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【中国経済論談】
【中国経済論談】
PM2.5、鳥インフルエンザ、大地震−習近平体制の多難の船出

中国ビジネス研究所代表、多摩大学大学院客員教授 沈 才彬

(日本経営合理化協会「社長のための中国経済コラム」第41話(2013年4月24日配信)

筆者は、日本経営合理化協会のネット「中国経済コラム」第38話「2013年中国政治・経済の10大予測」の中で、習近平新体制について、次のように予測している。

「今年3月に中国の全人代が開催し、習近平氏が国家主席に、李克強氏が首相にそれぞれ選出される予定。政権交代が完成し、習近平・李克強新体制が始動する」。「新旧体制の権力移行期には特に突発事件の発生は要注意である。2003年3月の新型肺炎(SASS)をめぐる政府対応の失態や2008年3月のチベット暴動などは、いずれも権力移行期に発生した突発事件である」と。

この予測通り、今回の政権移行期にもPM2・5や鳥インフルエンザ及び四川省雅安地震など不測事件が相次いで発生し、習近平新体制にとっては多難の船出となってしまった。

新型鳥インフルエンザH7N9は4月初めにまず上海で発生し、その後、江蘇省、浙江省、安徽省、河南省、北京市、河南省、湖南省、江西省、福建省など8省2市に感染拡大。衛生当局の発表によれば、5月5日現在、全国で128人が感染を確認され、うち27人が死亡、76人が病院で治療中、26人が既に治り退院したという。

4月20日に四川省雅安市に発生したM7.0地震については、4月27日現在、死者196人、行方不明21人、ケガ1万3,484人、被災者数231万人、住宅倒壊6万6,698軒など甚大な被害がもたらされる。捜査・救援活動の展開によって、被害はさらに拡大する可能性が大きい。

2003年新型肺炎(SASS)発生時と違い、今回の鳥インフルエンザについては、政府対応には失態がなく、情報開示も迅速に行われている。四川省雅安地震にあたっても、政府の対応が素早く、地震発生4時間後、李克強首相は既に飛行機で震源地に入り、救援活動の陣頭指揮を執っている。政府・軍隊・民間が一体となって救援活動に全力をあげている。一部の被災者による救援物資が足りないという不満の声もあるものの、現段階では中国政府の対応を概ね評価できるものと見ていい。

懸念されるのは経済への影響だ。鳥インフルエンザの流行地域は上海を中心とする長江デルタ地域で、経済成長が最も進んでいる地域でもある。上海、江蘇、浙江、安徽など3省1市のGDP合計は全国の4分の1を占め、中国経済の「心臓部」と言われている。鳥インフルエンザの流行は長江デルタ地域の経済を直撃し、中国経済全体に悪影響を及ぼしかねない。

また、四川雅安地震は四川省と重慶市の経済に大きな打撃を与えている。鳥インフルエンザの打撃に加える大地震の被害。習近平新体制も今年の中国経済成長もいずれも「多難な船出」と言っても言い過ぎではないと思う。

当局の発表によれば、今年1〜3月期の中国GDP成長率は7.7%で、IMFや世界銀行など国際機関の予測値8%に届かず、昨年第4四半期の7.9%よりも0.2ポイント低い。上述した突発事件の影響で、4〜6期はさらに減速する可能性が高い。

とはいえ、今年の中国経済は失速するという結論には至らない。突発事件は一過性的なもので、長期にわたる悪影響の懸念は低い。鳥インフルエンザの流行は季節性があり、夏以降は収束する確率が高い。今年後半からは震災復興の需要が発生し、逆に経済成長にプラス影響を与える。

さらに、「都市化」と「豊かさ」という経済成長をけん引する2大原動力は今も健在する。今年の中国経済は前半が低く後半が高いという「前低後高」の特徴を示すだろう。個人的には、通年では政府目標の7.5%成長の達成は可能であり、7.5%〜8%に収斂するのではないかと見ている。(了)