをヨートに招待し、2人の仲直りの機会を作った。その後、イバンカさんはウェンディ・デンさんの提案でユダヤ教に改宗し、宗教の壁を乗り越え、2009年にクシュナーさんと結婚したのだ。以来、イバンカさんは時々ウェンディ・デンさんに相談したり、助言を求めたりしている。イバンカさん夫婦を崔天凱中国大使に紹介したのは正にウェンディ・デンさんである。

現在、イバンカさんは3人の子供の母親となり、ウェンディ・デンさんの影響で子供の中国語教育に熱心に取り組んでいる。4月6日夕方、訪米中の習近平主席夫婦の前で、イバンカさんの5歳の長女と3歳の長男が中国語で歌謡歌いと唐詩暗誦を披露したが、これもウェンディ・デンさんがイバンカさんに提案したものと見られる。米中関係改善の裏では、ウェンディ・デンさんによるイバンカさん夫婦への影響は実に大きい。

今後、イバンカさん夫婦は、トランプ大統領の最側近として米国の対中政策に大きな影響力を発揮し続けるだろう。われわれは、米中首脳外交の舞台裏にはウェンディ・デンさんのような華人人脈が活躍している事実を見逃してはならない。(続き)