【中国経済論談】
【中国経済論談】
中国遼寧省GDP統計の大嘘
中国ビジネス研究所代表、多摩大学大学院フェロー 沈 才彬
(日本経営合理化協会「社長のための中国経済コラム」第84話(2016年9月26日配信)
今年6月下旬、筆者は中国経済の実態調査を実施するため、東北地域の遼寧省に行った。実地調査を通じ、遼寧省政府が発表した2015年GDP統計が明らかに人為的な不正操作を行った結果という事実を発見した。
遼寧省政府の発表によれば、2015年同省のGDP成長率が3%とされるが、実際は大幅のマイナス成長に転落したのである。
遼寧省には省都瀋陽市をはじめ、大連、鞍山、撫順、錦州など14の都市がある。2015年、名目GDPが増加したのは大連市(0.57%増)だけで、ほかの13都市はすべてマイナス成長に転落したのである。そのうち、鉄嶺▼31.0%、朝陽▼23.5%、丹東▼16.1%、阜新▼15.3%、鞍山▼14.5%、遼陽▼10.5%、撫順▼10.3%、葫芦島▼10%など8都市は2桁マイナス成長となっている。
ほぼ全域がマイナス成長に転落したのにもかかわらず、遼寧省政府が省全体のGDP成長率を前年比3%増と発表したのは、明らかに大嘘である。
一方、2015年遼寧省財政予算歳入の大幅減少も省政府の大嘘を裏付ける。当局の発表によれば、2015年遼寧省の財政予算歳入は2,125億元で、14年の3,192億元より1,067億元も減少し、減少幅は33.4%に上る。全国31省・直轄市・自治区のうち、山西省と黒竜江省の予算歳入も前年に比べそれぞれ9.8%、10.5%減少したが、遼寧省の3割超減少はやはり桁が違う。
実際、遼寧省政府はGDP統計に嘘をつくのは今回が初めてではない。2014年、汚職摘発・党紀粛正を担当する党中央紀律検査委員会(「中紀委」と略称、トップは王岐山氏)は遼寧省に調査チームを派遣し、同省経済データの不正操作を発覚し、それを追及した。今年2月27日〜4月28日、同委員会は再び調査チームを派遣し、遼寧省には「普遍的な経済データ不正操作という問題がある」と再度厳しく追及した。言い換えれば、遼寧省はGDP統計不正操作の「常習犯」と言っても過言ではない。
中紀委調査チームの監督の下で、遼寧省は2016年1〜3月GDP成長率を▼1.3%と発表した。全国31省・直轄市・自治区のうち唯一のマイナス成長に転落した地域となった。
ほぼ同時期に、王a・前遼寧省書記、蘇宏章・遼寧省政法委書記、王陽・遼寧省人大会副主任、鄭玉?・同副主任らが相次いで摘発され失脚した。それによって、前代未聞の選挙スキャンダルも氷山の一角として水面に浮上してきた。9月13日、国会相当の全人代は遼寧省が選出した代表(国会議員に相当)45人に買収があったとして、当選を無効にする決定を下した。遼寧省人代会は17日に省人民代表(地方議員に相当)454人が票の買収など不正があったため、その資格を停止したと発表した。代表総数約600人の7割以上が資格停止されたため、省議会は事実上マヒ状態となっている。
遼寧省は政治と経済のダブルピンチに陥っている。来年は第19回党大会開催という節目の年であり、遼寧省はいつ危機から脱却するかが注目される。(了)