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【中国経済論談】
【中国経済論談】
「秘密選挙」の結果から見た中国の党大会人事
多摩大学大学院客員教授 沈 才彬
(日本経営合理化協会「社長のための中国経済コラム」第34話(2012年9月19日配信)
世界に注目される中国の党大会は、今年11月8日に開催されることを正式に発表された。突発的な事件がなければ、国家副主席の習近平氏は11月に党総書記に、来年3月の全人代では国家主席に選出され、10年ぶりに政権交代が実現される。
それでは、習近平氏は前任者に比べ、どこが違うのか? 違うところが多くあるが、最大の相違点は習氏が前任者や党内実力者の指名ではなく、党内の民意の反映というところだと、筆者は見ている。
周知の通り、現国家主席胡錦濤氏はケ小平氏の指名、前国家主席・江沢民もケ小平氏の指名によって中国のトップになったわけである。だが、習近平氏は違う。彼がトップの最有力候補となるのは、前任者の指名ではなく、党内の「民意」と言える。
いわゆる党内の「民意」とは党内の「秘密選挙」の結果を指す。2007年6月25日、中国共産党内部の「秘密投票」が行われた。投票資格者は現役閣僚・地方政府トップ、軍高官、退職された党と国家の指導者ら400人。この400人の手元に「次期党中央政治局委員推薦リスト」が配られ、リストに載っているのは約200人。条件は次の2つ。1つは年齢で60歳以下、2つ目は役職が副大臣級(地方では副知事)以上。400人の投票資格者たちは実績、学歴、人柄などの判断基準で、無記名投票で自分の気になる人物を選ぶ。
この「秘密選挙」の結果、ダントツ1位で当選したのは、当時、上海市書記を務める習近平氏である。これはいわゆる党内の民意である。実質的には、この時点で胡錦濤国家主席の後任が決められた訳である。4ヵ月後、習氏は中国共産党の全国代表大会で中央政治局常務委員(党内序列6位)に正式に選出された。さらに、半年後の08年3月の全人代で国家副主席に選ばれた。
今年7月24日、現役閣僚・地方政府トップ、軍高官、退職された党と国家指導者ら428人が北京に集まり、再び「次期政治局委員」選出のための「秘密選挙」を行った(実際、有効投票者数は406人)。一回目の投票で20%以上の指名を獲得する人は、候補者リストに載せ、党大会に推薦されることになる。
投票結果 41人が得票率20%超える。なお、引退予定者を除く現役現政治局委員・書記局書記、国務委員の得票数は下記の通り。
@王岐山(副首相) 381票
A習近平(国家副主席) 362票
B李源潮(党組織部長) 341票
C孟建柱(国務委員、公安部長)282票
D劉延東(女性、国務委員) 278票
E李克強(筆頭副首相) 270票
F令計画(書記局書記) 244票
G李建国(全人代副委員長) 222票
H王滬寧(書記局書記) 207票(以上、得票率が過半数超)
I馬 凱(国務委員) 201票
J張徳江(副首相、重慶市書記)160票
K汪洋(広東省書記) 156票
L劉雲山(党宣伝部長) 150票
M兪正声(上海市書記) 148票
N張高麗(天津市書記) 131票
この結果から見れば、習近平、李克強、王岐山、李源潮ら4人が高い得票率を得ており、次期政治局常務委員になるのはほぼ確実となり、動かない状態となっている。一方、執行部入りと有力視されてきた張徳江(副首相、重慶市書記)、汪洋(広東省書記)、兪正声(上海市書記)、張高麗(天津市書記)及び劉雲山(党宣伝部長)ら5人はいずれも得票数が過半数に届かず、常務委員になれるかどうかは、微妙である。なお、劉延東・国務委員は女性として、初の政治局常務委員になる可能性も出てくる。
もちろん、このような「秘密選挙」はあくまでも予備選挙の性格を持つものであり、次期中央執行部人選は最終的に党代表大会の正式選挙を経ないと決められない。しかし、これまでの経験から見れば、よほどのことがなければ、この「秘密選挙」の結果を覆すことはない。習近平氏は次期総書記、李克強氏が次期首相という新体制の誕生はほぼ確実と見ていい。
日本の方々は一般的に「共産党独裁だから、民主主義が存在しない」というイメージを持っている。しかし、上述した2回の秘密選挙から見れば、中国共産党内にはある程度民主主義が存在することがわかる。勿論、この民主主義は限られるものであり、「コップの中の民主主義」と言わざるを得ない。
(了)