【中国経済論談】
【中国経済論談】
なぜ中国東北地域の経済が悪いか?
中国ビジネス研究所代表、多摩大学大学院フェロー 沈 才彬
(日本経営合理化協会「社長のための中国経済コラム」第82話(2016年7月20日配信)
中国の東北地域は遼寧省、吉林省、黒竜江省など3省から構成される。今、中国経済は減速が続くなか、東北地域の景気の悪さが際立つ。
●遼寧省は唯一のマイナス成長へ
中国国家統計局の発表によれば、2015年全国の経済成長率が6.9%だったが、東北3省はいずれもこの水準を大きく下回る。31省・直轄市・自治区のうち、遼寧省は3%で最下位の31位、黒竜江省は5.7%で29位、吉林省は6.5%で28位。ワースト4のうち、東北地域は3席を占める。
2016年第1四半期も東北3省のGDP成長率順位はまったく変わらず、経済はさらに悪化している。遼寧省は▼1.3%に転落し、全国唯一のマイナス成長の省となった。黒竜江省5.1%、吉林省6.2%、いずれも全国水準の6.7%を大きく下回っている。
なぜ東北地域の景気はこんなに悪いか。その真相を探るため、6月下旬に遼寧省の省都・瀋陽へ現地調査に向かった。
実は筆者の瀋陽訪問が今回2度目である。初めては40年前のこと。当時、北京から瀋陽まで特急列車でも10時間以上かかった。いまは高速鉄道で北京から4時間強で到着できる。瀋陽北駅から出ると、高層ビルがずらりと並んでいる町風景が目に入り、昔の瀋陽の面影はもうない。この40年間、瀋陽も高度成長の恩恵を受け大きく変貌しているのだ。
市中心部の繁華街に行くと、レストランや百貨店で大勢の人たちが賑わっており、不景気の実感はないようだ。
しかし、「棚戸区」という低所者たちの簡易住宅エリアに足を運ぶと、景気の悪さが肌で感じるようになる。100を超える「棚戸区」は汚い(環境)、危険(治安)、きつい(衛生条件)という3Kが特徴で、居住人口数は10万人を上回る。瀋陽市政府は「棚戸区」改造を施政方針として掲げてきたが、景気低迷や財政上の問題などが生じ、改造計画に悪影響を及ぼしている。
それではなぜ東北地域の景気は悪いか?筆者は瀋陽市の学者、投資家、一般市民に取材し、彼らの話をまとめると、次の要因が分かった。
●国有企業改革の遅れが足かせ
1つ目は国有企業改革の遅れである。新中国樹立後、東北地域は最も早くソ連をモデルとした計画経済を導入した。1950年代ソ連が援助した数百の大型
プロジェクトの多くも東北地域に配置されている。東北地域は中国で計画経済が最も浸透され、国有企業が最も集中している地域となってきた。計画経済時代では東北地域は中国経済の寵児として耀いていたが、1978年改革・開放実施後、特に1992年市場経済導入以降は凋落し始めた。
例えばほかの地域の国有資産が全資産に占める割合38%に対し、東北地域は50%を上回る。2014年、ほかの地域の国有企業赤字率26.2%に対し、東北地域は32.4%を超える。嘗て東北地域が得意していた計画経済、誇りとしてきた膨大な国有企業などは、今、負の資産の性格が色濃く現れている。国有企業改革の遅れは今、東北地域の景気低迷の最大要因と思われる。
●生産過剰と人口流失が景気を圧迫
2つ目は製造業の生産過剰は東北地域の経済成長の足かせとなっている。中国経済は今、投資、生産、クレジットという「3つの過剰」を抱えており、生産過剰の是正を急いでいる。例えば、粗鋼、石炭、セメントなどの製造業分野はいずれも3割前後の生産過剰となっている。東北地域は鞍山鋼鉄、撫順炭鉱など重厚長大の製造業国有企業が多い一方、イノベーション型企業が少ない。東北地域の生産過剰の是正は経済成長率を押し下げ、国有企業の利益急減は直接に地方財政を圧迫している。結果的には景気低迷に繋がっている。
3つ目は人口流失が経済活動に悪影響を及ぼす。中国政府の統計によれば、2015年東北3省の定住人口は前年に比べ30万人も減少した。これは国有企業を中心に、大規模なリストラが進んでおり、仕事を失った人たちは上海、浙江省、江蘇省、広東省など豊かな地域に流出した結果である。東北地域人口の減少は直接に消費を抑え、生産活動にも悪影響を及ぼしている。
余談だが、東北地域は昔の日本植民地「満州国」であり、1931〜45年「満州国」時代の東北地域は中国で最も豊かな地域の1つだった。ほかの地域から大量の移民が殺到し、人口は1931年の2990万人から1942年の4550万人へと、11年間で1560万人も急増した。貧しい地域から豊かな地域へ移住するのは、昔も今も人間の情である。
東北地域の問題はある意味では中国経済の縮図と言える。中国経済は景気低迷から回復できるか?国有企業改革は成功するか?東北地域はそのカギを握ると言っても言い過ぎではない。 (了)